宵の宮

奈月沙耶

文字の大きさ
上 下
39 / 50
第十話 宵宮

2.デモンストレーション

しおりを挟む
 高遠は今度は村の人たちが『山の神』と呼んでいる裏山の祠へと続く階段を登りはじめた。ご丁寧に懐中電灯持参である。

 木立の間に潜んださやかは索状を取り出した。軽く回して勢いをつけてから鋭く振るう。それは高遠の腕に見事に巻き付き、すかさずさやかは思いきり引っ張る。
「わ……」
 高遠は簡単にバランスを崩して倒れ込んだ。懐中電灯が転がって灯りが消える。さやかは素早く接近し鳩尾に一撃を叩きこんだ。

 実にあっけなく高遠は意識を失った。さやかは彼の体を木立の奥へと引きずっていき手頃な木の幹に縛り付けた。
「こんなもんでしょ」
 その気になってもがけば縄が緩んで解けるようにしておいてその場を後にした。


 見物人の輪の外で待っていると司も戻ってきた。彼は手の中に何か金属の塊を握っていた。
「何それ」
「小松のカメラだ」
「かわいそうに。で、本人は」
「向こうでのびてる」
「どんな怖い目に合わせたの?」
「勝手に失神したんだ。仕事道具さえなくなればカメラマンは用無しだ。正気に戻ればすぐさまここを出ていくだろう」
 淡々と言って司は拝殿へと視線を流した。

 境内の中央で斎灯が焚かれ、本殿と向かい合う拝殿で神主を中心とした〈清座〉による御神楽が始まった。〈清座〉の人々が鼓や笛で囃し神主が鈴を持って舞う巫女舞の基本形を残したものだ。
 緊張しているのか統吾は終始硬い表情だったが危なげなく舞い終えた。

 続いて舞殿にお囃子を担当する〈清座〉が居並び、その前庭で〈若い衆〉による舞が演じられる。いよいよ宵宮本番だ。

 まず斎灯の明かりの中に進み出たのは、あたまに鳥甲をかぶって鼻高面をつけ、独特の衣装に腰に太刀を帯び手には鉾を持った舞人である。
「そろそろやるか」
 司が囁く。さやかはじっと斎灯の炎に視線を注ぐ。

 中央に歩み出た舞人は両足を踏ん張らせて地面を踏みしめるように立ち、両手で鉾を頭上高く掲げ上げた。
 彼の背にした炎がまばゆく燃え上がった。両腕を上げたその動作に清めの炎が同調したかのように。

 見物人の間から歓声が上った。それを確認して司は頷く。
「もう二、三度この手のデモンストレーションを行おう。オハケの件が凶兆ではなく瑞兆だったと思われるように」
 さやかは無言で頷いた。

〈王の舞〉の後に獅子舞・田楽舞・扇の舞と演目が進んでいく中で、さやかは見物人の端に正装姿でうろうろしている昌宏を見つけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

猫がいた風景

篠原 皐月
ライト文芸
太郎が帰省した実家で遭遇した、生後2ヵ月の姉妹猫、ミミとハナ。 偶に顔を合わせるだけの準家族二匹と、彼のほのぼのとした交流。 小説家になろう、カクヨムからの転載作品です。

立花家へようこそ!

由奈(YUNA)
ライト文芸
私が出会ったのは立花家の7人家族でした・・・―――― これは、内気な私が成長していく物語。 親の仕事の都合でお世話になる事になった立花家は、楽しくて、暖かくて、とっても優しい人達が暮らす家でした。

はちびっと

とし
ライト文芸
とあるゲーム会社に就職した安達アカネ。絶滅危惧種であるドット職人を目指し、日々奮闘する物語。 作者遅筆により更新はいつされるか分かりません。

【完結】マーガレット・アン・バルクレーの涙

高城蓉理
ライト文芸
~僕が好きになった彼女は次元を超えた天才だった~ ●下呂温泉街に住む普通の高校生【荒巻恒星】は、若干16歳で英国の大学を卒業し医師免許を保有する同い年の天才少女【御坂麻愛】と期限限定で一緒に暮らすことになる。 麻愛の出生の秘密、近親恋愛、未成年者と大人の禁断の恋など、複雑な事情に巻き込まれながら、恒星自身も自分のあり方や進路、次元が違うステージに生きる麻愛への恋心に悩むことになる。 愛の形の在り方を模索する高校生の青春ラブロマンスです。 ●姉妹作→ニュートンの忘れ物 ●illustration いーりす様

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...