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天使は甘いキスが好き
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「うん! ぼくおにいちゃんになるの! あかちゃんがうまれたら、けいにいちゃんみたいにやさしいおにいちゃんになるんだ。おかさんのおてつだいもいっぱいするよ? ぼくのおうちきっさてんだから、いまはおばあちゃんがおみせにでてるけど、ぼくもおてつだいしてるの。きのうもおとなりのおばちゃんがきてくれたから、ぼくおしぼりだしたんだ。そしたら『偉いね』ってほめられちゃった」
えへへっと、頬を染めて沼田に話して聞かせてくれた。沼田は子供の笑顔が見れるのが嬉しい。沼田はひとりっ子のせいも有るのか、保育士は天職だと豪語する。 必死に『人間心理学』を学び、ピアノを所有する友人に頼んで、ピアノが弾けるように頑張った。
国家試験を受けて夢が叶った時の喜びは、多分一生忘れないだろう。
将来伊吹はどんな大人になるのか。 このまま素直な優しい子に育って欲しい。
「それは凄いな。じゃあ先生から頑張ってる伊吹君に、先生のお菓子をおすそ分けしてあげよう」
その言葉に、伊吹は大きな瞳をキラキラと輝かせて立ち上がる。
「おかし! おすそわけ、おすそわけ!」
「皆には内緒だよ?」
「うん!」
二人は顔を寄せ合わせて、お互い自分の人差し指を自分の唇に当てる。伊吹はワクワクしながら、先を歩く沼田に駆け寄り、職員室へ向かう。沼田は自分もいつか結婚したら、こんな可愛い子が産まれたら良いなと、ふと思った。
ーーー綺麗な奥さんに、子供は何人かな。 沼田は自分の将来を思い描いては、くすぐったさに頬が緩む。
「チョコレートとクッキーどっちが…」
園長室の前を通り掛けた時、沼田は伊吹を振り返りながら話し掛ける。とそこへ、園長室から園長先生がひょっこりと顔を出した。伊吹もつられて振り返る。
「沼田先生」
園長はにっこりと微笑んだ。伊吹はお菓子が貰えるか心配になり掛けた。此処で沼田を呼び止めたからには、何か有ると勘付く。伊吹の勘は鋭く、嫌な予感は良く当たる。自然と肩をガクリと落とした。
「沼田先生良い所で捕まえた。急なんですけど、明日から新しい園児がひとり加わりますから。先生のクラスに入りますからね」
当保育園は赤ちゃんクラスが二クラス、年少クラスから年長クラスまで三クラスずつまで在る。沼田の請け負うクラスは、丁度ひとり引越しで抜けた為、沼田の担当する年長クラスの【ばらぐみ】が選ばれたのだろう。一クラス二十五人だから、然程苦では無い。
「そうなんですか? また急ですね」
「えぇ。今ちょうどいらしてるから、紹介します」
伊吹はあぁやっぱりと、肩を落とした。お菓子が貰えない、イコールまたの機会になる。沼田は伊吹の茶色い髪に手を当てた。
「ごめんね伊吹君」
ーーーえ~。
伊吹は嫌そうな顔をする。沼田は安易に子供と約束をする物ではないと、遅かりしと気付いた。お菓子をあげると云って、後回しになるのだから。がっかりさせた申し訳なさに、罪悪感をヒシヒシと感じる。が、そこへ伊吹のウルルン攻撃をまともに喰らったのだ。名付けて『伊吹のお願いポーズ』である。女子園児が、おまま事に『夫』役を伊吹にご指名する訳だ。可愛すぎると沼田は思う。
「あ、はい」
伊吹は二人の会話を聞きながら、沼田を見上げた。沼田は緊張した様子。伊吹はお菓子が貰えなくなった気配に、眉根を寄せる。園長先生はそんな伊吹を見て、ほくそ笑んだ。
「伊吹君も丁度良いから、新しいお友達を紹介しましょうね?」
「おともだち?」
伊吹はキョトンとした顔で園長先生を見上げ、お菓子の存在を忘れるほど身体を園長室の中に乗り出した。それに気付いた長身の男性がソファから立ち上がる。サラリーマン風のキチンとしたスーツで、顔もカッコイイ。伊吹が女の子なら飛び上がる程喜びそうなその人は、伊吹を見て微笑んだ。何やら隣に在る職員室からも、若い保育士が二人こちらを伺っている。どうやら、この男性が気になる様だと、沼田は呆れて肩を竦めた。
「沼田先生」
「あ、はい」
呼ばれて沼田も伊吹に続いて園長室に入る。お辞儀をして顔を上げれば、成る程男の沼田でさえ、引き付けられる【男】の魅了が伺えた。
「はじめまして玉木といいます。急な入園ですみません」
「いえとんでもないです。こちらこそ宜しくお願いします」
玉木の後ろに隠れていた男の子に眼を向ける。それに気付いた玉木は、息子の頭を一掴みに掴むと、グイっと前に突き出した。その拍子に、伊吹の眼前に男の子の顔と付き向き合わされる形になり、双方ともビックリ眼だ。
「息子の英治です。ひとり息子のせいか乱暴者で育ってしまいまして。色々とご迷惑をお掛けするかと思いますが、何とぞ宜しくお願いします」
えへへっと、頬を染めて沼田に話して聞かせてくれた。沼田は子供の笑顔が見れるのが嬉しい。沼田はひとりっ子のせいも有るのか、保育士は天職だと豪語する。 必死に『人間心理学』を学び、ピアノを所有する友人に頼んで、ピアノが弾けるように頑張った。
国家試験を受けて夢が叶った時の喜びは、多分一生忘れないだろう。
将来伊吹はどんな大人になるのか。 このまま素直な優しい子に育って欲しい。
「それは凄いな。じゃあ先生から頑張ってる伊吹君に、先生のお菓子をおすそ分けしてあげよう」
その言葉に、伊吹は大きな瞳をキラキラと輝かせて立ち上がる。
「おかし! おすそわけ、おすそわけ!」
「皆には内緒だよ?」
「うん!」
二人は顔を寄せ合わせて、お互い自分の人差し指を自分の唇に当てる。伊吹はワクワクしながら、先を歩く沼田に駆け寄り、職員室へ向かう。沼田は自分もいつか結婚したら、こんな可愛い子が産まれたら良いなと、ふと思った。
ーーー綺麗な奥さんに、子供は何人かな。 沼田は自分の将来を思い描いては、くすぐったさに頬が緩む。
「チョコレートとクッキーどっちが…」
園長室の前を通り掛けた時、沼田は伊吹を振り返りながら話し掛ける。とそこへ、園長室から園長先生がひょっこりと顔を出した。伊吹もつられて振り返る。
「沼田先生」
園長はにっこりと微笑んだ。伊吹はお菓子が貰えるか心配になり掛けた。此処で沼田を呼び止めたからには、何か有ると勘付く。伊吹の勘は鋭く、嫌な予感は良く当たる。自然と肩をガクリと落とした。
「沼田先生良い所で捕まえた。急なんですけど、明日から新しい園児がひとり加わりますから。先生のクラスに入りますからね」
当保育園は赤ちゃんクラスが二クラス、年少クラスから年長クラスまで三クラスずつまで在る。沼田の請け負うクラスは、丁度ひとり引越しで抜けた為、沼田の担当する年長クラスの【ばらぐみ】が選ばれたのだろう。一クラス二十五人だから、然程苦では無い。
「そうなんですか? また急ですね」
「えぇ。今ちょうどいらしてるから、紹介します」
伊吹はあぁやっぱりと、肩を落とした。お菓子が貰えない、イコールまたの機会になる。沼田は伊吹の茶色い髪に手を当てた。
「ごめんね伊吹君」
ーーーえ~。
伊吹は嫌そうな顔をする。沼田は安易に子供と約束をする物ではないと、遅かりしと気付いた。お菓子をあげると云って、後回しになるのだから。がっかりさせた申し訳なさに、罪悪感をヒシヒシと感じる。が、そこへ伊吹のウルルン攻撃をまともに喰らったのだ。名付けて『伊吹のお願いポーズ』である。女子園児が、おまま事に『夫』役を伊吹にご指名する訳だ。可愛すぎると沼田は思う。
「あ、はい」
伊吹は二人の会話を聞きながら、沼田を見上げた。沼田は緊張した様子。伊吹はお菓子が貰えなくなった気配に、眉根を寄せる。園長先生はそんな伊吹を見て、ほくそ笑んだ。
「伊吹君も丁度良いから、新しいお友達を紹介しましょうね?」
「おともだち?」
伊吹はキョトンとした顔で園長先生を見上げ、お菓子の存在を忘れるほど身体を園長室の中に乗り出した。それに気付いた長身の男性がソファから立ち上がる。サラリーマン風のキチンとしたスーツで、顔もカッコイイ。伊吹が女の子なら飛び上がる程喜びそうなその人は、伊吹を見て微笑んだ。何やら隣に在る職員室からも、若い保育士が二人こちらを伺っている。どうやら、この男性が気になる様だと、沼田は呆れて肩を竦めた。
「沼田先生」
「あ、はい」
呼ばれて沼田も伊吹に続いて園長室に入る。お辞儀をして顔を上げれば、成る程男の沼田でさえ、引き付けられる【男】の魅了が伺えた。
「はじめまして玉木といいます。急な入園ですみません」
「いえとんでもないです。こちらこそ宜しくお願いします」
玉木の後ろに隠れていた男の子に眼を向ける。それに気付いた玉木は、息子の頭を一掴みに掴むと、グイっと前に突き出した。その拍子に、伊吹の眼前に男の子の顔と付き向き合わされる形になり、双方ともビックリ眼だ。
「息子の英治です。ひとり息子のせいか乱暴者で育ってしまいまして。色々とご迷惑をお掛けするかと思いますが、何とぞ宜しくお願いします」
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