上 下
1 / 6

しおりを挟む
 あたしには幼馴染がいた。名前はラズモア。よっつになった年にお隣の老夫婦の家に引き取られて来た男の子だ。同い年だと知って当然のように毎日遊ぶようになった。あたしには兄弟姉妹がいなかったし、ラズモアも老夫婦と三人だけの寂しい暮らしだった。

 だから遊び相手が身近にできたことが単純に嬉しかったのだけど、それはあたしの方だけでラズモアはそうでもなかったかもしれない。少なくとも最初の頃は、毎朝あたしが迎えに行くと彼は迷惑そうな顔をしていた。

「ぼくは家のお手伝いがしたいのに」
「そんなことはいいんだよ。小さな子供は外で思い切り遊んでいればいいんだ」
「でも……」
「じゃあ、こう考えればいい。わたしらは年で体も不自由でお隣にはいつも助けてもらっている。おまえがお隣の嬢ちゃんの遊び相手になることがお隣りへの恩返しになるなら、それがわたしらのためにもなる。おまえはわたしらのためになることをしなくちゃと考えているのだろう?」
「うん」
「それなら嬢ちゃんとふたりで野原で思い切り遊んでおいで。嬢ちゃんが喜んでくれるのなら」
「もちろん! 行こう、ラズモア」
 おばあさんに言い聞かせられ、ラズモアはしぶしぶあたしに手を引かれて行くのだった。

「ラズモアはおじいさんとおばあさんが好きなんだね」
 栗色の髪の頭にシロツメクサで作った花冠を乗せてあげると、ラズモアは嫌そうに黒い瞳を細めてあたしを見た。
「好きというか、世話になってるから、感謝してる」

 言葉少なに彼が語ったことと、周りの態度などから。老夫婦はラズモアのお母さんの両親で、ラズモアのお母さんは病気で亡くなり、お父さんとは一緒に暮らせない理由があって、彼は祖父母を頼ることになったようだ。
 長じるにつれそんな事情が透けて見えるようになり、けれどそんなこととは関係なく、あたしはラズモアが大好きだった。



 ラズモアは少しずつ生きる為に仕事を始めて、あたしが構ってもらえる時間は段々と減っていった。

 ヒツジやウシの世話をするラズモアの傍らであたしはいつもひとりでおしゃべりをしていた。それは大抵、ラズモアの手が空く夕刻のことで、あたしの話題は学校での出来事が多かった。学校に行けないラズモアがあたしの話を聞いてどう感じるかなんて、あたしは考えもしなかった。

 聞いているのかいないのか、相槌を打ちもしないラズモアの栗色の頭に、学校帰りに道草をして作った花冠を乗せると、彼は顔をしかめてそれを投げ捨てた。今思えばラズモアは、いつも何かに苛立っているようだった。その頃のあたしには気付くことができなかったけれど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

【R18】通学路ですれ違うお姉さんに僕は食べられてしまった

ねんごろ
恋愛
小学4年生の頃。 僕は通学路で毎朝すれ違うお姉さんに… 食べられてしまったんだ……

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

放課後の生徒会室

志月さら
恋愛
春日知佳はある日の放課後、生徒会室で必死におしっこを我慢していた。幼馴染の三好司が書類の存在を忘れていて、生徒会長の楠木旭は殺気立っている。そんな状況でトイレに行きたいと言い出すことができない知佳は、ついに彼らの前でおもらしをしてしまい――。 ※この作品はpixiv、カクヨムにも掲載しています。

JC💋フェラ

山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...