触手召喚士

柏木あきら

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14.未来

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「コオ、とりあえず入ろう」
 台所にはスープとパンがあり、それを温めて二人は昼食をとった。いつもなら午前中の成果の話をうるさいくらいするコオが黙っている。そしてワスカも喋らず、静かに二人は黙々と食事をとった。そして食べ終えた後コオが口を開く。
「なあワスカ。俺、明日帰るんだけど」
「うん」
「……一級薬草師の資格を取って、この村に帰ってくるからさ。だからそれまで待っててくれない?」
 その言葉にワスカは驚きを隠せず、目を見開いていた。
「だってさ、薬草がこんなにある村なのにそれを使えず隣の村に行かないといけないなんて。それなら、俺が一級薬草師になってここで配合できるようにする。そしたら……」
 コオは少しの間沈黙したが、やがて決心しワスカの手を握り口を開いた。
「俺はここに住む。……お前と一緒に。だから、待ってて欲しいんだ」
 ワスカはコオの真剣な眼差しに息を呑み、ほおを両手で包んだ。そしてみるみるうちに茶色の瞳が潤んできた。
「待つに決まってるだろ。……こんな小さな村のことを思ってくれてありがとう。一級薬草師が居てくれたら、みんな安心だ。それに、俺と一緒になってくれるなんて」
 実はワスカは二人の未来をどうするかをコオに聞くことができずにいた。街に帰れば自分のことなど忘れてしまうだろう、それでコオが幸せになるならいい、綺麗な思い出のままでいたいとさえ思い、半分諦めていた。だからコオの言葉に目を潤ませ、ついには涙を落とす。コオはその背中に手を回し、ワスカを抱きしめると唇を重ねた。

 そして翌日、コオはワスカや村の皆に見送られながら街に戻っていった。家に着くと両親、兄のマキに一級薬草師の資格を取ってココット村で開業するんだと宣言するとコオの言葉に賛同した両親は開業する資金を出し、マキは兄として、師匠として一級薬草師の基礎をコオに叩き込む。そしてコオは周囲の支えもあり、無事一級薬草師の試験を合格することができた。色んな準備を終えた一年後に、コオは宣言どおり一級薬草師の証であるプレートを持ってココット村に戻ると村人たちは歓迎した。

 一緒に暮らし始めたコオとワスカはいまでも薬草を探しに密林に探索している。ワスカがコオの手伝いをしたいと薬草師の勉強を始めたから、ということも関係していた。
「あれ? これって」
 コオの視線の先には赤茶色の葉が風に靡いている。背の低いその木を見てワスカが眉を顰めた。
「ティだな。こんなところにも自生していたのか」
 触手のティカを呼び寄せてしまうティはあの禁足地に移植されていたが、種子が風に飛ばされたのか、別の場所に大量に自生していた。
これも移植しないとな、とワスカがティに手をかざしているとコオがその葉をじっと見ていることに気がついた。
「コオ? もしかしてティカを召喚して欲しくなったのか?」
 悪戯っぽく笑いながら言うワスカに、コオは思わず顔を赤らめる。そしてワスカの胸を叩くと口を尖らせながら言った。
「ワスカとこうなったのも、これのおかげかなって思ってたんだよ。それに……お前の方が、何倍も気持ちいいんだからもう召喚しなくていいって」 
その言葉に、ワスカは嬉しそうに笑いコオを抱きしめた。

【了】
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