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第八話 本音と喧嘩
5.どうしよう
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連れ立って神社から引き揚げてきた和臣と司は、遠目に二人の姿を見つけ一部始終を見物していた。面白そうに人の悪い笑みを浮かべている和臣に対して、一方の司はすっかり頭を抱えてしまっていた。
「いやはや、可愛いものだね」
「お恥ずかしい限りです」
和臣は声をあげて笑った。
「ほら。冷やしておけ、腫れてるぞ」
司から濡れタオルを受け取ってさやかは顔をしかめる。
「これだからガキは。人を殴る加減も知らないんだから」
「おまえだって思いきり殴り返してたぞ、お互い様だ」
はあっとため息を落とすさやかを置いて、司は昌宏の部屋に行ってみた。
「ちょっといいかな」
声をかけると襖の向こうから慌てたような声がして昌宏が顔を覗かせた。
「冷やしておいた方がいいよ」
司は昌宏にも濡れタオルを差し出す。
「悪かったね。妹が乱暴して」
「先に殴ったの、おれですから」
すみません、と小さな声で昌宏は謝る。司は微笑んで机の上に積まれている本を見た。
「難しい本を読んでるんだね」
一番上の一冊を手に取って司は言う。
「読んでも何が書かれてあるのかわかりません」
「それはそうだよ。この人の書く論文は同じ学者でも一度では理解しきれないと難解なことで有名なんだ」
「そう、なんだ」
司は笑って昌宏に尋ねた。
「君は大学に行きたいの?」
「できれば」
「それなら、村を出るんだね」
「……」
そんなことは考えもしなかった。が、その通りである。
「神主や禰宜に当たってる人が村から離れる場合には、代役を立てるのだとお父さんに聞いたけど」
現在の宮座の序列からいって、昌宏に神主の順番が回ってくるころには自分は進学しているだろう。思いもしなかったことに昌宏は少なからず衝撃を受けた。
神主を務めることができない。それは、宮座の中で一人前であることの証を立てられないということだ。二度と戻らないつもりならそれもいいだろう。けれど昌宏にはそんなつもりは毛頭ない。
(どうしよう)
爆弾を放り込んでおいて昌宏の悩む様子を眺めていた司は、その深刻な表情に見かねて言った。
「ごめんよ。まだ先の話だし、今考えることではないね」
もう一度机の上の本を眺めて司はちょっと笑った。
「やっぱりお義兄さんの影響だね」
昌宏は俯いたまま答えない。司も黙って部屋を出た。
「いやはや、可愛いものだね」
「お恥ずかしい限りです」
和臣は声をあげて笑った。
「ほら。冷やしておけ、腫れてるぞ」
司から濡れタオルを受け取ってさやかは顔をしかめる。
「これだからガキは。人を殴る加減も知らないんだから」
「おまえだって思いきり殴り返してたぞ、お互い様だ」
はあっとため息を落とすさやかを置いて、司は昌宏の部屋に行ってみた。
「ちょっといいかな」
声をかけると襖の向こうから慌てたような声がして昌宏が顔を覗かせた。
「冷やしておいた方がいいよ」
司は昌宏にも濡れタオルを差し出す。
「悪かったね。妹が乱暴して」
「先に殴ったの、おれですから」
すみません、と小さな声で昌宏は謝る。司は微笑んで机の上に積まれている本を見た。
「難しい本を読んでるんだね」
一番上の一冊を手に取って司は言う。
「読んでも何が書かれてあるのかわかりません」
「それはそうだよ。この人の書く論文は同じ学者でも一度では理解しきれないと難解なことで有名なんだ」
「そう、なんだ」
司は笑って昌宏に尋ねた。
「君は大学に行きたいの?」
「できれば」
「それなら、村を出るんだね」
「……」
そんなことは考えもしなかった。が、その通りである。
「神主や禰宜に当たってる人が村から離れる場合には、代役を立てるのだとお父さんに聞いたけど」
現在の宮座の序列からいって、昌宏に神主の順番が回ってくるころには自分は進学しているだろう。思いもしなかったことに昌宏は少なからず衝撃を受けた。
神主を務めることができない。それは、宮座の中で一人前であることの証を立てられないということだ。二度と戻らないつもりならそれもいいだろう。けれど昌宏にはそんなつもりは毛頭ない。
(どうしよう)
爆弾を放り込んでおいて昌宏の悩む様子を眺めていた司は、その深刻な表情に見かねて言った。
「ごめんよ。まだ先の話だし、今考えることではないね」
もう一度机の上の本を眺めて司はちょっと笑った。
「やっぱりお義兄さんの影響だね」
昌宏は俯いたまま答えない。司も黙って部屋を出た。
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