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第十話 宵宮
2.デモンストレーション
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高遠は今度は村の人たちが『山の神』と呼んでいる裏山の祠へと続く階段を登りはじめた。ご丁寧に懐中電灯持参である。
木立の間に潜んださやかは索状を取り出した。軽く回して勢いをつけてから鋭く振るう。それは高遠の腕に見事に巻き付き、すかさずさやかは思いきり引っ張る。
「わ……」
高遠は簡単にバランスを崩して倒れ込んだ。懐中電灯が転がって灯りが消える。さやかは素早く接近し鳩尾に一撃を叩きこんだ。
実にあっけなく高遠は意識を失った。さやかは彼の体を木立の奥へと引きずっていき手頃な木の幹に縛り付けた。
「こんなもんでしょ」
その気になってもがけば縄が緩んで解けるようにしておいてその場を後にした。
見物人の輪の外で待っていると司も戻ってきた。彼は手の中に何か金属の塊を握っていた。
「何それ」
「小松のカメラだ」
「かわいそうに。で、本人は」
「向こうでのびてる」
「どんな怖い目に合わせたの?」
「勝手に失神したんだ。仕事道具さえなくなればカメラマンは用無しだ。正気に戻ればすぐさまここを出ていくだろう」
淡々と言って司は拝殿へと視線を流した。
境内の中央で斎灯が焚かれ、本殿と向かい合う拝殿で神主を中心とした〈清座〉による御神楽が始まった。〈清座〉の人々が鼓や笛で囃し神主が鈴を持って舞う巫女舞の基本形を残したものだ。
緊張しているのか統吾は終始硬い表情だったが危なげなく舞い終えた。
続いて舞殿にお囃子を担当する〈清座〉が居並び、その前庭で〈若い衆〉による舞が演じられる。いよいよ宵宮本番だ。
まず斎灯の明かりの中に進み出たのは、あたまに鳥甲をかぶって鼻高面をつけ、独特の衣装に腰に太刀を帯び手には鉾を持った舞人である。
「そろそろやるか」
司が囁く。さやかはじっと斎灯の炎に視線を注ぐ。
中央に歩み出た舞人は両足を踏ん張らせて地面を踏みしめるように立ち、両手で鉾を頭上高く掲げ上げた。
彼の背にした炎がまばゆく燃え上がった。両腕を上げたその動作に清めの炎が同調したかのように。
見物人の間から歓声が上った。それを確認して司は頷く。
「もう二、三度この手のデモンストレーションを行おう。オハケの件が凶兆ではなく瑞兆だったと思われるように」
さやかは無言で頷いた。
〈王の舞〉の後に獅子舞・田楽舞・扇の舞と演目が進んでいく中で、さやかは見物人の端に正装姿でうろうろしている昌宏を見つけた。
木立の間に潜んださやかは索状を取り出した。軽く回して勢いをつけてから鋭く振るう。それは高遠の腕に見事に巻き付き、すかさずさやかは思いきり引っ張る。
「わ……」
高遠は簡単にバランスを崩して倒れ込んだ。懐中電灯が転がって灯りが消える。さやかは素早く接近し鳩尾に一撃を叩きこんだ。
実にあっけなく高遠は意識を失った。さやかは彼の体を木立の奥へと引きずっていき手頃な木の幹に縛り付けた。
「こんなもんでしょ」
その気になってもがけば縄が緩んで解けるようにしておいてその場を後にした。
見物人の輪の外で待っていると司も戻ってきた。彼は手の中に何か金属の塊を握っていた。
「何それ」
「小松のカメラだ」
「かわいそうに。で、本人は」
「向こうでのびてる」
「どんな怖い目に合わせたの?」
「勝手に失神したんだ。仕事道具さえなくなればカメラマンは用無しだ。正気に戻ればすぐさまここを出ていくだろう」
淡々と言って司は拝殿へと視線を流した。
境内の中央で斎灯が焚かれ、本殿と向かい合う拝殿で神主を中心とした〈清座〉による御神楽が始まった。〈清座〉の人々が鼓や笛で囃し神主が鈴を持って舞う巫女舞の基本形を残したものだ。
緊張しているのか統吾は終始硬い表情だったが危なげなく舞い終えた。
続いて舞殿にお囃子を担当する〈清座〉が居並び、その前庭で〈若い衆〉による舞が演じられる。いよいよ宵宮本番だ。
まず斎灯の明かりの中に進み出たのは、あたまに鳥甲をかぶって鼻高面をつけ、独特の衣装に腰に太刀を帯び手には鉾を持った舞人である。
「そろそろやるか」
司が囁く。さやかはじっと斎灯の炎に視線を注ぐ。
中央に歩み出た舞人は両足を踏ん張らせて地面を踏みしめるように立ち、両手で鉾を頭上高く掲げ上げた。
彼の背にした炎がまばゆく燃え上がった。両腕を上げたその動作に清めの炎が同調したかのように。
見物人の間から歓声が上った。それを確認して司は頷く。
「もう二、三度この手のデモンストレーションを行おう。オハケの件が凶兆ではなく瑞兆だったと思われるように」
さやかは無言で頷いた。
〈王の舞〉の後に獅子舞・田楽舞・扇の舞と演目が進んでいく中で、さやかは見物人の端に正装姿でうろうろしている昌宏を見つけた。
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