バタフライトラップ

柏木あきら

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五、褐色の来訪者

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俊がサムットと再会したのは、それから一週間後の雨の日だ。
マンションのエントランスに到着し、傘を折りたたんでいると、背後から肩を叩かれ、振り向くとそこにサムットがいた。

「あ……この前の」
岡はまた不在なのだろうか。どうしようと考えているとサムットから声をかけてきた。
「今日はあなたに用事ある」
「え、俺に?」
俊が口を開くと、サムットは顔をじっと見つめながらこう言った。

「センセイに近づかないでほしい。ここにいないで」
「は?」
サムットの瞳はじっと俊を見据える。その瞳には確かに敵対心を感じた。
「センセイは、渡さない」

それを聞いて俊は思わず息を呑む。先生とは岡のことだろうか。
「あの」
俊が口を開いた途端、サムットのポケットから着信を告げるメロディが聞こえた。
サムットはチッと舌打ちする。
「忠告、したからね」
そういうと、スマホを取り出して通話しながら俊の前から立ち去っていく。

じわりと嫌な汗を感じて俊は眉を顰めた。明らかにサムットは俊を攻撃してきた。
何もしていないはずなのに。
エントランスに立ち尽くしていると、女性がすれ違ったあとに振り向き、話しかけてきた。
「あの……大丈夫ですか?顔が真っ青ですよ」
声を掛けられて、はっと俊は我に帰った。
女性はこのマンションの住人だろうか、心配そうな顔をしながら俊を見ていた。
「大丈夫です。すみません邪魔してましたね」
「いえいえ、お気をつけて」
お互い会釈を交わし、俊は岡の部屋へと向かった。

そしてその夜。
「安田くん? どうしたの」
ベッドのなかで俊は岡の腕にしがみついていた。
いつもはこんなに甘えてくることはないので、岡は戸惑う。
「何でもないです」
もしかしたら、と俊の中でモヤモヤする気持ちが広がっていた。

(彼がもしカウンセリングの患者で、俺と同じように優しくされていたら。
そして好意を持っていたとしたら。だから彼は『近づくな』と言ったんじゃないだろうか)
ギュッと腕に力を入れてさらにしがみつく俊に、岡はため息をついた。

以前、俊は岡になぜカウンセリングを始めたのか聞いたことがあった。
『友達が悩んでいたことがあってね。私にとって彼はとても大切な友人だったから、少しでも力になりたいと思ったんだ』
『それなら、専門の人を紹介した方が早いのに』
『彼は多忙だったから通う暇がなくて。なら私が資格取ってやるからって思って……今考えると単純なんだけど』
『ううん。岡さんはやっぱり優しいんだよ』

そうだ、誰に対しても優しい。
だからサムットの言葉一つでこんなに不安なんだ、と俊は胸を痛める。
comeおいで
抱きついたまま、岡はそうコマンドを投げる。
俊が顔を上げるとキスをしてきた。俊の不安をかき消すような濃厚なキス。

「ん……っ」
貪るように岡の舌を追いかける。するりと手が伸びて俊の突起を指で突く。
「どうして欲しいの?」
口を離しそう聞いてきた岡に俊は答えた。
「もっと……コマンドを下さい」
うっとりと熱を帯びた瞳に岡は自分の唇をなめた。

Present見せて
どこを、とは言わない。でも俊には分かっていた。
のろのろと体を岡から少し離して正面に向き合う形でベッドに座ると両脚を大きく広げる。
半分勃っている自分自身と、さっき使って柔らかくなっている孔を曝け出した。
そしてその孔を自身の指で広げてみせる。すでにそこは岡を迎えたくてひくついていた。

「もう一度、お願いします」
「ん。おねだり上手だね、いいこ」

岡は硬くなったそれをこすりつけ、ググっと中に押し込む。
俊の口から甘い吐息が漏れ始めていく。
「あ……っ、あっああ……!」
不安な気持ちを払拭したくて、俊は自分から岡を求める。
それに答えて岡はいつもより深く強く挿入を繰り返した。
「きもち……い……、んんっ」
飛び散る汗と滲む涙。

(どうか俺だけでいてくれますように)

「ん……も、限界……っ」
耳のそばで岡がそういうと俊はその背中に爪を立てる。
頂点に登りつめるための激しい腰つきに俊はさらに大きく甘い声を出していた。
「きて……っ  あああっ、イッちゃう……!」
岡が一瞬切なそうな顔をして、俊の中にそれを出した瞬間、俊は朦朧とした頭で無意識に言葉を発した。

「どこにも行かないで、お願い」
「安田くん?」
「……好きです」

そう言うと、俊はふっと意識がなくなった。
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