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4.もうやめる?
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「あらあ、あんた弱いんだからやめときなさい」
「飲まずにいられる? もうやだ! もうやめるぅぅ」
話をしても聞いてくれないし。そもそも趣味あわないし。あんなに頻繁だった……セックスも回数がうんと少なくなったし。一緒に住んでいても、まるで空気のよう。しかも会社の先輩に恋人を売るような奴なんだ!
じわっと目頭が熱くなり、ポタポタと涙がテーブルに落ちる。その様子を見て、ママが小さなため息をついた。
「あんたにマナちゃんを紹介したのは、悪かったかしらね」
ポンポンと頭を撫でてくれる、ママ。その言葉に胸が痛んだ。
『セフレとかじゃないから』
初めて体を重ねたとき、学はそう言ってくれた。あのあとも楽しいことはたくさんあって……
学がたまにしか見せない笑顔が好きで……。あれ、僕は結局どうしたいんだ? 別れたいのか、このまま付き合いたいのか? テーブルを顔をうずめても涙が止まらない。
「やめるの? 別れちゃうの?」
ママの言葉に体が揺れる。しばらくの沈黙。
「僕は……」
続けようとした時、階段を降りてくる大きな音がしてばん、とドアが乱暴に開けられた。僕らは驚いてドアの方を見ると、そこには、田村と後ろにはなんと学がいた。
「おい、こいつどうにかしろ!」
田村は学の腕を掴み、思い切り前に引っ張る。バランスを崩した学はそのまま床に投げ出された格好となり、慌てて手をついていた。
「イッテェな!」
「そもそもお前が悪いんだろうがぁ! ああ?」
「なんだよ!」
体を起こし、学は田村の胸ぐらを掴む。ああ本気で怒った田村、手がつけられないというのに……。と言うか何でこの二人が一緒にこの店に来てるの? 涙はすっかり止まり、僕は唖然としていた。
さらに驚いたのは、学の姿。いつも整えている髪はぐちゃぐちゃだし、家でくつろぐときしか着ないスウェット姿。学が家着のまま外出するなんて、見たことがない。近くのコンビニに行くだけでも着替える奴なのに。
田村と学はこのまま喧嘩を始めてしまいそうだ。オロオロしていると、ママがカウンターから、二人の間に割ってはいる。
「テメェら! 店で揉め事しやがったら、ただじゃすまねぇからな!」
普段聞かないママの怒鳴り声に、二人とも硬直していた。
田村、僕、学といった並びでカウンター席に座らされて、目の前のママは頭を抱えていた。三人の前には拓也さんの作ったアルコールが置いてある。
「落ち着いたことだし、飲みながら聞こうかしら? ええとそちらのガタイのいいお兄さん。一度うちに来てくれたわよね。相変わらずいい男」
田村は一度俺がここに連れてきた。一度ゲイバーに行ってみたいという興味津々な田村を連れてきた時、ママは大層気に入っていたのだ。『ゲイじゃないけど見にきて良かったですか?』とクソ真面目に田村が言ったからだ。見た目も好みだったらしい。
田村は真面目に一礼すると、手元のハイボールをグイと飲み、これまでの出来事を説明した。
「家にいたら沢田の携帯から着信があったんです。二十時過ぎぐらいかな。そんな時間に電話がくるのが珍しくて、何かあったのかと思いすぐ取ったんです。そしたら声は沢田じゃなくて、コイツで」
「コイツ呼ばわりするなよ!」
「マナちゃんは黙っとき」
ママに一蹴され、学はぐっと口を紡ぐ。そう言えば部屋を飛び出した時、スマホを置いたままにしていた。学はそれを使ったのだろう。
「突然『洋介はそこにいるのか』とか、騒ぎ出したんです。俺は訳がわからなくて。とにかくしつこく俺の住所教えろって言うし、沢田も心配だし……。仕方ないから教えたら乗り込んできて」
「学が?」
田村はこく、と頷く。学にそんな行動力があったなんて。
「洋介がいなくなった、いつもお前と話してばかりだからここに来たんじゃないかって。当然俺は知らないから来るとしたらここじゃないかと思ってさ。俺も心配だったから二人で行くことになって。それでもまだ疑ってたこいつは、タクシーの中でもずっと睨んできやがって」
「よく田村くんに連絡できたわね、マナちゃん」
「……着信履歴みたらコイツばかりだった」
「スマホのなか見たの? ひくわあ……」
一同から白い目を向けられ、学はふん、と顔を背けた。それにしても不思議なのはスマホをいじれたということ。当然数字でロックしているのに。
「ロックは? どうして解除できたんですか」
拓也さんが聞くと、学は顔を背けたまま答える。
「……俺の誕生日入れたら一発で解除できた」
その言葉に僕は唖然とする。
「なるほど。それで、どうするのよ。洋介あんた……」
「飲まずにいられる? もうやだ! もうやめるぅぅ」
話をしても聞いてくれないし。そもそも趣味あわないし。あんなに頻繁だった……セックスも回数がうんと少なくなったし。一緒に住んでいても、まるで空気のよう。しかも会社の先輩に恋人を売るような奴なんだ!
じわっと目頭が熱くなり、ポタポタと涙がテーブルに落ちる。その様子を見て、ママが小さなため息をついた。
「あんたにマナちゃんを紹介したのは、悪かったかしらね」
ポンポンと頭を撫でてくれる、ママ。その言葉に胸が痛んだ。
『セフレとかじゃないから』
初めて体を重ねたとき、学はそう言ってくれた。あのあとも楽しいことはたくさんあって……
学がたまにしか見せない笑顔が好きで……。あれ、僕は結局どうしたいんだ? 別れたいのか、このまま付き合いたいのか? テーブルを顔をうずめても涙が止まらない。
「やめるの? 別れちゃうの?」
ママの言葉に体が揺れる。しばらくの沈黙。
「僕は……」
続けようとした時、階段を降りてくる大きな音がしてばん、とドアが乱暴に開けられた。僕らは驚いてドアの方を見ると、そこには、田村と後ろにはなんと学がいた。
「おい、こいつどうにかしろ!」
田村は学の腕を掴み、思い切り前に引っ張る。バランスを崩した学はそのまま床に投げ出された格好となり、慌てて手をついていた。
「イッテェな!」
「そもそもお前が悪いんだろうがぁ! ああ?」
「なんだよ!」
体を起こし、学は田村の胸ぐらを掴む。ああ本気で怒った田村、手がつけられないというのに……。と言うか何でこの二人が一緒にこの店に来てるの? 涙はすっかり止まり、僕は唖然としていた。
さらに驚いたのは、学の姿。いつも整えている髪はぐちゃぐちゃだし、家でくつろぐときしか着ないスウェット姿。学が家着のまま外出するなんて、見たことがない。近くのコンビニに行くだけでも着替える奴なのに。
田村と学はこのまま喧嘩を始めてしまいそうだ。オロオロしていると、ママがカウンターから、二人の間に割ってはいる。
「テメェら! 店で揉め事しやがったら、ただじゃすまねぇからな!」
普段聞かないママの怒鳴り声に、二人とも硬直していた。
田村、僕、学といった並びでカウンター席に座らされて、目の前のママは頭を抱えていた。三人の前には拓也さんの作ったアルコールが置いてある。
「落ち着いたことだし、飲みながら聞こうかしら? ええとそちらのガタイのいいお兄さん。一度うちに来てくれたわよね。相変わらずいい男」
田村は一度俺がここに連れてきた。一度ゲイバーに行ってみたいという興味津々な田村を連れてきた時、ママは大層気に入っていたのだ。『ゲイじゃないけど見にきて良かったですか?』とクソ真面目に田村が言ったからだ。見た目も好みだったらしい。
田村は真面目に一礼すると、手元のハイボールをグイと飲み、これまでの出来事を説明した。
「家にいたら沢田の携帯から着信があったんです。二十時過ぎぐらいかな。そんな時間に電話がくるのが珍しくて、何かあったのかと思いすぐ取ったんです。そしたら声は沢田じゃなくて、コイツで」
「コイツ呼ばわりするなよ!」
「マナちゃんは黙っとき」
ママに一蹴され、学はぐっと口を紡ぐ。そう言えば部屋を飛び出した時、スマホを置いたままにしていた。学はそれを使ったのだろう。
「突然『洋介はそこにいるのか』とか、騒ぎ出したんです。俺は訳がわからなくて。とにかくしつこく俺の住所教えろって言うし、沢田も心配だし……。仕方ないから教えたら乗り込んできて」
「学が?」
田村はこく、と頷く。学にそんな行動力があったなんて。
「洋介がいなくなった、いつもお前と話してばかりだからここに来たんじゃないかって。当然俺は知らないから来るとしたらここじゃないかと思ってさ。俺も心配だったから二人で行くことになって。それでもまだ疑ってたこいつは、タクシーの中でもずっと睨んできやがって」
「よく田村くんに連絡できたわね、マナちゃん」
「……着信履歴みたらコイツばかりだった」
「スマホのなか見たの? ひくわあ……」
一同から白い目を向けられ、学はふん、と顔を背けた。それにしても不思議なのはスマホをいじれたということ。当然数字でロックしているのに。
「ロックは? どうして解除できたんですか」
拓也さんが聞くと、学は顔を背けたまま答える。
「……俺の誕生日入れたら一発で解除できた」
その言葉に僕は唖然とする。
「なるほど。それで、どうするのよ。洋介あんた……」
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