宵の宮

奈月沙耶

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第十一話 少年の戦い

2.役目

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 正装した〈年寄〉〈清座〉の横座のふたりが立っていた。昌宏は相変わらず頬を上気させて荒い息を繰り返していたが、統吾もいい加減混乱してきていた。

〈神まつり〉は秘事なのである、ここで宮参りをする神主の姿を見た者には不幸が訪れるという。それゆえ宵宮の芸能が終わった後の神社には誰も寄り付かない。こんなふうに闖入者が次々現れるなどあり得ない。

 宮座の最長老が姿を見せると、昌宏は今度はそっちに詰め寄った。
「あんたらだろ、亜衣を連れてったのは! 人身御供なんておれは絶対に許さないっ」
 それを聞いて統吾たちも表情を変える。
「それはどういう……」
「おまえら半人前には関係のないことだ」
 ぴしゃりと言われ統吾は口を閉じる。

「亜衣はおれの姪っ子だぞ」
「そう深刻ぶることはないだろう。夜明け前には無事に返す」
「ふざけるな! そういう問題じゃない!」
 辟易した表情で宮座の長老は昌宏を連れていくよう指示した。昌宏は激しく抵抗したが御供部屋の裏へと引きずられていく。それを見て今度は統吾が進み出た。

「横座さん。これはどういうことですか」
「刻限はすぎている。早く神事を始めなさい。それと今年は『山の神』への御供は必要ないから、裏の祠へは近づくな。いいな」
「待ってください!」
 珍しく統吾は大声を出した。

「神事の責任者は僕のはずでしょう。その僕が知らないことがあるとはどういうことですか。それにこんな騒ぎじゃとても神事を務めることなどできません」
「何を言う。神まつりは例年通りに行うのだ」
「しかし」
「能書きはどうでもよろしい。さっさと取り掛かれ」
 言いたいことだけを言って長老は行ってしまった。当屋の杉山少年と禰宜が戸惑ったように統吾を見ている。

「僕たちは役目を果たすことだけ考えよう」
 統吾は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「もう一度禊に行こう。そうした方がいい」
「はい」
 結論が出てほっとしたのか年下のふたりは明るい表情になって統吾の後に続いた。



 一方で昌宏はまだ抵抗を続けていた。
「いい加減にしないか。おまえも宮座の一員なら聞き分けろ」
「もういい。時間が押している。放してやれ」
 長老は落ち窪んだ目で昌宏をじっと見つめていた。
「そんなに心配なら見ているがいい」
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