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神同人作家と陸くんは嫉妬する
モヤモヤはらし
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翌日の夜。藤田に夕飯に誘われて行くことにした。由宇さんはドラマの打ち合わせ後に、大須賀くんたちと会食だそう。ウキウキ様子が分かるメールの内容に、ちょっとモヤモヤしていたから気分転換にちょうどいい。
仕事が終わり、駅の近くの高架下にあるイタリアンの店にはいった。席に通され、オーダーした飲み物でお疲れ様と乾杯。そして一瞬、沈黙が流れた。
「……昨日は驚いたね」
藤田は少し照れくさそうに笑いながらそう言う。その表情に僕はホッとした。もしかしたら僕に知られたことが嫌で口止めされるかもと心配していたからだ。
昨日、フクミチ先生が藤田だと知った瞬間僕は大声を出しそうになったけど、グッとこらえた。周りにいた永田くんにばれてはいけないと、咄嗟に思ったから。作家のプライベートは守らないとね。
「うん。まさか藤田がフクミチ先生だなんて思わなかったし、同僚があの場にいるなんて」
「榎波だと気がついた時に倒れるかと思ったよ」
二人で顔を見合わせ、大笑いする。笑ったら急にお腹が空いてきて、目の前のアヒージョに箸を伸ばした。熱々のエビがぷりぷりで美味しい。
それからぼくらは各々の『腐男子遍歴』を語り合う。藤田は学生のころからBLが好きで、自分の萌えを詰め込んだ処女作を某BL誌の小説コンテストに出し、見事大賞を受賞した。同人誌即売会に参加しなかったのは、商業で書くことに満足していて同人誌と出すという考えがなかったらしい。だけど他のBL作家が商業のスピンオフを同人誌にしているのを見て、興味が湧き、いつもと違うジャンルの作品を同人誌にしてみたら思わぬ反響に驚いたと言う。
「フクミチ先生はリアルサイン会ないよね。あんなに売れてるのに」
「編集部から話はあったんだけどね……日程が合わなかったのと、書いているのが男性なんだって嫌がられるかなって思って」
「そんな。男性なら、高西ユウ先生もいるじゃん」
「俺、高西先生に会ったことないんだけど、読者さんたちがイケメンだって騒いでたのSNSで見たよ。かっこいいならまだしも、俺みたいな平凡な顔なんてさあ」
眉毛が太く垂れ目な藤田はほんかわとした印象だ。スパイラルパーマで銀縁のメガネをかけていて、僕よりはおしゃれだからそんな卑下しなくてもいいのに。……まあ高西先生は確かに君よりかっこいいですけど、と心の中で呟く。
「即売会は楽しかった?」
「うん。とても! またどこかでサークル参加してみようかな」
「よかった!」
藤田は笑顔を見せグラスを傾けてきたので、再度乾杯をする。そしてラストオーダーの時間になるくらいまで楽しい時間を過ごした。
【Jパーク】まであと二ヶ月となったころ。【君の熱を僕に分けて】のドラマが公開された。評判はかなりよくて、BLドラマというよりも恋愛ドラマとしてヒットとなった。いま売れ筋の大須賀くんを目当てに見る視聴者が多いようだけど『BLってこんなに尊いものなのか』とこのドラマからBLを読むようになった人も増えたようだ。
由宇さんの仕事はさらに増え、今月なんて数えるほどしか会えなかった。だから、僕はその寂しさを埋めるかのように藤田と飲みに行くことが増えたのだ。
そしてこの日もまた藤田のオススメのアジア料理屋で飲んでいた。さてそろそろ帰ろうかという話になり、藤田がトイレに行っている間、スマホを見る。由宇さんはいつも僕が飲み会の日は呆れるくらい、心配してくれる。まだ帰ってないの、とかちゃんと帰ったのとか。そんなメッセージが嬉しかったんだけど今日は一件だけ。そういえば今夜も大須賀くんたちと会食だったっけ。だからメッセージできる時間も取れないのだろう。
壁に吊るしてある時計を見るとあと数分で日付が変わる。まだ盛り上がっているのだろうか。
さっきまでの楽しかった時間が、隅に追いやられてじわじわと苦い気持ちが広がってくる。ちょっと仲良しすぎなんじゃないの、なんて。
「榎波、お待たせ」
戻ってきた藤田の声でわれにかえった。とりあえず家に帰って連絡してみよう。そう思いながら僕は財布を取り出して藤田と一緒に席を後にした。だけどその日、結局由宇さんと連絡が繋がることはなかったんだ。
仕事が終わり、駅の近くの高架下にあるイタリアンの店にはいった。席に通され、オーダーした飲み物でお疲れ様と乾杯。そして一瞬、沈黙が流れた。
「……昨日は驚いたね」
藤田は少し照れくさそうに笑いながらそう言う。その表情に僕はホッとした。もしかしたら僕に知られたことが嫌で口止めされるかもと心配していたからだ。
昨日、フクミチ先生が藤田だと知った瞬間僕は大声を出しそうになったけど、グッとこらえた。周りにいた永田くんにばれてはいけないと、咄嗟に思ったから。作家のプライベートは守らないとね。
「うん。まさか藤田がフクミチ先生だなんて思わなかったし、同僚があの場にいるなんて」
「榎波だと気がついた時に倒れるかと思ったよ」
二人で顔を見合わせ、大笑いする。笑ったら急にお腹が空いてきて、目の前のアヒージョに箸を伸ばした。熱々のエビがぷりぷりで美味しい。
それからぼくらは各々の『腐男子遍歴』を語り合う。藤田は学生のころからBLが好きで、自分の萌えを詰め込んだ処女作を某BL誌の小説コンテストに出し、見事大賞を受賞した。同人誌即売会に参加しなかったのは、商業で書くことに満足していて同人誌と出すという考えがなかったらしい。だけど他のBL作家が商業のスピンオフを同人誌にしているのを見て、興味が湧き、いつもと違うジャンルの作品を同人誌にしてみたら思わぬ反響に驚いたと言う。
「フクミチ先生はリアルサイン会ないよね。あんなに売れてるのに」
「編集部から話はあったんだけどね……日程が合わなかったのと、書いているのが男性なんだって嫌がられるかなって思って」
「そんな。男性なら、高西ユウ先生もいるじゃん」
「俺、高西先生に会ったことないんだけど、読者さんたちがイケメンだって騒いでたのSNSで見たよ。かっこいいならまだしも、俺みたいな平凡な顔なんてさあ」
眉毛が太く垂れ目な藤田はほんかわとした印象だ。スパイラルパーマで銀縁のメガネをかけていて、僕よりはおしゃれだからそんな卑下しなくてもいいのに。……まあ高西先生は確かに君よりかっこいいですけど、と心の中で呟く。
「即売会は楽しかった?」
「うん。とても! またどこかでサークル参加してみようかな」
「よかった!」
藤田は笑顔を見せグラスを傾けてきたので、再度乾杯をする。そしてラストオーダーの時間になるくらいまで楽しい時間を過ごした。
【Jパーク】まであと二ヶ月となったころ。【君の熱を僕に分けて】のドラマが公開された。評判はかなりよくて、BLドラマというよりも恋愛ドラマとしてヒットとなった。いま売れ筋の大須賀くんを目当てに見る視聴者が多いようだけど『BLってこんなに尊いものなのか』とこのドラマからBLを読むようになった人も増えたようだ。
由宇さんの仕事はさらに増え、今月なんて数えるほどしか会えなかった。だから、僕はその寂しさを埋めるかのように藤田と飲みに行くことが増えたのだ。
そしてこの日もまた藤田のオススメのアジア料理屋で飲んでいた。さてそろそろ帰ろうかという話になり、藤田がトイレに行っている間、スマホを見る。由宇さんはいつも僕が飲み会の日は呆れるくらい、心配してくれる。まだ帰ってないの、とかちゃんと帰ったのとか。そんなメッセージが嬉しかったんだけど今日は一件だけ。そういえば今夜も大須賀くんたちと会食だったっけ。だからメッセージできる時間も取れないのだろう。
壁に吊るしてある時計を見るとあと数分で日付が変わる。まだ盛り上がっているのだろうか。
さっきまでの楽しかった時間が、隅に追いやられてじわじわと苦い気持ちが広がってくる。ちょっと仲良しすぎなんじゃないの、なんて。
「榎波、お待たせ」
戻ってきた藤田の声でわれにかえった。とりあえず家に帰って連絡してみよう。そう思いながら僕は財布を取り出して藤田と一緒に席を後にした。だけどその日、結局由宇さんと連絡が繋がることはなかったんだ。
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