宵の宮

奈月沙耶

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第六話 墜落

1.〈神祭〉

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 神社での作業の後、いつものように大騒ぎしながら〈若い衆〉の少年たちはそれぞれの帰途に就いた。
「ただいま」
「おかえり。すぐにご飯にするわよ。手洗ってらっしゃい」

 洗面所に行く通りがかりに部屋を覗く。亜衣が黄金色のイチョウの葉っぱにまみれてはしゃいでいた。
「おいおいおいおい」
「おかえりなさい」
 昌宏が思わず足を踏み入れると亜衣の隣にはさやかがいた。

「なんだよ、これ」
「おみやげ。和臣さんにドライブ連れてってもらったの」
 昌宏は目を剥いた。
「二人で?」
「慎也くんも一緒したよ。きれいでしょう、ほら」
 きれいでしょう、ではない。昌宏はむっとして向こうへ行ってしまった。
「ちょっとー。なんで怒るの?」
「怒ってなんかないっ」
 さやかはため息をついて亜衣の髪を撫ぜた……。


「少年のこころは難しいね」
「馬鹿言ってないで、行くぞ」
 三脚バッグを肩に掛けた司は縁側に出た。皆が寝静まった真夜中、さやかと司はこっそり田辺家を抜け出した。

 しんと静まり返った深夜、小声で話し合いながら神社までの道程を歩く。
「どう思う?」
「少なくとも蒸発ってことはなさそう」
 確かに、と司も頷いた。
「中谷氏の持ち物を調べたけど無くなっているものはなかったそうだ」
 司は何より、と言葉をつなげた。
「宵宮の夜に姿を消したというのが気になる」
「うん」
「宵宮の後に何が行われるかわかってるだろう」
「〈神祭〉(かんまつり)でしょう」

 宵宮では本祭と同じく数々の芸能が演じられる。だが祭中最も重要なのは、宵宮の夜十二時をすぎてから神主と禰宜のみによって御供部屋で行われる神事なのである。
 宵宮の祭礼の後、関係者が引き上げた後は神社には誰も近づかない。そういう決まりなのだ。

「逆に言えば、神社に誰かいても目撃されることはない」
「当屋が拝殿に控えてるって」
「神事の間だけだろう。その後神主と禰宜が籠って当屋が引き上げてしまえば、そこは無人の状態になる」
「そう、だね」
「中谷氏はここへやって来ていたのだろうな」
 ふたりは神社の参道の石段の前に立って、鳥居を見上げた。神社の前を流れる川辺の草むらから虫の音が響いてくる。
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