7 / 9
7.プライドを投げての、一世一代の告白
しおりを挟む
風は海上よりましだが、まだまだ冷たい。こりゃ真冬の釣りなんて無理だなと音無が笑いながら鳳の顔を見ると、なんだか考え込んでいた。鳳は考え込む時、口元に手をやることがある。音無は不思議に思いながら、そのまま黙って海を見ていた。
数分、二人でそうやって波の音を聞いていると、ようやく鳳が口を開いた。
「なあ、音無。言いたかったことがあるんだ」
「何?」
いつになく真面目な顔をしているものだから、音無は思わず息を呑んだ。なんだろう、何か悪い話の予感がする、と動悸が激しくなる。
「…俺たちセックスするの、やめないか」
朝の話題にふさわしくない話に、思わず音無はコーヒーを落としそうになった。そしてふと気がついた。
(最近ホテル行かなかったのも、終電気にして時計を見るようになったのも…。いい奴ができたからだったのか)
音無は眉を潜める。胸がちくちくして痛い。いい歳のリーマンが高校生のように動揺して言葉が出ない。だが、音無はなんとか虚勢を張ろうとする。
「朝っぱらからすごい話だな。別にそんな宣言、しなくたっていいし、俺に飽きたんならほっておいてくれていいぜ?ようやく恋人なしの人生におさらばか?」
人は虚勢を張ると、どうして早口になり余計なことを話してしまうのだろう。
音無は自分で話しながら目の縁が熱くなっていることに気づいて慌てて顔を見られないように、背けた。
泣いたところで、どうにもならない。今更惚れてますなんて言える訳がない。こんなことなら最後でもセックスしておけばよかった。
そんなことを音無は思いながら項垂れる。
すると、鳳は慌てた様子で答えた。
「ち、違う。そうじゃなくって」
「何言い訳してんだよ。別にいいって言ってんだろ、俺らただのセフレだし。あ、でも船釣りは俺が慣れるまでもう少し付き合って…」
「違うって言ってるだろ!」
鳳の大きな声に、音無は驚く。こんなに大きな声を聞いたのは、初めてだったからだ。驚く音無の頭を無理やり自分の方に向ける鳳。
「言い方、間違えた。セフレをやめてほしいんだ」
その傷に塩を塗るような言葉に、音無はカチンときて声を荒げる。
「…どう間違ってんだよ、同じだろ!」
「わかれよ、馬鹿!」
突然鳳が顔を近づけてきて、音無の唇にキスしてきた。突然のことで、音無は目を開いたまま硬直する。
もちろん鳳とキスしたことは今までセックス中に何度もあるがホテル以外でキスをしたことは一度もない。
ましてやさっきの話題でどうしてキスされたのか分からず、音無はパニックに陥っていた。
唇が離れると鳳はじっと音無しの目を覗き込んで、一つ小さなため息をついた。そして何か決意したように言葉を発する。
「セフレじゃなくて、付き合ってほしいんだ」
耳元で囁くかのような、小さな声。いつも自信満々に話す鳳の声と違う。音無はあまりに驚いて微動だにできない。
幻聴なのでは、と思ってしまうほど、鳳の言葉に実感が湧かない。何故ならそんなそぶりを見せなかったから、頭の中はパニックだ。
しばらくの沈黙のあとに、ようやく音無は口を開く。
「…お前、俺が好きなの」
「そう言うことになるな」
吐き捨てるように答えて、鳳は顔を背けてしまう。
まさか、鳳がそんなことを思っていたなんて全く気がつかなかった。惚れてしまったのは、自分の方だけだろうと思っていた。だから鳳に気持ちを打ち明けるつもりはなかったのに。
プライドを投げての、一世一代の告白。
海風が頬を撫でる。さっきまで冷たくなっていた頬がどんどんと熱を帯びていくことに気づく。音無はようやく実感が湧いてきて、ゆっくりと手を伸ばし、後ろを向いている鳳の後頭部に触れた。耳と首筋が真っ赤になっている。
もう居ても立っても居られなくなり、音無は背後から鳳を抱きしめるとその体がビクッと揺れた。そして音無は鳳の耳元に口を近づけてこう囁く。
「じゃあ、セフレとしての最後のセックスと、恋人としての最初のセックス、しよう」
鳳の高級車はそのままラブホテルの駐車場に滑り込んだ。男同士が入れるホテルかどうか、など全く見る余裕はなかった。部屋を適当に選び、鍵を開けて入る。
「なあ、鳳。申し訳ないんだけどさ、俺お前の名前覚えてないんだけど、教えてくれる?どうせお前も覚えてないだろ」
「音無紘也だろ。俺は覚えてた」
「へ」
「優って呼べよ、紘也」
上着を脱ぐこともなく、キスをする。
「ん…」
甘いキスに腰が砕けそうになる。今までの行為と何一つ、変わらないはずなのにセフレと恋人だとキス一つでもこんなに変わるものなのか。それなら、今から味わう『恋人のセックス』はどんなに甘くて官能的なのだろうか。音無は期待に体を震わせた。
長いキスを終えると、二人は見つめ合い互いに笑った。初めてホテルに行ったとき、シャワーもせずに先に進もうとした音無に、鳳が眉をひそめたはずなのに、今日は鳳がもう音無の首筋を舐めてそのまま続けようとしていた。
「どんだけ、がっついてんだよ」
音無が苦笑いしながら聞くと、鳳は耳朶を噛んだ。
「早く一つになりたい」
「うわ、キザな言い方だな」
「好きなくせに」
「…まあな嫌いじゃない」
音無の答えに、鳳は満足したような笑顔を見せた。
数分、二人でそうやって波の音を聞いていると、ようやく鳳が口を開いた。
「なあ、音無。言いたかったことがあるんだ」
「何?」
いつになく真面目な顔をしているものだから、音無は思わず息を呑んだ。なんだろう、何か悪い話の予感がする、と動悸が激しくなる。
「…俺たちセックスするの、やめないか」
朝の話題にふさわしくない話に、思わず音無はコーヒーを落としそうになった。そしてふと気がついた。
(最近ホテル行かなかったのも、終電気にして時計を見るようになったのも…。いい奴ができたからだったのか)
音無は眉を潜める。胸がちくちくして痛い。いい歳のリーマンが高校生のように動揺して言葉が出ない。だが、音無はなんとか虚勢を張ろうとする。
「朝っぱらからすごい話だな。別にそんな宣言、しなくたっていいし、俺に飽きたんならほっておいてくれていいぜ?ようやく恋人なしの人生におさらばか?」
人は虚勢を張ると、どうして早口になり余計なことを話してしまうのだろう。
音無は自分で話しながら目の縁が熱くなっていることに気づいて慌てて顔を見られないように、背けた。
泣いたところで、どうにもならない。今更惚れてますなんて言える訳がない。こんなことなら最後でもセックスしておけばよかった。
そんなことを音無は思いながら項垂れる。
すると、鳳は慌てた様子で答えた。
「ち、違う。そうじゃなくって」
「何言い訳してんだよ。別にいいって言ってんだろ、俺らただのセフレだし。あ、でも船釣りは俺が慣れるまでもう少し付き合って…」
「違うって言ってるだろ!」
鳳の大きな声に、音無は驚く。こんなに大きな声を聞いたのは、初めてだったからだ。驚く音無の頭を無理やり自分の方に向ける鳳。
「言い方、間違えた。セフレをやめてほしいんだ」
その傷に塩を塗るような言葉に、音無はカチンときて声を荒げる。
「…どう間違ってんだよ、同じだろ!」
「わかれよ、馬鹿!」
突然鳳が顔を近づけてきて、音無の唇にキスしてきた。突然のことで、音無は目を開いたまま硬直する。
もちろん鳳とキスしたことは今までセックス中に何度もあるがホテル以外でキスをしたことは一度もない。
ましてやさっきの話題でどうしてキスされたのか分からず、音無はパニックに陥っていた。
唇が離れると鳳はじっと音無しの目を覗き込んで、一つ小さなため息をついた。そして何か決意したように言葉を発する。
「セフレじゃなくて、付き合ってほしいんだ」
耳元で囁くかのような、小さな声。いつも自信満々に話す鳳の声と違う。音無はあまりに驚いて微動だにできない。
幻聴なのでは、と思ってしまうほど、鳳の言葉に実感が湧かない。何故ならそんなそぶりを見せなかったから、頭の中はパニックだ。
しばらくの沈黙のあとに、ようやく音無は口を開く。
「…お前、俺が好きなの」
「そう言うことになるな」
吐き捨てるように答えて、鳳は顔を背けてしまう。
まさか、鳳がそんなことを思っていたなんて全く気がつかなかった。惚れてしまったのは、自分の方だけだろうと思っていた。だから鳳に気持ちを打ち明けるつもりはなかったのに。
プライドを投げての、一世一代の告白。
海風が頬を撫でる。さっきまで冷たくなっていた頬がどんどんと熱を帯びていくことに気づく。音無はようやく実感が湧いてきて、ゆっくりと手を伸ばし、後ろを向いている鳳の後頭部に触れた。耳と首筋が真っ赤になっている。
もう居ても立っても居られなくなり、音無は背後から鳳を抱きしめるとその体がビクッと揺れた。そして音無は鳳の耳元に口を近づけてこう囁く。
「じゃあ、セフレとしての最後のセックスと、恋人としての最初のセックス、しよう」
鳳の高級車はそのままラブホテルの駐車場に滑り込んだ。男同士が入れるホテルかどうか、など全く見る余裕はなかった。部屋を適当に選び、鍵を開けて入る。
「なあ、鳳。申し訳ないんだけどさ、俺お前の名前覚えてないんだけど、教えてくれる?どうせお前も覚えてないだろ」
「音無紘也だろ。俺は覚えてた」
「へ」
「優って呼べよ、紘也」
上着を脱ぐこともなく、キスをする。
「ん…」
甘いキスに腰が砕けそうになる。今までの行為と何一つ、変わらないはずなのにセフレと恋人だとキス一つでもこんなに変わるものなのか。それなら、今から味わう『恋人のセックス』はどんなに甘くて官能的なのだろうか。音無は期待に体を震わせた。
長いキスを終えると、二人は見つめ合い互いに笑った。初めてホテルに行ったとき、シャワーもせずに先に進もうとした音無に、鳳が眉をひそめたはずなのに、今日は鳳がもう音無の首筋を舐めてそのまま続けようとしていた。
「どんだけ、がっついてんだよ」
音無が苦笑いしながら聞くと、鳳は耳朶を噛んだ。
「早く一つになりたい」
「うわ、キザな言い方だな」
「好きなくせに」
「…まあな嫌いじゃない」
音無の答えに、鳳は満足したような笑顔を見せた。
1
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
時計の針は止まらない
朝顔
BL
付き合って一ヶ月の彼女に振られた俺。理由はなんとアノ声が大きいから。
自信を無くした俺は、トラウマ脱却のために、両刀だと噂の遊び人の先輩を頼ることにする。
だが先輩はただの遊び人ではなくて……。
美形×平凡
タグもご確認ください。
シリアス少なめ、日常の軽いラブコメになっています。
全9話予定
重複投稿
目覚めたらヤバそうな男にキスされてたんですが!?
キトー
BL
傭兵として働いていたはずの青年サク。
目覚めるとなぜか廃墟のような城にいた。
そしてかたわらには、伸びっぱなしの黒髪と真っ赤な瞳をもつ男が自分の手を握りしめている。
どうして僕はこんな所に居るんだろう。
それに、どうして僕は、この男にキスをされているんだろうか……
コメディ、ほのぼの、時々シリアスのファンタジーBLです。
【執着が激しい魔王と呼ばれる男×気が弱い巻き込まれた一般人?】
反応いただけるととても喜びます!
匿名希望の方はX(元Twitter)のWaveboxやマシュマロからどうぞ(^^)
悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】アナザーストーリー
selen
BL
【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】のアナザーストーリーです。
幸せなルイスとウィル、エリカちゃん。(⌒▽⌒)その他大勢の生活なんかが覗けますよ(⌒▽⌒)(⌒▽⌒)
俺の顔が美しすぎるので異世界の森でオオカミとクマから貞操を狙われて困る。
篠崎笙
BL
山中深月は美しすぎる高校生。いきなり異世界に跳ばされ、オオカミとクマ、2人の獣人から求婚され、自分の子を産めと要求されるが……
※ハッピーエンドではありません。
※攻2人と最後までしますが3Pはなし。
※妊娠・出産(卵)しますが、詳細な描写はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる