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1.僕らの出会い

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僕と彼が付き合いだして、一年が経過した。
出会いはゲイバー。田舎から上京し就職した僕は、ようやく自分がゲイであることをオープンに出来る環境になったから嬉しくて、週末にゲイバーに通うようになったんだ。

通い詰めて半年くらいした頃に、すっかり顔馴染みになったママさんから紹介されたのが、今の彼氏である地場学《ちばまなぶ》。
僕がカウンター席で飲んでいて、ママと話していると、席を一つ開けたところに座ったのが学で、気がついたママが突然彼に話しかけたのがきっかけ。
『マナちゃん相手してあげてよ。あんた小さい子好きでしょう』
ママの言う小さい子とは僕のことだ。一般男性より背が低いのがコンプレックスの僕。ママの表現にグサッときたが本当だから仕方ない。
低い身長とこの童顔、そして見た感じまんまのネコ。それが僕、沢田洋介《さわだようすけ》だ。

マナちゃん、と呼ばれた彼はやけに大人っぽい色気のあるやつだった。紺色のスーツに流した黒髪に、手にしたグラスが様になっている。風貌からしてみてもタチそのもので、ママは僕をネコと知ってたから、学を紹介してくれたのだろう。学は僕をチラッと見るとこう、呟く。
『……小さい子だからって全部が好みとは限らないけど』
口が悪いやつだなあ。それが学に抱いた第一印象だっだ。

だけど、あとからママに聞いたところ、学は以前から店で見かけていた僕のことを気になっていたらしく、色々ママに聞いてきていたらしい。それなら、愛想よくすればいいものを。あのころからひねくれてたんだなあ。

ママから学を紹介されたものの、第一印象の悪さから僕の方から近付くことはなかった。
『あんたが暇そうだから』
そう言いながら、学は店に来ると何故か僕の隣に座っていた。とにかく口が悪い。僕はムカッとしながらも、席を移動することなく飲んでいた。

学が僕の隣に来ることを拒否しなかったのは、単に好みの顔だったからだ。人は自分にないものに惹かれるという。まさに学は僕にないものだらけだった。身長、大人の雰囲気。時々見せる色香。すっと通った鼻筋にアーモンドの形をした目。何もかもが僕と逆だった。

毎回のように隣に座られたら、一緒に飲まないわけにはいかない。いつのまにか僕らは普通に会話をするようになっていた。
そこで気がついたのは、学は僕を全く甘やかさないってこと。僕のこの容姿のせいか、いままでの友人や彼氏は優しくて、甘やかせてくれる人ばかり。でも学は違っていたんだ。

会社の愚痴を静かに聞いてくれていたかと思えば、最後に学は辛辣なアドバイスをくれる。時には『それはお前がおかしいぞ』と一刀両断。はあ? と思うことも多いけど、彼の指摘は的を得ていた。
冷たくあしらう割には熱意を持って話を聞いてくれている彼。僕はだんだんと学が苦手ではなくなっていった。
うんうん、と何もかもを肯定してくれるのではなく、真剣に僕に向き合ってくれている学の姿勢が嬉しく思えた。
そして出会って半年ぐらい過ぎた頃には、ほぼ毎週、バーで会い一緒に飲んでいた。

『マナちゃん、この子ね、あんたが来ないと寂しそうなのよ』
ある日、ママがそう学に言うものだから僕は慌てて手を振った。
『ち、違うよっ』
『へぇー、随分可愛いこといってくれるじゃん』
ウイスキーの入ったグラスを傾けながら、学が笑う。僕は多分真っ赤になっていたのだろう。するとママは矛先を学に変えた。
『何言ってんの、マナちゃんだって、この子がいないと三十分もしないうちに帰っちゃうじゃないの』
『……へぇ、そうなんだ』
『たまたまだよ、ったく余計なことを』
ママはこうやって僕らをよく揶揄っていた。お互いに意識はしているものの、認めたくなくて。変な間柄にピリオドを打ったのはそれからしばらくして、夏の大雨の夜だった。

その日は朝、寝坊をしてしまい慌てていた。会社に行く支度をしながら、テレビはつけているだけで、いつもゆっくり見る天気予報を見れなかった。
家を出る時には晴れていたし、午後も雲が出始めたわりにはまだ雨の気配はしなかったから、僕は仕事を終えると傘も持たずに週末のバーへ。
『よぉ』
珍しく学が先に来ていて、店内を見渡すと金曜日だというのに、その日は人が少なかった。
『お疲れ、今日やけに人少ないね』
『給料前だからだろ』
学はそう答えて、オーダーしていたウイスキーを口にした。それから数時間、いつものように飲んで上機嫌に喋っていると、ママが突然あら大変と呟いた。
 『電車、全線ストップしちゃってるわ』
『え? なんで』
『この雨じゃ、仕方ないわねぇ』
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