触手召喚士

柏木あきら

文字の大きさ
上 下
8 / 14

8.触手召喚士

しおりを挟む
 宿に戻り、コオの部屋で話がしたいとワスカが言ってきたので二人で部屋に入る。食堂で淹れてきたお茶を飲みながらしばらくの沈黙のあとに、ワスカが口を開いた。
「落ち着いた?」
「……うん。ありがとうな」
 照れ臭くなりコオは頭を掻きながら笑うと、ワスカも少し笑顔を見せる。そしてあのツルのことをポツリポツリとコオに教えた。
 ティカは元々赤茶色の葉を持つティという植物に寄生する生物であるということ。
「葉っぱに寄生ってあんなに大きいのに」
「普段は姿が見えないくらい小さいんだよ」
 ツルに見えるが正式には植物ではない。意思を持っている生物なので、コオを襲った時に自ら動いていたのだ。そしてあの粘膜から媚薬液に似たようなものを出し、相手の生物の生殖行為を促すという。その言葉にコオは顔を赤らめたがなんとか我慢して続きを聞いた。
 ティに寄生しているためティカはそんなに遠くまで移動することはできない。なのに今回、この宿まで来てコオを襲うことができた理由はこれだとワスカは一枚の葉をテーブルに置いた。赤茶色の葉で大きさは指三本くらい。
「ティはあの禁足地にあった大きな木の裏に自生している。コオがスケッチをしている間にたまたま葉が落ちて連れて帰ってしまったんだ。この前コオが湯を浴びている間に部屋を片付けていたら葉が二枚、落ちていた」
「……この葉からあいつが出てきたのか」
「そうだね。彼らは気ままで襲うか襲わないか分からない。だから用心しないといけないんだ」
 聖なる土地であることと、このティカが出てしまう恐れがあるからあの場所は禁足地になっていること。ワスカはそう言うとティの葉を手にした。
「……自分勝手な行動をとってすまない」
「いや、僕のせいでもあるんだ。ガイドとしてきちんと先に伝えておくべきだったし、こうなる可能性に気づかなかったのはまだまだ未熟者だからだ」
「そんな、ワスカはしっかりしてくれてたよ」
 ワスカは手の内の葉を眺めながらポツリと言う。
「……ティカを制御できなかったのは召喚士として失格なんだよ」
「召喚士……?」
 聞きなれない言葉にコオは首を傾げる。するとワスカは引き続き説明をする。
 ティカのような分泌物を出しながら人や家畜を襲うものを触手という。そんなに数はいないが触手には二種類あり、移動ができないものを植物性触手と呼び、自分で歩き移動ができるものを動物性触手と呼ぶ。そしてその触手たちの被害を出さないように管理するのが触手召喚士だという。
「管理するのに召喚士?」
「彼らを召喚して調教するのが本来の召喚士の役目だったんだ。昔は触手を使って家畜の交配を促し……」
「……その話はいいや」
 こほんとコオは咳払いすると、ワスカは交配の話を避けて続ける。今はもう人間のために利用することはしないが、触手の被害が出ないように管理する必要はあるため召喚士がその役目を担っている。禁足地にティがあるのも、管理しやすいように移植されたものだという。
「ふぅん。動物性のはどこにいるの」
「触手でもう残っているのはティカだけ。動物性触手は絶滅したんだ。祖父が召喚士だった頃に」
「おじいさんが?」
「そう。僕はその後を継いでいるんだ」
 それを聞いてコオは思わずエッ、と声を出してしまった。まさかそんな古い話が今も引き継がれていて、目の前のワスカがその役目を継いでいるとは。そしてふいに『制御出来なかったのは召喚士として失格』だとワスカが言っていたことを思い出した。
「ワスカなら、あのツル……ティカを止められていたってこと?」
 ゆっくりとワスカは頷く。そして少しだけ申し訳なさそうに眉を下げながら呟いた。
「そうだ。もっと注意していれば……葉がついてないから確認していれば襲われることもなくて、その……今みたいな悩みも持つこともなかったのに」
「いや、ま、それは仕方ないから」
「そのために禁足地に行くのはダメだけど」
 ワスカは手の内の葉を人差し指と親指で擦りながら目を閉じて何かを呟く。するとしばらくしてその葉からにょきにょきとあの時のツル、ティカが伸びてきた。そしてあっと言うまに壁に触手が貼り付いていく。コオは驚いて目の前で起きている出来事に口を開けて眺めるしかなかった。
「……召喚すれば禁足地に行かなくてもいい」
 ぬめぬめした触手の先がコオに近づいていくのを、ワスカは何も言わずに眺めている。そしてコオはゴクリ、と喉を鳴らした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...