宵の宮

奈月沙耶

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第六話 墜落

2.「当たりだな」

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「まだ聞いてなかったけど、ここの御神体ってなんなの?」
「面だよ。翁面だ。本祭の〈翁舞〉ではこの面を使う」
「……っ」
 相槌を打とうとしたさやかは、いきなり司に頭を抑え込まれ石段の途中に倒れ込んだ。
「なにす……」
「誰かいる」
「え……」

 そうっと顔を上げてさやかは境内の様子を窺った。向かって左側の長床の内部に灯りが灯り、人影が揺らめいていた。
「誰?」
「〈年寄〉の両横座(長と副)と〈清座〉頭だ」
 何か話し合っているようだが内容まで聴き取れない。
 待つこと十数分。やがて長床の電灯が消えた。ふたりは脇の木立に隠れる。

 宮座の長老たちは、重苦しい表情で黙り込んだまま石段を下りていった。
「暗い雰囲気。相当神経質になってるね」
「神事の途中で不祥事が起きたんだ。それに、今年は雨量が少なくて不作だったらしい」
「雨が降らなくて?」
 さやかは目を見開いて司を見た。
「当然、彼らは恵の雨が降ることを願うだろう」

 話しながら司は本殿に向かった。さやかも後に続く。例によって司は無造作に本殿の内部へ足を踏み入れた。
「ここって神主しか入れないんだよね」
「今出入りしてるのは統吾だけということだ」
 中央の神棚に御神体が収められているらしい唐櫃があった。司は三脚バッグをさやかに渡し、唐櫃に手をかけた。さやかは息を詰めてそれを見つめる。

 蓋が開けられた。中には丁寧に袱紗に包まれた面が収められていた。見事な造りの翁面である。
「なんだ、普通だね」
 吐息をもらして囁いたさやかに司は苦笑する。
「人の念が凝ってはいるが害があるほどではない」
 社殿の内部を見渡してさやかも答える。
「っていうより、ここにはいないんじゃない」

「……」
「気配がないもの」
「俺もそう思う。ということは、本命はあっちだ」
 司はさやかの手から三脚バッグを取り上げた。
「本腰据えて取り掛かるぞ」
「うん」

 御供部屋の裏の階段から上の祠に向かったふたりは、すぐに異変に気がついた。
「当たりだな」
 祠の前に供えられた御幣が、不意に倒れた。何もしていないのに、重く錆びれた音を立て、祠の扉がゆっくり開いていく。

 《タレジャ……
  タレジャ……
  タレジャ、タレジャ、タレジャ……》
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