バタフライトラップ

柏木あきら

文字の大きさ
上 下
20 / 41
六、真白再び

20

しおりを挟む
「そんな……!」
【ロジウラ】に通っていたのも、カウンセラーを始めたのも……全て、自分に近づいて佳紀に報告するためだったのだろうか。
(そんな、そんなこと)
おつまみが美味しいと笑ってくれたのも、カウンセリングをしながら過ごしたあの優しい時間も全て作り物だったのか、と考えているうちに俊の手が震え始める。

それなら何故自分を抱いたのか、呆然とする俊に岡が必死に声を上げた。

「違う! 安田くん!」
その声に思わず視線を向ける。
真剣な眼差しで自分を見つめてくるこの男を、どこまで信じたらいいのか。

「確かに佳紀に依頼されて、君を探したのは事実だ。でも君を助けたかった」
「何ほざいてんだ、人のモノに手ぇ出しやがった、エセ探偵が!」
佳紀が容赦なく岡の顔を蹴る。
うあっ、と呻き、岡は口の中の血を吐き出した。

佳紀は屈んで岡の顔を持ち上げると、憎悪に満ちた顔で叫んだ。
「あんなあ、俊は僕がいなきゃダメなんだよ! なあ、俊。僕の下で僕に尽くせ。いままでもそうしてやっただろ? 危険なものを排除して二人だけで生きていけば安全なんだから。何も心配することはないんだ」
「それは違う! そんなのはただのエゴだ」
「うるさい! 俊は僕のsubだ。貴浩如きが触れていいわけないんだ!」

岡の顔から手を離し、立ち上がった佳紀は俊に近づきまたキスをする。
「いいこと考えた。貴浩の前であの頃のように愛し合って、見せつけてやろう、なあ俊」

にやりと笑い、耳朶を噛む。
俊は以前の恐怖が甦り動くことも声を出すこともできない。

(いやだ)
岡に裏切られていたとしても、あの時間が偽物だったとしてももう遅い。
自分はこんなに岡に惹かれてしまったのだから。
彼の前で、蹂躙されるなんて耐えられない。

シャツを捲る佳紀に俊は身を捩りながら抵抗する。
「……ああ、そうか。コマンドがいるんだな」
佳紀の言葉に俊はギョッとする。

コマンドからは逃げれない、subの体質を佳紀は自分の欲望に使っているのだ。

「やだ、やめろ……」
「何がいいかな? 手は使えないから……そうだ、なら口が空いているね」

口淫を示すコマンドを言うつもりなんだろう。
両手を縛られた俊は耳を塞ぐこともできない。

(どうして俺はsubなんだ)

コマンドに抗えない体。subであるが故に執拗に追う佳紀。

subでなければ、佳紀に出会うこともなかったのに、と叫びたくなる。誰か、助けて!

佳紀の手が顔に伸びてきて、俊は身動きが取れずにいる。
そして佳紀の口がまた開いた瞬間……

『バチッ!』

聞き慣れない破裂音のようなものが聞こえ、思わず目を見開く。

すると俊の顔に伸ばしていた佳紀の手が離れ、自分の首筋を押さえつつ床に倒れた。
そして佳紀の横にはスタンガンを持ったサムットが立っていた。

「なに、す……」

佳紀はサムットを睨みつける。俊も驚きを隠せない。
俊の手首を紐で縛って自由を奪ったサムットは佳紀側のはずなのに、何故佳紀にスタンガンを当てたのか。

佳紀は顔を床に伏せ、気を失ったようで動かなくなった。
さらにサムットは岡に近づき手首の紐をほどく。

あざが残った手首をさすりながら、岡はふらりと立ち上がると俊のほうに向かってきた。
俊は混乱していた。

サムットを、そして岡を信じていいのか? 
誰を信じたらいいのか、俊は分からなくなっている。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...