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四、植物たちの中で
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「す、すみません!」
すぐに手を離した俊。その真っ赤になった顔を見て岡は笑っている。
「いいんだよ。まるで猫みたい」
ほら、と手を伸ばし頬に触れてきたので俊はもう一度その手に頬擦りする。
「岡さん。俺、拓也さんに頼りたくないんです。抱かれたくないわけではなくて、なんて言うか申し訳なくて。多分彼には、好きな人がいるはずなんだ」
拓也が俊を誘ったあのとき、『ママとも? 』と、聞いた時に見せた表情や、【ロジウラ】で不意に見る明彦への視線。二人が恋人なのかは分からないが少なくとも拓也は明彦に惚れていると俊は感じていた。
「俺のために、だなんて」
苦々しい顔を見せる俊に岡は諭すように優しく声をかける。
「そうだね。それに安田くんはきっと求めてるんだよ」
「何を?」
「自分を一番に優先してくれるDomを」
頬ずりしていたその手を離し、岡はそのまま俊の顎を持ち上げる。
目の前に岡の黒い瞳が近づいてきて俊は思わずのけぞるが、後頭部を逆の手で押さえられ逃げ場がなかった。
「私はね、Domなんだ。このままカウンセリングも続けるし、安田くんの体調も、改善してあげられる」
そのまま柔らかい唇を重ねてきた。
ほんの少しだけ触れたのに、俊の体は熱くなる。
「君が望めば、コマンドを言ってあげることもできるよ」
岡は後頭部にあった手を伸ばし、俊に手を取るように突き出した。
その言葉に息を呑んだ。拓也に頼ってばかりはいられない。だがこの手を取ってしまってもいいのだろうか。
「岡さんはどうして、そんなに優しくしてくれるんですか」
出会ってまだ半年も経過していない。岡の申し出に飛びついてしまいたい衝動を抑えながら聞く。
好意の裏側には代償があることを俊は佳紀の件で知ったから。
佳紀の優しさに甘えているうちに、逃げられなくなった日々。それがあるから、俊は怖いのだ。
「君が美味しいおつまみを作ってくれたから」
答えにならない答え。岡の笑顔に俊は戸惑いながら、思考を巡らす。
(この人は佳紀と違う)
順序を踏んで、知り合ってこうして一緒に笑い合えている。
拓也より気兼ねしなくていいし、自分の何もかもを分かってくれている。
恋人とも友達ともいえないような関係。それでもいまの自分には必要だと俊は息を呑んだ。
ゆっくりと岡の差し出した手に、自分の手を重ねる。さっきまで頬擦りしていた大きな手。
「お願い、します」
小さな声で呟くと岡は口元を緩めた。
「good boy」
その言葉だけで、俊は体に衝撃が走る。久々のコマンド。しかも今日は遠慮しなくてもいいのだ。
(たくさん、欲しい)
岡の顔を見る俊の眼差しは、すでに溶けかけたアイスクリームのよう。
「もっと、ちょうだい」
拓也には言えなかった言葉を、俊は目の前の男にかける。すると岡は満足そうに微笑んだ。
「セーフワードを決めておこうか」
「あ……」
「どうしたの?」
「セーフワードってやっぱり普通のDomとsubの間には存在するものなんだなあと思って。佳紀とはそれ、使わなかったから」
「使わなかった? それは危険だね。何故そんな」
「元々、俺が知らなかったんです。だから佳紀に求めなかった。セーフワードを教えてくれたのは拓也さんで、彼も俺と佳紀の間でワードを決めなかったことに驚いてました」
俊がそこまで言うと、岡は眉間に皺を寄せ何かを考えていたようだったが、やがて俊に顔を向けた。
「私とのセーフワード、決めてくれる?」
岡の目に俊が思わず息を呑んだ。
何か少し怒っているような、そんな目を一瞬見せたからだ。
セーフワードを使わなかったことに、不用心だと思ったのだろうかと、俊はチクリと胸が痛んだ。
「じゃあ『ストップ』で」
岡は何も言わず、くしゃりと俊の頭を撫でた。
すぐに手を離した俊。その真っ赤になった顔を見て岡は笑っている。
「いいんだよ。まるで猫みたい」
ほら、と手を伸ばし頬に触れてきたので俊はもう一度その手に頬擦りする。
「岡さん。俺、拓也さんに頼りたくないんです。抱かれたくないわけではなくて、なんて言うか申し訳なくて。多分彼には、好きな人がいるはずなんだ」
拓也が俊を誘ったあのとき、『ママとも? 』と、聞いた時に見せた表情や、【ロジウラ】で不意に見る明彦への視線。二人が恋人なのかは分からないが少なくとも拓也は明彦に惚れていると俊は感じていた。
「俺のために、だなんて」
苦々しい顔を見せる俊に岡は諭すように優しく声をかける。
「そうだね。それに安田くんはきっと求めてるんだよ」
「何を?」
「自分を一番に優先してくれるDomを」
頬ずりしていたその手を離し、岡はそのまま俊の顎を持ち上げる。
目の前に岡の黒い瞳が近づいてきて俊は思わずのけぞるが、後頭部を逆の手で押さえられ逃げ場がなかった。
「私はね、Domなんだ。このままカウンセリングも続けるし、安田くんの体調も、改善してあげられる」
そのまま柔らかい唇を重ねてきた。
ほんの少しだけ触れたのに、俊の体は熱くなる。
「君が望めば、コマンドを言ってあげることもできるよ」
岡は後頭部にあった手を伸ばし、俊に手を取るように突き出した。
その言葉に息を呑んだ。拓也に頼ってばかりはいられない。だがこの手を取ってしまってもいいのだろうか。
「岡さんはどうして、そんなに優しくしてくれるんですか」
出会ってまだ半年も経過していない。岡の申し出に飛びついてしまいたい衝動を抑えながら聞く。
好意の裏側には代償があることを俊は佳紀の件で知ったから。
佳紀の優しさに甘えているうちに、逃げられなくなった日々。それがあるから、俊は怖いのだ。
「君が美味しいおつまみを作ってくれたから」
答えにならない答え。岡の笑顔に俊は戸惑いながら、思考を巡らす。
(この人は佳紀と違う)
順序を踏んで、知り合ってこうして一緒に笑い合えている。
拓也より気兼ねしなくていいし、自分の何もかもを分かってくれている。
恋人とも友達ともいえないような関係。それでもいまの自分には必要だと俊は息を呑んだ。
ゆっくりと岡の差し出した手に、自分の手を重ねる。さっきまで頬擦りしていた大きな手。
「お願い、します」
小さな声で呟くと岡は口元を緩めた。
「good boy」
その言葉だけで、俊は体に衝撃が走る。久々のコマンド。しかも今日は遠慮しなくてもいいのだ。
(たくさん、欲しい)
岡の顔を見る俊の眼差しは、すでに溶けかけたアイスクリームのよう。
「もっと、ちょうだい」
拓也には言えなかった言葉を、俊は目の前の男にかける。すると岡は満足そうに微笑んだ。
「セーフワードを決めておこうか」
「あ……」
「どうしたの?」
「セーフワードってやっぱり普通のDomとsubの間には存在するものなんだなあと思って。佳紀とはそれ、使わなかったから」
「使わなかった? それは危険だね。何故そんな」
「元々、俺が知らなかったんです。だから佳紀に求めなかった。セーフワードを教えてくれたのは拓也さんで、彼も俺と佳紀の間でワードを決めなかったことに驚いてました」
俊がそこまで言うと、岡は眉間に皺を寄せ何かを考えていたようだったが、やがて俊に顔を向けた。
「私とのセーフワード、決めてくれる?」
岡の目に俊が思わず息を呑んだ。
何か少し怒っているような、そんな目を一瞬見せたからだ。
セーフワードを使わなかったことに、不用心だと思ったのだろうかと、俊はチクリと胸が痛んだ。
「じゃあ『ストップ』で」
岡は何も言わず、くしゃりと俊の頭を撫でた。
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