塩彼転じて甘彼となる。

柏木あきら

文字の大きさ
4 / 6

4.もうやめる?

しおりを挟む
「あらあ、あんた弱いんだからやめときなさい」
「飲まずにいられる? もうやだ! もうやめるぅぅ」
話をしても聞いてくれないし。そもそも趣味あわないし。あんなに頻繁だった……セックスも回数がうんと少なくなったし。一緒に住んでいても、まるで空気のよう。しかも会社の先輩に恋人を売るような奴なんだ!
じわっと目頭が熱くなり、ポタポタと涙がテーブルに落ちる。その様子を見て、ママが小さなため息をついた。
「あんたにマナちゃんを紹介したのは、悪かったかしらね」
ポンポンと頭を撫でてくれる、ママ。その言葉に胸が痛んだ。

『セフレとかじゃないから』
初めて体を重ねたとき、学はそう言ってくれた。あのあとも楽しいことはたくさんあって……
学がたまにしか見せない笑顔が好きで……。あれ、僕は結局どうしたいんだ? 別れたいのか、このまま付き合いたいのか? テーブルを顔をうずめても涙が止まらない。
「やめるの? 別れちゃうの?」
ママの言葉に体が揺れる。しばらくの沈黙。
「僕は……」

続けようとした時、階段を降りてくる大きな音がしてばん、とドアが乱暴に開けられた。僕らは驚いてドアの方を見ると、そこには、田村と後ろにはなんと学がいた。
「おい、こいつどうにかしろ!」
田村は学の腕を掴み、思い切り前に引っ張る。バランスを崩した学はそのまま床に投げ出された格好となり、慌てて手をついていた。
「イッテェな!」
「そもそもお前が悪いんだろうがぁ! ああ?」
「なんだよ!」
体を起こし、学は田村の胸ぐらを掴む。ああ本気で怒った田村、手がつけられないというのに……。と言うか何でこの二人が一緒にこの店に来てるの? 涙はすっかり止まり、僕は唖然としていた。
さらに驚いたのは、学の姿。いつも整えている髪はぐちゃぐちゃだし、家でくつろぐときしか着ないスウェット姿。学が家着のまま外出するなんて、見たことがない。近くのコンビニに行くだけでも着替える奴なのに。
田村と学はこのまま喧嘩を始めてしまいそうだ。オロオロしていると、ママがカウンターから、二人の間に割ってはいる。
「テメェら! 店で揉め事しやがったら、ただじゃすまねぇからな!」
普段聞かないママの怒鳴り声に、二人とも硬直していた。

田村、僕、学といった並びでカウンター席に座らされて、目の前のママは頭を抱えていた。三人の前には拓也さんの作ったアルコールが置いてある。
「落ち着いたことだし、飲みながら聞こうかしら? ええとそちらのガタイのいいお兄さん。一度うちに来てくれたわよね。相変わらずいい男」
田村は一度俺がここに連れてきた。一度ゲイバーに行ってみたいという興味津々な田村を連れてきた時、ママは大層気に入っていたのだ。『ゲイじゃないけど見にきて良かったですか?』とクソ真面目に田村が言ったからだ。見た目も好みだったらしい。
田村は真面目に一礼すると、手元のハイボールをグイと飲み、これまでの出来事を説明した。
「家にいたら沢田の携帯から着信があったんです。二十時過ぎぐらいかな。そんな時間に電話がくるのが珍しくて、何かあったのかと思いすぐ取ったんです。そしたら声は沢田じゃなくて、コイツで」
「コイツ呼ばわりするなよ!」
「マナちゃんは黙っとき」
ママに一蹴され、学はぐっと口を紡ぐ。そう言えば部屋を飛び出した時、スマホを置いたままにしていた。学はそれを使ったのだろう。
「突然『洋介はそこにいるのか』とか、騒ぎ出したんです。俺は訳がわからなくて。とにかくしつこく俺の住所教えろって言うし、沢田も心配だし……。仕方ないから教えたら乗り込んできて」
「学が?」
田村はこく、と頷く。学にそんな行動力があったなんて。
「洋介がいなくなった、いつもお前と話してばかりだからここに来たんじゃないかって。当然俺は知らないから来るとしたらここじゃないかと思ってさ。俺も心配だったから二人で行くことになって。それでもまだ疑ってたこいつは、タクシーの中でもずっと睨んできやがって」
「よく田村くんに連絡できたわね、マナちゃん」
「……着信履歴みたらコイツばかりだった」
「スマホのなか見たの? ひくわあ……」
一同から白い目を向けられ、学はふん、と顔を背けた。それにしても不思議なのはスマホをいじれたということ。当然数字でロックしているのに。
「ロックは? どうして解除できたんですか」
拓也さんが聞くと、学は顔を背けたまま答える。
「……俺の誕生日入れたら一発で解除できた」
その言葉に僕は唖然とする。
「なるほど。それで、どうするのよ。洋介あんた……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...