41 / 50
第十一話 少年の戦い
1.「サイテー」
しおりを挟む
さやかに急を告げられて合流し、宮座の重鎮たちが集まっているという家の様子を木陰から見下ろした司はやれやれと額を押えた。
「やっぱりと言おうかなんと言おうか」
「サイテー」
言葉を濁らせた司に対してさやかは一言で切って捨てた。亜衣は神社に近い一軒の民家に連れ込まれていた。〈神まつり〉が始まるのを待って亜衣を神社へ連れていくつもりなのだろう。
「彼らは真面目で真剣なんだよ。そうしなければならないと思ってるんだ」
「真似だけなら簡単だって? 形だけの見返りを示せばそれですむと? 随分都合の良いこと。あんな小さな子どもを利用するなんて」
さやかは俯いてくちびるを噛んだ。
司はこんもりと黒い影になっている裏山へと視線を投げた。
「五百年以上の時をかけ、人々の念をもとに力を蓄えたミヅチが現れようとしている」
「出てきてくれなきゃ困る」
「ああ」
同意して司は視線を流した。見張っている民家に動きがある。
赤い着物を着せられた亜衣が腕を引かれて出てきた。寝入っていたのか眠そうに眼をこすっている。正装した宮座のひとりが亜衣を抱き上げ、彼らは裏参道から神社へ向かった。
さやかと司は先回りするため木立の枝の間を潜り抜け、道のない斜面を駆け上がった。
昌宏は息を切らして石段を駆け上り境内の中へと飛び込んだ。
「昌宏?」
拝殿に座っていた当屋の杉山少年が止めようとしたが、昌宏はそれを振り切ってまっすぐに御供部屋に向かった。
まだ神事は始まっていなかったらしい。騒ぎを聞きつけたのか統吾がすぐに顔を出した。
「どうしたんだ、一体」
全速力でここまで走って来た昌宏はぜいぜい肩で息をつきながら統吾にしがみついた。
「亜衣は?」
「え?」
「亜衣だよ。どこへやったんだよ!」
「待ってよ。僕にはなんのことだか」
統吾は本当に知らないらしい。しかし気の昂っている昌宏には聞き入れる余裕はない。
「亜衣を返せっ」
「昌宏! やめろって」
とにかく興奮している彼を統吾から引き剥そうと、当屋の杉山少年と禰宜とか間に入る。揉み合っているところへしゃがれた声が割り込んできた。
「大事な神まつりの神事を前に何を騒いでおるのだ!」
「やっぱりと言おうかなんと言おうか」
「サイテー」
言葉を濁らせた司に対してさやかは一言で切って捨てた。亜衣は神社に近い一軒の民家に連れ込まれていた。〈神まつり〉が始まるのを待って亜衣を神社へ連れていくつもりなのだろう。
「彼らは真面目で真剣なんだよ。そうしなければならないと思ってるんだ」
「真似だけなら簡単だって? 形だけの見返りを示せばそれですむと? 随分都合の良いこと。あんな小さな子どもを利用するなんて」
さやかは俯いてくちびるを噛んだ。
司はこんもりと黒い影になっている裏山へと視線を投げた。
「五百年以上の時をかけ、人々の念をもとに力を蓄えたミヅチが現れようとしている」
「出てきてくれなきゃ困る」
「ああ」
同意して司は視線を流した。見張っている民家に動きがある。
赤い着物を着せられた亜衣が腕を引かれて出てきた。寝入っていたのか眠そうに眼をこすっている。正装した宮座のひとりが亜衣を抱き上げ、彼らは裏参道から神社へ向かった。
さやかと司は先回りするため木立の枝の間を潜り抜け、道のない斜面を駆け上がった。
昌宏は息を切らして石段を駆け上り境内の中へと飛び込んだ。
「昌宏?」
拝殿に座っていた当屋の杉山少年が止めようとしたが、昌宏はそれを振り切ってまっすぐに御供部屋に向かった。
まだ神事は始まっていなかったらしい。騒ぎを聞きつけたのか統吾がすぐに顔を出した。
「どうしたんだ、一体」
全速力でここまで走って来た昌宏はぜいぜい肩で息をつきながら統吾にしがみついた。
「亜衣は?」
「え?」
「亜衣だよ。どこへやったんだよ!」
「待ってよ。僕にはなんのことだか」
統吾は本当に知らないらしい。しかし気の昂っている昌宏には聞き入れる余裕はない。
「亜衣を返せっ」
「昌宏! やめろって」
とにかく興奮している彼を統吾から引き剥そうと、当屋の杉山少年と禰宜とか間に入る。揉み合っているところへしゃがれた声が割り込んできた。
「大事な神まつりの神事を前に何を騒いでおるのだ!」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユウとリナの四日間
奈月沙耶
ライト文芸
働かない父親と家出を繰り返す母親と三人で暮らしている小学生のリナ。
ある夜、母親に連れて行かれた山中で首を絞められる。
助けてくれたのは、山の中の工場で働きながら古いアパートで一人で暮らしているおにいさん「ユウ」だった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる