宵の宮

奈月沙耶

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第十一話 少年の戦い

1.「サイテー」

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 さやかに急を告げられて合流し、宮座の重鎮たちが集まっているという家の様子を木陰から見下ろした司はやれやれと額を押えた。
「やっぱりと言おうかなんと言おうか」
「サイテー」

 言葉を濁らせた司に対してさやかは一言で切って捨てた。亜衣は神社に近い一軒の民家に連れ込まれていた。〈神まつり〉が始まるのを待って亜衣を神社へ連れていくつもりなのだろう。

「彼らは真面目で真剣なんだよ。そうしなければならないと思ってるんだ」
「真似だけなら簡単だって? 形だけの見返りを示せばそれですむと? 随分都合の良いこと。あんな小さな子どもを利用するなんて」
 さやかは俯いてくちびるを噛んだ。

 司はこんもりと黒い影になっている裏山へと視線を投げた。
「五百年以上の時をかけ、人々の念をもとに力を蓄えたミヅチが現れようとしている」
「出てきてくれなきゃ困る」
「ああ」
 同意して司は視線を流した。見張っている民家に動きがある。

 赤い着物を着せられた亜衣が腕を引かれて出てきた。寝入っていたのか眠そうに眼をこすっている。正装した宮座のひとりが亜衣を抱き上げ、彼らは裏参道から神社へ向かった。
 さやかと司は先回りするため木立の枝の間を潜り抜け、道のない斜面を駆け上がった。




 昌宏は息を切らして石段を駆け上り境内の中へと飛び込んだ。
「昌宏?」
 拝殿に座っていた当屋の杉山少年が止めようとしたが、昌宏はそれを振り切ってまっすぐに御供部屋に向かった。
 まだ神事は始まっていなかったらしい。騒ぎを聞きつけたのか統吾がすぐに顔を出した。

「どうしたんだ、一体」
 全速力でここまで走って来た昌宏はぜいぜい肩で息をつきながら統吾にしがみついた。
「亜衣は?」
「え?」
「亜衣だよ。どこへやったんだよ!」
「待ってよ。僕にはなんのことだか」

 統吾は本当に知らないらしい。しかし気の昂っている昌宏には聞き入れる余裕はない。
「亜衣を返せっ」
「昌宏! やめろって」
 とにかく興奮している彼を統吾から引き剥そうと、当屋の杉山少年と禰宜とか間に入る。揉み合っているところへしゃがれた声が割り込んできた。
「大事な神まつりの神事を前に何を騒いでおるのだ!」
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