9 / 98
天使は甘いキスが好き
しおりを挟む
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
「けいにいちゃん…」
恵は伊吹の声を振り切る様に、外へ出た。十和子は伊吹を連れてリビングに戻ると、食事の席に着かせて自分は台所で食器洗いをし始める。
「ちゃんとニンジン食べるのよ? 伊吹」
「…うん…」
フォークで突いていたニンジンを、意を決して口に放り込むと、牛乳と一緒に飲み込んだ。
学校に近付くにつれて、生徒達のあいさつが聞こえる。
「おす、なんだよ朝から沈んだ顔して」
小学校からの腐れ縁で、同じクラスの平片裕太が恵の顔を覗き込む。恵は長い睫毛に茶色い瞳。可愛い顔に反して言葉はガサツ。それでも、裏表の無い恵の優しい性格は、クラスの人気者だ。平片は恵の親友だと自慢しながら、この男にしておくには勿体ないと、嘆く男子達の恵のファンのひとりだった。
「…おはよう」
ーーーご、ご機嫌斜め?。
平片は眉根を上げて、恵の前席の椅子を引いて腰を下ろした。いつも天使の微笑を無駄に放っていた王子様は、今日はご機嫌が悪い。当の恵も、クラスメイトの反応に苛付いていた。恵は平片を一瞥して溜息を吐く。恵は仕方なく女子達に向かって微笑んだ。恵の動作に女子達が、逐一チェックして騒ぎ出す。
ーーーすげぇ反応。
恵は鞄の中から教科書等を出して、机の中にしまい込むとチラと平片を一瞥。平片は野球部のキャプテンで、一汗掻いた後らしく、肩にタオルを掛けていた。朝練を欠かさない熱血スポーツマンだ。鍛え上げられた筋肉は、制服に着替えたその下に隠されているのが判る。恵から云わせれば、女性徒の目線は常に平片を追っていた。男子達からも人気があるこの男は、毎日厭きもせずに恵に構ってくる。 今時の女生徒達は、流行のホモとやらに妄想を膨らませ、『恵君と裕太君を見守る会』なる物が、いつの間にやら結成されていた。
「別に、ちょっとな」
「なんだよ気になるな。あ、そうだもしかしてアレ、溜まってんのか?」
妙な言葉に恵はキョトンとする。傍にいた女生徒がキャーと頬を染めて、騒ぎ出す。【アレ】で何か解ってポッと顔が熱くなった。
「細川、顔真っ赤だぞ」
からかい混じりに参戦して来た他の友人達が二人、恵の背をバンバン叩く。恵はあっちへ行けと手で追い払おうとするが、聞く訳が無い。この連中も小学校の頃からの腐れ縁で、よく一緒に騒ぐ連中だ。
「あのさぁ。週末に俺の家でパーティしようぜ? その日親が旅行で居ないんだ」
「すげぇ! 泊まりか。久しぶりだな。やっぱアレもおまけ付き?」
恵は訳が判らず首を傾げた。
ーーーおまけ???
「何々? 泊まり? うちらも入れてよ」
女生徒が三人割って入る。平片は両手でバッテンの動作をした。
「だ~め。女子禁止」
女子達三人がブーイングする。
「え~なんで? 恵君も行くんでしょ? まぜてよ!」
「男の子限定」
他の男子がニヤリと笑う。そこで女生徒達は気付いたのか、頬を染めて「すけべ」と云うと、そそくさと立ち去った。
ーーーなんだぁ?
恵は眉根を寄せて平片の腕を引っ張る。
「なんだ? 何か隠してるな?」
ーーーおいおい、女子が気付いたのに、なんでお前さんは気付かないのか?
天然なのか純粋なのか。どちらでも当て嵌まる恵を可愛い等と、云ったらその瞬間恵に殴られそうだ。
「それはな」
平片は云おうか云うまいか暫し考える。平片同様、他の二人も顔を見合わせた。恵は平片の家に泊まった事が無いので、取り合えず訊く。毎回誘われるのだが、伊吹がついて来たがるので、友人に迷惑だろうと誘いを断っていたのだ。どこまでも伊吹思いの【お兄ちゃん】なのだ。伊吹の大きなウルルン瞳にノックダウンされて、毎回玄関で諦めて、携帯で平片に侘びの連絡を入れていた。
「今回も伊吹がついて行くと云いそうだな」
恵は申し訳ないと云う。
「なんとか出て来れないか? 来年高校だろ? なんとか十和子さんに頼んでさ」
中学最後の思い出にと、平片は珍しく引かなかった。
「訊くだけ訊いてはみるけど…それより、さっきのおまけってなんだよ」
男が三人眼を合わせて、恵を教室の隅に連れて行く。恵は訳が解らず慌てた。
「なんだ? え?」
平片は恵の両肩に手を置く。
「恵君君は男だ」
平片が云う。その顔は気味が悪いほどにニヤついていた。
「けいにいちゃん…」
恵は伊吹の声を振り切る様に、外へ出た。十和子は伊吹を連れてリビングに戻ると、食事の席に着かせて自分は台所で食器洗いをし始める。
「ちゃんとニンジン食べるのよ? 伊吹」
「…うん…」
フォークで突いていたニンジンを、意を決して口に放り込むと、牛乳と一緒に飲み込んだ。
学校に近付くにつれて、生徒達のあいさつが聞こえる。
「おす、なんだよ朝から沈んだ顔して」
小学校からの腐れ縁で、同じクラスの平片裕太が恵の顔を覗き込む。恵は長い睫毛に茶色い瞳。可愛い顔に反して言葉はガサツ。それでも、裏表の無い恵の優しい性格は、クラスの人気者だ。平片は恵の親友だと自慢しながら、この男にしておくには勿体ないと、嘆く男子達の恵のファンのひとりだった。
「…おはよう」
ーーーご、ご機嫌斜め?。
平片は眉根を上げて、恵の前席の椅子を引いて腰を下ろした。いつも天使の微笑を無駄に放っていた王子様は、今日はご機嫌が悪い。当の恵も、クラスメイトの反応に苛付いていた。恵は平片を一瞥して溜息を吐く。恵は仕方なく女子達に向かって微笑んだ。恵の動作に女子達が、逐一チェックして騒ぎ出す。
ーーーすげぇ反応。
恵は鞄の中から教科書等を出して、机の中にしまい込むとチラと平片を一瞥。平片は野球部のキャプテンで、一汗掻いた後らしく、肩にタオルを掛けていた。朝練を欠かさない熱血スポーツマンだ。鍛え上げられた筋肉は、制服に着替えたその下に隠されているのが判る。恵から云わせれば、女性徒の目線は常に平片を追っていた。男子達からも人気があるこの男は、毎日厭きもせずに恵に構ってくる。 今時の女生徒達は、流行のホモとやらに妄想を膨らませ、『恵君と裕太君を見守る会』なる物が、いつの間にやら結成されていた。
「別に、ちょっとな」
「なんだよ気になるな。あ、そうだもしかしてアレ、溜まってんのか?」
妙な言葉に恵はキョトンとする。傍にいた女生徒がキャーと頬を染めて、騒ぎ出す。【アレ】で何か解ってポッと顔が熱くなった。
「細川、顔真っ赤だぞ」
からかい混じりに参戦して来た他の友人達が二人、恵の背をバンバン叩く。恵はあっちへ行けと手で追い払おうとするが、聞く訳が無い。この連中も小学校の頃からの腐れ縁で、よく一緒に騒ぐ連中だ。
「あのさぁ。週末に俺の家でパーティしようぜ? その日親が旅行で居ないんだ」
「すげぇ! 泊まりか。久しぶりだな。やっぱアレもおまけ付き?」
恵は訳が判らず首を傾げた。
ーーーおまけ???
「何々? 泊まり? うちらも入れてよ」
女生徒が三人割って入る。平片は両手でバッテンの動作をした。
「だ~め。女子禁止」
女子達三人がブーイングする。
「え~なんで? 恵君も行くんでしょ? まぜてよ!」
「男の子限定」
他の男子がニヤリと笑う。そこで女生徒達は気付いたのか、頬を染めて「すけべ」と云うと、そそくさと立ち去った。
ーーーなんだぁ?
恵は眉根を寄せて平片の腕を引っ張る。
「なんだ? 何か隠してるな?」
ーーーおいおい、女子が気付いたのに、なんでお前さんは気付かないのか?
天然なのか純粋なのか。どちらでも当て嵌まる恵を可愛い等と、云ったらその瞬間恵に殴られそうだ。
「それはな」
平片は云おうか云うまいか暫し考える。平片同様、他の二人も顔を見合わせた。恵は平片の家に泊まった事が無いので、取り合えず訊く。毎回誘われるのだが、伊吹がついて来たがるので、友人に迷惑だろうと誘いを断っていたのだ。どこまでも伊吹思いの【お兄ちゃん】なのだ。伊吹の大きなウルルン瞳にノックダウンされて、毎回玄関で諦めて、携帯で平片に侘びの連絡を入れていた。
「今回も伊吹がついて行くと云いそうだな」
恵は申し訳ないと云う。
「なんとか出て来れないか? 来年高校だろ? なんとか十和子さんに頼んでさ」
中学最後の思い出にと、平片は珍しく引かなかった。
「訊くだけ訊いてはみるけど…それより、さっきのおまけってなんだよ」
男が三人眼を合わせて、恵を教室の隅に連れて行く。恵は訳が解らず慌てた。
「なんだ? え?」
平片は恵の両肩に手を置く。
「恵君君は男だ」
平片が云う。その顔は気味が悪いほどにニヤついていた。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
【BL】はるおみ先輩はトコトン押しに弱い!
三崎こはく
BL
サラリーマンの赤根春臣(あかね はるおみ)は、決断力がなく人生流されがち。仕事はへっぽこ、飲み会では酔い潰れてばかり、
果ては29歳の誕生日に彼女にフラれてしまうというダメっぷり。
ある飲み会の夜。酔っ払った春臣はイケメンの後輩・白浜律希(しらはま りつき)と身体の関係を持ってしまう。
大変なことをしてしまったと焦る春臣。
しかしその夜以降、律希はやたらグイグイ来るように――?
イケメンワンコ後輩×押しに弱いダメリーマン★☆軽快オフィスラブ♪
※別サイトにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる