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第九話 午睡と過去
2.どうして?
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「どうしてついてくるの?」
「ついてきたいから」
「どうして私についてきたいの?」
また黙っていると少女はふと思いついた顔つきになって首を傾げた。
「ひとりがイヤなの?」
こくんと頷く。
「どうしてひとりがイヤなの?」
また、どうして? いい加減いやになって叫ぶようにして答えた。
「怖いからに決まってるだろう」
「怖い? 何が怖いの?」
「いろいろなものがだよ。いろいろなことがだよ」
「私と一緒なら怖くないの?」
ますます訝し気に尋ねてきた彼女の顔を見上げ、目を瞬かせて彼は言った。
「よくわからないけど、大丈夫な気がする」
「……」
彼女は少し目を伏せ、それから静かに口を開いた。
「私はサヤ。あなたは?」
「え?」
「名前」
「わからない」
いろいろな場所で、いろいろな場合によって、いろいろな呼ばれ方をされたから。
「それなら、いつもあなたの方から私を呼べばいい」
ほんの少しだけ、かすかに微笑み、サヤは彼の手を取って歩きだした。細く小さな手のひらだった。
それからふたりで方々を渡り歩いた。山中で何日間もすごすこともあったし、邑に下りて数か月そこで暮らすこともあった。何か目的がある様子もなくサヤは彼を連れて国から国へ流れ歩いた。
「ヒトの考えることってやっぱりわからない」
サヤはいつもそうつぶやいていた。まるで彼女自身はヒトではないような言い方だと思った。そのうち確信を持って思うようになった。サヤはヒトではない。
ときおり垣間見る彼女の不思議な力。何より数年を一緒にすごして気がついた。サヤは成長しないのだ。
出会った頃、彼はサヤより幼かった。背も低く体も小さかった。いつも彼女を見上げていた。それがいつの間にか逆になっていた。確実に彼は成長していくのにサヤは明らかに年をとっていなかった。
「私はあんたと違うから、こんな怪我どうということはない」
彼女が負った傷口がみるみるふさがっていくのを目の当たりにしたとき、強く思った。サヤはヒトではないのだ。
それで、だからどうということはなかった。ただ、ひとつだけ気掛かりなことがあった。
「ついてきたいから」
「どうして私についてきたいの?」
また黙っていると少女はふと思いついた顔つきになって首を傾げた。
「ひとりがイヤなの?」
こくんと頷く。
「どうしてひとりがイヤなの?」
また、どうして? いい加減いやになって叫ぶようにして答えた。
「怖いからに決まってるだろう」
「怖い? 何が怖いの?」
「いろいろなものがだよ。いろいろなことがだよ」
「私と一緒なら怖くないの?」
ますます訝し気に尋ねてきた彼女の顔を見上げ、目を瞬かせて彼は言った。
「よくわからないけど、大丈夫な気がする」
「……」
彼女は少し目を伏せ、それから静かに口を開いた。
「私はサヤ。あなたは?」
「え?」
「名前」
「わからない」
いろいろな場所で、いろいろな場合によって、いろいろな呼ばれ方をされたから。
「それなら、いつもあなたの方から私を呼べばいい」
ほんの少しだけ、かすかに微笑み、サヤは彼の手を取って歩きだした。細く小さな手のひらだった。
それからふたりで方々を渡り歩いた。山中で何日間もすごすこともあったし、邑に下りて数か月そこで暮らすこともあった。何か目的がある様子もなくサヤは彼を連れて国から国へ流れ歩いた。
「ヒトの考えることってやっぱりわからない」
サヤはいつもそうつぶやいていた。まるで彼女自身はヒトではないような言い方だと思った。そのうち確信を持って思うようになった。サヤはヒトではない。
ときおり垣間見る彼女の不思議な力。何より数年を一緒にすごして気がついた。サヤは成長しないのだ。
出会った頃、彼はサヤより幼かった。背も低く体も小さかった。いつも彼女を見上げていた。それがいつの間にか逆になっていた。確実に彼は成長していくのにサヤは明らかに年をとっていなかった。
「私はあんたと違うから、こんな怪我どうということはない」
彼女が負った傷口がみるみるふさがっていくのを目の当たりにしたとき、強く思った。サヤはヒトではないのだ。
それで、だからどうということはなかった。ただ、ひとつだけ気掛かりなことがあった。
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