バタフライトラップ

７、七色の蝶

２７

【ロジウラ】の店内には俊の甘い声が響いていた。
胸の突起は痛いほどに摘まれ、舐められ、齧られた。
首筋や内腿など身体中に残るまるでマーキングのようなキスマーク。
そしてすでに手と口で頂点を迎えてしまった、俊のそれは岡が後ろの孔を優しく解している間にまた起立してきていた。

「ん……あっ、ああ……」
ベッドに横になり、岡の背後からの拡張に俊は身体を震わせていた。
すると不意に岡は指を抜き、真っ赤になった旬の耳元に口を近づける。
「そろそろかな。Crawl四つん這いになって」
それを聞き、ゆっくりと体を起こしながら膝を曲げ、岡に後ろを突き出すような格好になる俊。

これから来るものを早く受け入れたくて、早くとせびるような顔を肩越しに岡に見せる。
その顔が官能的で岡はたまらなくなり俊の臀部をつかむと、自分のものを入り口にあてがう。
ヒクヒクとしたその入り口にゆっくりと挿れていくと、すぐさま俊の甘い声が漏れた。

久々の岡を感じて、きゅうっとそこが締まる。
「あ、ああっ……あんっ、んんっ……！」
初めから容赦なく腰を振り続き、パンパンと腿を打つ音が響く。
後ろからの挿入は顔が見えないけれど、久しぶりに受け入れたものが愛しくて俊は気がつくと涙を流していた。

お仕置きはコマンドで。ご褒美は愛撫で。

岡は俊の体を隅から隅まで弄っていく。
支配だけの佳紀とも違う、同情からの拓也とも違う。
彼はいま、自分を愛してくれているんだと感じて俊はさらに甘い声を出す。

仰向けになり、岡がキスをしながら被さってきて挿入を続けるころには、俊はまるで酩酊しているかのようにクラクラとしていた。
いつもと様子が違うことに岡が気がついて前髪を掻き分けると、恍惚とした表情をみせる。

「サブスペースに入ったかな？　気持ちいい？」
俊は頷きながらも言葉が出ない。
ただうっとりとした目をしながら、腕を伸ばし岡にキスをした。
「大好き」
短い言葉に込められた思いに岡はその体を抱きしめ、さらに奥へと押し込む。
「俊……っ」
「んああッ！　ん…！」
まるで獣のように二人は愛し合いお互いを抱きしめてやがて絶頂を迎えると、俊はそのまま意識をなくした。

しばらくしてミネラルウォーターのペットボトルを受け取り、俊はそれを一気に飲んだ。
意識が飛んだのは数分で目が覚めたとき岡が心配そうに覗き込んでいた。
水を飲み、一息つくと大きく深呼吸する。
「大丈夫？　ごめんね」
額に張り付いた前髪を優しくかき分けながら岡がつぶやくと、俊はその手にキスをする。

「サブスペースってすごいね。初めて体験したのが岡さんでよかった」
「またそんな可愛いこと言って」
「岡さん、この後、俺ん家どうする？　遅くなってしまったから」
「行くに決まってる。泊まっていいなら、そうしたいくらいだよ」
押しの強い岡の言葉に俊は思わず笑う。
「雑魚寝でよかったら来てください」

「ありがとう俊」

ビクッと俊の体が震えた。
そう言えばさっきも最中に名前を呼ばれたことを思い出し、体がカッと熱くなる。
佳紀に呼ばれたときこんなことはなかったのに。

「……いやだったかな？」
「そんなわけ、ないです。ちょっと驚いただけですよ」
真っ赤になった旬の顔と耳を見て少し笑う岡。
「そっか。じゃあ私の名前も呼んで欲しいな」

名前を呼んで欲しい、という岡の願いは俊が照れてしまいなかなか叶わなかったが、俊の家へと帰ったあと、もう一度愛し合っている最中にとうとう俊は名前を呼んだ。
一度呼ぶと照れなくなったのか、俊はそれ以降岡の名前を呼ぶようになっていく。
そして岡に対して使っていた敬語が完全になくなった頃には、お互いの家を行き来して泊まることも多くなっていた。

＊＊＊

金曜日の【ロジウラ】はいつもより賑やかだ。
タバコの煙の中に笑い声やジャズ、シェイカーを振る音など様々。
今夜は満席だなあと俊はおつまみを作りながら店内を見渡した。

「オーダー、いい？」
カウンター越しに言ってきたのは常連の小宮山だ。
たいてい店ではパートナーの千秋と飲んでいる。
ベタベタしてくる千秋に小宮山が嫌がる様子をよく見るが、明彦曰く『小宮山の方が千秋に惚れている』らしい。
まだまだ明彦のような千里眼にはなれないが、自分も頑張らないとな、と俊は感じていた。
「はい、何を作りましょうか」

週のうち半分くらいは岡の家に泊まり、そこから俊はここに通うようになっていた。
岡の家は閑静な住宅地の一軒家。
もとは岡の実家だが両親が他界し、岡が住むことになったという。
最近では、俊に一緒に暮らさないかと岡が提案していた。

【ロジウラ】へは通える距離だし何も躊躇することはないのだが、俊はあと少し一人暮らしをさせて欲しいと岡に言っていた。まだ自分は自立していない。
このまま一緒に住むと甘えてしまいそうだと。

それを聞いた岡は若干、寂しいなと思いつつも頑張ろうとする彼にエールを送った。
そしていつかは必ず一緒に住むことを約束し、その日が訪れることを心待ちにしている。