23 / 50
第六話 墜落
3.絶句
しおりを挟む
不快気に眉を吊り上げさやかは腰に手を当て祠の前に仁王立ちした。
「やっかましいな。一度言えばわかるよ。偉そうに『誰だ』ですって? 自己紹介ならそっちからなさいよ」
「おまえは黙ってろ」
三脚バッグを押しつけて司がさやかを下がらせた。
「こちらも問う。おまえは何者だ?」
《……
我ハ、カミ也
カミ也
カミ也……》
はっと、さやかは身を乗り出した。
「司!」
瞬間、足元の地面がぐにゃりと沈んだ。一瞬にして辺りは漆黒の闇に閉ざされる。司も頬を強張らせて叫んだ。
「さやかっ。どこだ! 手を……」
指先に触れた手を引き寄せ、司は強くその体を抱きしめた。
軽い浮遊感の後、地面に叩きつけられそのまま斜面を転がり落ちた。
「いったあ」
大木の根元に当たってようやく回転が止まり、さやかは体を起こして後頭部を押さえた。
「なんなの、もうっ! あったまきた!」
「いいから早くどかないか」
思いきりさやかの下敷きになっている司が呻く。
「あ、ごめん」
司はよろよろ立ち上がって落ち葉や土埃を払った。
「この季節で助かった」
しっかり三脚バッグを胸に抱きしめたまま、さやかも立ち上がった。彼女に目を向けた司が、ぴたりと体の動きを止めた。
「どうしたの?」
司はすうっと腕を上げて、さやかの背後を指差した。
「?」
振り返ったさやかは絶句した。さっきまで、なかったはずの光景が広がっていたからだ。
「ここは、いつなんだ?」
冷静に司がつぶやく。
月明りが、木々の輪郭を朧に浮かび上がらせる。そして、滔々と水をたたえた大きな池の水面が、青白い光に照らされて不気味に光輝いていた。
樹木の間から覗く社殿の屋根を見下ろして、さやかは大きく息を吐き出した。
「見てよ、あれ」
「随分荒廃してるな。するとここは……」
大木の幹に背中を預けて司は空を仰ぐ。さやかは司の隣に腰を下ろした。
「それにしても悔しい。あんな低俗な地霊にしてやられるなんて」
「偶然に決まってる。時期と場所が悪かった。これはもう歪みが自己修復されて元に戻るのを待つしかないな」
ふて腐れたように頬杖をつくさやかを横目に司は軽く眉を寄せてつぶやいた。
「しかし、祭礼を目前に控えていたとはいえあの《気》は異様だ。誰か、余程強く思いを込めたとみえる」
「統吾さんが?」
「それは本人に訊いてみなければわからないさ」
「やっかましいな。一度言えばわかるよ。偉そうに『誰だ』ですって? 自己紹介ならそっちからなさいよ」
「おまえは黙ってろ」
三脚バッグを押しつけて司がさやかを下がらせた。
「こちらも問う。おまえは何者だ?」
《……
我ハ、カミ也
カミ也
カミ也……》
はっと、さやかは身を乗り出した。
「司!」
瞬間、足元の地面がぐにゃりと沈んだ。一瞬にして辺りは漆黒の闇に閉ざされる。司も頬を強張らせて叫んだ。
「さやかっ。どこだ! 手を……」
指先に触れた手を引き寄せ、司は強くその体を抱きしめた。
軽い浮遊感の後、地面に叩きつけられそのまま斜面を転がり落ちた。
「いったあ」
大木の根元に当たってようやく回転が止まり、さやかは体を起こして後頭部を押さえた。
「なんなの、もうっ! あったまきた!」
「いいから早くどかないか」
思いきりさやかの下敷きになっている司が呻く。
「あ、ごめん」
司はよろよろ立ち上がって落ち葉や土埃を払った。
「この季節で助かった」
しっかり三脚バッグを胸に抱きしめたまま、さやかも立ち上がった。彼女に目を向けた司が、ぴたりと体の動きを止めた。
「どうしたの?」
司はすうっと腕を上げて、さやかの背後を指差した。
「?」
振り返ったさやかは絶句した。さっきまで、なかったはずの光景が広がっていたからだ。
「ここは、いつなんだ?」
冷静に司がつぶやく。
月明りが、木々の輪郭を朧に浮かび上がらせる。そして、滔々と水をたたえた大きな池の水面が、青白い光に照らされて不気味に光輝いていた。
樹木の間から覗く社殿の屋根を見下ろして、さやかは大きく息を吐き出した。
「見てよ、あれ」
「随分荒廃してるな。するとここは……」
大木の幹に背中を預けて司は空を仰ぐ。さやかは司の隣に腰を下ろした。
「それにしても悔しい。あんな低俗な地霊にしてやられるなんて」
「偶然に決まってる。時期と場所が悪かった。これはもう歪みが自己修復されて元に戻るのを待つしかないな」
ふて腐れたように頬杖をつくさやかを横目に司は軽く眉を寄せてつぶやいた。
「しかし、祭礼を目前に控えていたとはいえあの《気》は異様だ。誰か、余程強く思いを込めたとみえる」
「統吾さんが?」
「それは本人に訊いてみなければわからないさ」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる