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あたしには幼馴染がいた。名前はラズモア。よっつになった年にお隣の老夫婦の家に引き取られて来た男の子だ。同い年だと知って当然のように毎日遊ぶようになった。あたしには兄弟姉妹がいなかったし、ラズモアも老夫婦と三人だけの寂しい暮らしだった。
だから遊び相手が身近にできたことが単純に嬉しかったのだけど、それはあたしの方だけでラズモアはそうでもなかったかもしれない。少なくとも最初の頃は、毎朝あたしが迎えに行くと彼は迷惑そうな顔をしていた。
「ぼくは家のお手伝いがしたいのに」
「そんなことはいいんだよ。小さな子供は外で思い切り遊んでいればいいんだ」
「でも……」
「じゃあ、こう考えればいい。わたしらは年で体も不自由でお隣にはいつも助けてもらっている。おまえがお隣の嬢ちゃんの遊び相手になることがお隣りへの恩返しになるなら、それがわたしらのためにもなる。おまえはわたしらのためになることをしなくちゃと考えているのだろう?」
「うん」
「それなら嬢ちゃんとふたりで野原で思い切り遊んでおいで。嬢ちゃんが喜んでくれるのなら」
「もちろん! 行こう、ラズモア」
おばあさんに言い聞かせられ、ラズモアはしぶしぶあたしに手を引かれて行くのだった。
「ラズモアはおじいさんとおばあさんが好きなんだね」
栗色の髪の頭にシロツメクサで作った花冠を乗せてあげると、ラズモアは嫌そうに黒い瞳を細めてあたしを見た。
「好きというか、世話になってるから、感謝してる」
言葉少なに彼が語ったことと、周りの態度などから。老夫婦はラズモアのお母さんの両親で、ラズモアのお母さんは病気で亡くなり、お父さんとは一緒に暮らせない理由があって、彼は祖父母を頼ることになったようだ。
長じるにつれそんな事情が透けて見えるようになり、けれどそんなこととは関係なく、あたしはラズモアが大好きだった。
ラズモアは少しずつ生きる為に仕事を始めて、あたしが構ってもらえる時間は段々と減っていった。
ヒツジやウシの世話をするラズモアの傍らであたしはいつもひとりでおしゃべりをしていた。それは大抵、ラズモアの手が空く夕刻のことで、あたしの話題は学校での出来事が多かった。学校に行けないラズモアがあたしの話を聞いてどう感じるかなんて、あたしは考えもしなかった。
聞いているのかいないのか、相槌を打ちもしないラズモアの栗色の頭に、学校帰りに道草をして作った花冠を乗せると、彼は顔をしかめてそれを投げ捨てた。今思えばラズモアは、いつも何かに苛立っているようだった。その頃のあたしには気付くことができなかったけれど。
だから遊び相手が身近にできたことが単純に嬉しかったのだけど、それはあたしの方だけでラズモアはそうでもなかったかもしれない。少なくとも最初の頃は、毎朝あたしが迎えに行くと彼は迷惑そうな顔をしていた。
「ぼくは家のお手伝いがしたいのに」
「そんなことはいいんだよ。小さな子供は外で思い切り遊んでいればいいんだ」
「でも……」
「じゃあ、こう考えればいい。わたしらは年で体も不自由でお隣にはいつも助けてもらっている。おまえがお隣の嬢ちゃんの遊び相手になることがお隣りへの恩返しになるなら、それがわたしらのためにもなる。おまえはわたしらのためになることをしなくちゃと考えているのだろう?」
「うん」
「それなら嬢ちゃんとふたりで野原で思い切り遊んでおいで。嬢ちゃんが喜んでくれるのなら」
「もちろん! 行こう、ラズモア」
おばあさんに言い聞かせられ、ラズモアはしぶしぶあたしに手を引かれて行くのだった。
「ラズモアはおじいさんとおばあさんが好きなんだね」
栗色の髪の頭にシロツメクサで作った花冠を乗せてあげると、ラズモアは嫌そうに黒い瞳を細めてあたしを見た。
「好きというか、世話になってるから、感謝してる」
言葉少なに彼が語ったことと、周りの態度などから。老夫婦はラズモアのお母さんの両親で、ラズモアのお母さんは病気で亡くなり、お父さんとは一緒に暮らせない理由があって、彼は祖父母を頼ることになったようだ。
長じるにつれそんな事情が透けて見えるようになり、けれどそんなこととは関係なく、あたしはラズモアが大好きだった。
ラズモアは少しずつ生きる為に仕事を始めて、あたしが構ってもらえる時間は段々と減っていった。
ヒツジやウシの世話をするラズモアの傍らであたしはいつもひとりでおしゃべりをしていた。それは大抵、ラズモアの手が空く夕刻のことで、あたしの話題は学校での出来事が多かった。学校に行けないラズモアがあたしの話を聞いてどう感じるかなんて、あたしは考えもしなかった。
聞いているのかいないのか、相槌を打ちもしないラズモアの栗色の頭に、学校帰りに道草をして作った花冠を乗せると、彼は顔をしかめてそれを投げ捨てた。今思えばラズモアは、いつも何かに苛立っているようだった。その頃のあたしには気付くことができなかったけれど。
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