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「名前も珍しいなあ。どうだ、アピチェとの暮らしは慣れたか?」
ニコニコと笑うイラーレ。どうも鏡を見ているようで、気持ち悪いと思いつつ潤は愛想笑いをする。騎士は暇なのかその後も色々と話してくれた。アピチェとは両親が一緒に住んでいた時に隣人だったこと、よく遊んでいたらしく、幼馴染という間柄だ。先日潤の話を聞いて興味が湧いたという。
「アピチェはそんなに積極的なことをするタイプじゃないから驚いたよ」
はあ、と苦笑いしながら潤は自分が幼馴染にそっくりの男だからアピチェは家に住まわすのも抵抗なかったのかもしれないな、など考えた。
しばらくすると、イラーレはそろそろ城に戻らないといけない、と言いだして馬にまたがる。
「潤、今度はゆっくり話させてくれ、アピチェと一緒に」
「はい、楽しみにしています」
手を振ってイラーレはそのまま、城の方へと向かっていった。そして潤はその背中を見ながら、先ほどからもやもやしていた気持ちを整理する。
アピチェが告白した時、砂浜で潤を見て引かれたと言っていた。見知らぬ男に一目惚れなんてあるのだろうか、と不思議に思っていたのだが、自分そっくりのイラーレとアピチェが幼馴染なら、本当はイラーレに惹かれているのではないか。何らかの事情で、彼を諦めなければならなくて、たまたま顔が似ていた潤がいたから、『代わりに』惹かれただけではないのだろうかと考え始めた。
潤はしばらくその場で立ち尽くしていた。
あのオッドアイは自分ではなく、彼を重ねて見ているのだとしたら……と思った時、胸が激しく痛んだ。それは潤がアピチェを特別に想い始めているのだ、と自覚せずにはいられない痛みだった。
その日の夜、どうにも眠れない潤は観念し、上半身を起してベッドの上で考えていた。アピチェの告白、そして今日のイラーレとの出会い。そして自分のアピチェへの気持ち……
(高校生じゃないんだから……)
はあ、とため息をついた時。目の前で羽音が聞こえて、虫でも入ってきたのかと慌てて消していた電気をつけると、そこにいたのはあの妖精の【テンセイ】だった。
「やあ!元気にしてる?」
「お、お前っ!」
突然現れたテンセイに潤は驚き、思わず大きい声を出してしまう。フワフワと浮き上がりながら、テンセイは潤を見つめる。
「どうだった?ここの生活。退屈しないでしょ?」
少しいたずらっ子のような顔をしながら、聞くテンセイ。何も答えない潤に痺れを切らす。
「えー、何?いまいちだったかなあ。どっちにしても三日後のこの時間には迎えに来るから、帰る準備しててよ」
「帰る準備……?」
「もしかしてこの世界に置いてけぼりにすると思ってた?やだなあ、そんなに鬼じゃないよぅ。退屈だ退屈だと愚痴っているサラリーマンに、少しだけスパイスをかけてあげただけだし。実はね、向こうの世界じゃ一日も経ってないんだ」
クックック、とテンセイは笑いながら潤の周りをグルグルと飛ぶ。
「じゃ、またね!」
テンセイはそれだけ言うと、フッと消えた。潤はテンセイの言葉を反芻する。向こうではまだ一日も経っていないなら、潤が帰っても『何事もなく』日常に戻れるのだ。作りかけだった来期の計画資料も、部下たちとのミーティングも何事もなくすすむ。それであれば、ここでの出来事は夢だったと思えばいいのだ。
そして昼間会ったイラーレのことを思い出す。アピチェはきっと、イラーレがいるなら自分がいなくなっても大丈夫だろうと考え始め、ふうとため息をついた。ほんの少しの間暮らした男のことなど、きっとすぐに忘れるだろうと潤は無理矢理帰る理由を自分に言い聞かせるように呟いた。
ニコニコと笑うイラーレ。どうも鏡を見ているようで、気持ち悪いと思いつつ潤は愛想笑いをする。騎士は暇なのかその後も色々と話してくれた。アピチェとは両親が一緒に住んでいた時に隣人だったこと、よく遊んでいたらしく、幼馴染という間柄だ。先日潤の話を聞いて興味が湧いたという。
「アピチェはそんなに積極的なことをするタイプじゃないから驚いたよ」
はあ、と苦笑いしながら潤は自分が幼馴染にそっくりの男だからアピチェは家に住まわすのも抵抗なかったのかもしれないな、など考えた。
しばらくすると、イラーレはそろそろ城に戻らないといけない、と言いだして馬にまたがる。
「潤、今度はゆっくり話させてくれ、アピチェと一緒に」
「はい、楽しみにしています」
手を振ってイラーレはそのまま、城の方へと向かっていった。そして潤はその背中を見ながら、先ほどからもやもやしていた気持ちを整理する。
アピチェが告白した時、砂浜で潤を見て引かれたと言っていた。見知らぬ男に一目惚れなんてあるのだろうか、と不思議に思っていたのだが、自分そっくりのイラーレとアピチェが幼馴染なら、本当はイラーレに惹かれているのではないか。何らかの事情で、彼を諦めなければならなくて、たまたま顔が似ていた潤がいたから、『代わりに』惹かれただけではないのだろうかと考え始めた。
潤はしばらくその場で立ち尽くしていた。
あのオッドアイは自分ではなく、彼を重ねて見ているのだとしたら……と思った時、胸が激しく痛んだ。それは潤がアピチェを特別に想い始めているのだ、と自覚せずにはいられない痛みだった。
その日の夜、どうにも眠れない潤は観念し、上半身を起してベッドの上で考えていた。アピチェの告白、そして今日のイラーレとの出会い。そして自分のアピチェへの気持ち……
(高校生じゃないんだから……)
はあ、とため息をついた時。目の前で羽音が聞こえて、虫でも入ってきたのかと慌てて消していた電気をつけると、そこにいたのはあの妖精の【テンセイ】だった。
「やあ!元気にしてる?」
「お、お前っ!」
突然現れたテンセイに潤は驚き、思わず大きい声を出してしまう。フワフワと浮き上がりながら、テンセイは潤を見つめる。
「どうだった?ここの生活。退屈しないでしょ?」
少しいたずらっ子のような顔をしながら、聞くテンセイ。何も答えない潤に痺れを切らす。
「えー、何?いまいちだったかなあ。どっちにしても三日後のこの時間には迎えに来るから、帰る準備しててよ」
「帰る準備……?」
「もしかしてこの世界に置いてけぼりにすると思ってた?やだなあ、そんなに鬼じゃないよぅ。退屈だ退屈だと愚痴っているサラリーマンに、少しだけスパイスをかけてあげただけだし。実はね、向こうの世界じゃ一日も経ってないんだ」
クックック、とテンセイは笑いながら潤の周りをグルグルと飛ぶ。
「じゃ、またね!」
テンセイはそれだけ言うと、フッと消えた。潤はテンセイの言葉を反芻する。向こうではまだ一日も経っていないなら、潤が帰っても『何事もなく』日常に戻れるのだ。作りかけだった来期の計画資料も、部下たちとのミーティングも何事もなくすすむ。それであれば、ここでの出来事は夢だったと思えばいいのだ。
そして昼間会ったイラーレのことを思い出す。アピチェはきっと、イラーレがいるなら自分がいなくなっても大丈夫だろうと考え始め、ふうとため息をついた。ほんの少しの間暮らした男のことなど、きっとすぐに忘れるだろうと潤は無理矢理帰る理由を自分に言い聞かせるように呟いた。
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