宵の宮

奈月沙耶

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第十一話 少年の戦い

4.淵の主

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「とにかくここは危険だ。移動させよう」
「自業自得じゃない。お望みどおり自分が人身御供になればいい」
「そうもいかんだろ、手伝え」
 仕方なく彼らを御供部屋に放り込み、最後に優しく、亜衣を統吾の傍らに寝かしつけた。

 その間にも扉の開け放たれた祠からは不快な気配が注ぎ出て、辺りの空気を染め変えようとしていた。空には雲もないのに稲光が走っている。

 祠の内には果てしのない暗闇があった。ときおり火花を散らしながら何かが息づくような胎動を見せている。
「形を成すほどの力が戻ってないのだな」
「だから村の人をせっついて、とびきりの贄を差し出させようとしたんだね」

「どうする?」
「決まってる」
 取り出した剣を一振りして、さやかは言った。彼女の意志を感じ取ったのか闇がうねって触手を伸ばした。
 それが大きく膨張しようとする動きになった瞬間を狙って、さやかは力を放った。一撃を食らって闇はもろくも霧散した。が……

「なに?」
 再び闇は凝縮して、新たな胎動を見せ始めたのである。
「これは……」
 司が唸る。もう一度さやかは剣を振る。それはやはりあっけなく薙ぎ払われる。が、またもや新たに闇が湧き起こった。

「どういうこと?」
 声を低くしてさやかが尋ねる。
「どこかに本体があるんだ」
「本体って……」
 振り返ったさやかに黒い触手が襲い掛かる。飛退いた彼女の手首に絡みつく。

「このっ」
 ひと睨みで簡単に霧散した。しかしいくら造作なく倒せても際限なく再生されてはキリがない。
「ったく、あたしはこういうのがいちばん嫌いなのに!」

 考えを巡らせた司はすぐに思い至って指を鳴らした。
「『淵の主』だ」
 さやかもすぐに察した。
「川に棲むという緋鯉!」
「持ちこたえろ」

 身をひるがえし司は川へ向かった。夜の水面はどす黒く、闇の深淵を思わせる。苛立つ気持ちを抑え司は心を研ぎ澄ませる。
(逃れられるものではないぞ)
(姿を現せ)

 司の神経に何かが触れた。そちらに向かって走り水の中に踏み込む。
「……」
 先日は美しく感じた虫の音も今は煩わしい。と、確かに何かが身動きした。闇の深いところで影が揺れている。
 それに向け、司は手刀をつき立てた。
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