42 / 50
第十一話 少年の戦い
2.役目
しおりを挟む
正装した〈年寄〉〈清座〉の横座のふたりが立っていた。昌宏は相変わらず頬を上気させて荒い息を繰り返していたが、統吾もいい加減混乱してきていた。
〈神まつり〉は秘事なのである、ここで宮参りをする神主の姿を見た者には不幸が訪れるという。それゆえ宵宮の芸能が終わった後の神社には誰も寄り付かない。こんなふうに闖入者が次々現れるなどあり得ない。
宮座の最長老が姿を見せると、昌宏は今度はそっちに詰め寄った。
「あんたらだろ、亜衣を連れてったのは! 人身御供なんておれは絶対に許さないっ」
それを聞いて統吾たちも表情を変える。
「それはどういう……」
「おまえら半人前には関係のないことだ」
ぴしゃりと言われ統吾は口を閉じる。
「亜衣はおれの姪っ子だぞ」
「そう深刻ぶることはないだろう。夜明け前には無事に返す」
「ふざけるな! そういう問題じゃない!」
辟易した表情で宮座の長老は昌宏を連れていくよう指示した。昌宏は激しく抵抗したが御供部屋の裏へと引きずられていく。それを見て今度は統吾が進み出た。
「横座さん。これはどういうことですか」
「刻限はすぎている。早く神事を始めなさい。それと今年は『山の神』への御供は必要ないから、裏の祠へは近づくな。いいな」
「待ってください!」
珍しく統吾は大声を出した。
「神事の責任者は僕のはずでしょう。その僕が知らないことがあるとはどういうことですか。それにこんな騒ぎじゃとても神事を務めることなどできません」
「何を言う。神まつりは例年通りに行うのだ」
「しかし」
「能書きはどうでもよろしい。さっさと取り掛かれ」
言いたいことだけを言って長老は行ってしまった。当屋の杉山少年と禰宜が戸惑ったように統吾を見ている。
「僕たちは役目を果たすことだけ考えよう」
統吾は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「もう一度禊に行こう。そうした方がいい」
「はい」
結論が出てほっとしたのか年下のふたりは明るい表情になって統吾の後に続いた。
一方で昌宏はまだ抵抗を続けていた。
「いい加減にしないか。おまえも宮座の一員なら聞き分けろ」
「もういい。時間が押している。放してやれ」
長老は落ち窪んだ目で昌宏をじっと見つめていた。
「そんなに心配なら見ているがいい」
〈神まつり〉は秘事なのである、ここで宮参りをする神主の姿を見た者には不幸が訪れるという。それゆえ宵宮の芸能が終わった後の神社には誰も寄り付かない。こんなふうに闖入者が次々現れるなどあり得ない。
宮座の最長老が姿を見せると、昌宏は今度はそっちに詰め寄った。
「あんたらだろ、亜衣を連れてったのは! 人身御供なんておれは絶対に許さないっ」
それを聞いて統吾たちも表情を変える。
「それはどういう……」
「おまえら半人前には関係のないことだ」
ぴしゃりと言われ統吾は口を閉じる。
「亜衣はおれの姪っ子だぞ」
「そう深刻ぶることはないだろう。夜明け前には無事に返す」
「ふざけるな! そういう問題じゃない!」
辟易した表情で宮座の長老は昌宏を連れていくよう指示した。昌宏は激しく抵抗したが御供部屋の裏へと引きずられていく。それを見て今度は統吾が進み出た。
「横座さん。これはどういうことですか」
「刻限はすぎている。早く神事を始めなさい。それと今年は『山の神』への御供は必要ないから、裏の祠へは近づくな。いいな」
「待ってください!」
珍しく統吾は大声を出した。
「神事の責任者は僕のはずでしょう。その僕が知らないことがあるとはどういうことですか。それにこんな騒ぎじゃとても神事を務めることなどできません」
「何を言う。神まつりは例年通りに行うのだ」
「しかし」
「能書きはどうでもよろしい。さっさと取り掛かれ」
言いたいことだけを言って長老は行ってしまった。当屋の杉山少年と禰宜が戸惑ったように統吾を見ている。
「僕たちは役目を果たすことだけ考えよう」
統吾は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「もう一度禊に行こう。そうした方がいい」
「はい」
結論が出てほっとしたのか年下のふたりは明るい表情になって統吾の後に続いた。
一方で昌宏はまだ抵抗を続けていた。
「いい加減にしないか。おまえも宮座の一員なら聞き分けろ」
「もういい。時間が押している。放してやれ」
長老は落ち窪んだ目で昌宏をじっと見つめていた。
「そんなに心配なら見ているがいい」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる