宵の宮

奈月沙耶

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第十二話 〈翁〉再臨

1.遠い昔のはなし

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「しつっこい!」
 舌打してさやかは触手を薙ぎ払った。手首に巻き付いたそれに気を取られた隙に足元をすくわれた。太い触手が首に巻き付き締め上げる。

 《我ハ神ナリ
  我ハ神ナリ
  我ハ神ナリ……》

「ええ、そうだね。あんたは確かに《神》でしょうよ」
 呼吸がままならず息が苦しい。さやかは苦痛に眉を寄せながら叫んだ。
「でもね! 人はもう、あんたみたいな神を必要としないんだ!」

 不意に、それの気配が変わった。喉を締めつけていた触手が緩んだ。司が本体を見つけ出したのだ。

 さやかは機を逃さず剣を振るった。今度こそ完全に消え去るかと思えたそれは、最後の悪あがきを見せてさやかに迫った。
「とどめ!」
 迎え撃つさやかが剣を構える。その眼の前に突然、闇を塗り替えるようにして金色のさざ波が広がった。

(これは……)
 稲穂の波。重く実を稔らせた穂を垂れて、風に揺らいでいる。豊穣の大地……。

「わかるよ。言いたいことは」
 さやかは目を閉じて、懐かしいにおいに満ちた風に吹かれた。
「確かに、神が人とあった時代もある。でもそれは遠い昔のはなし。だから」

 さやかは目を見開いた。その気迫で幻想の風景はかき消えた。剣の先を闇の胎動へ向け、さやかが叫ぶ。

「あんたはもう、ここにいちゃ、いけないんだ!」
 それが最後の宣告だった。圧倒的な力に押され、祠の内の闇は一瞬にして消失した。後に残ったのは、朽ちかけてぼろぼろの祠だけ。

 さやかは静かに歩み寄ってその御神体をつまみだした。かさかさに乾燥した銀色のウロコ。
「……」
 さやかはウロコを乗せた手のひらを強く握りしめた。それは七色の光をまき散らしながら粉々になり、その光の粒子も儚く消えた。

「ごめんね」
 囁いて、さやかは乱暴に祠を破壊した。




 祠が無残な残骸を地に晒した頃、本殿からまばゆい光の柱が立ち上った。白光の柱ははるか天空へと伸び、そこに神のあることを示していた。

 さやかは御供部屋の脇を通って本殿へ向かった。既に司がいて、優しい笑みを浮かべて彼女の頭に手を置いた。
「頑張ったな」
「うん」

 本殿の内部には、光が満ちていた。
「来た」
 光の中から人影が現れた。

「約束は果たせたようだな」
 司の言葉に〈翁〉はゆるやかに頷いた。
「おそらくこの地もいずれはおまえには住みにくくなるだろう。それでもここに止まるか?」
「もとより、我はこの地に宿りしもの」
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