宵の宮

第五話 初恋と紅葉

3．「目ざといんですね」

「街の子もそういう遊びするの？」
「どうでしょう。人によると思うけど。……ほら、これでお花のできあがり。ね？　あとねえ、うさぎとか犬とかできるよ。たくさん作っておみやげにしようか」
　慎也は作業に熱中してすっかり無口になってしまった。

「君らは祭が終わるまでいるの？」
「そのつもりです」
「お兄さんは目的があるからいいけど君はつまらないだろう」
「そんなことないです」
「祭の前後は村中浮足立ってるからね。きみのお兄さんていくつ？」

　さやかは少しの間考える表情になる。
「ハタチとかだったかな」
「落ち着いてるからもっと上かと思った。大学生？」
「そうですね」
「仲いいんだ」
「そうでもないですけど」

「あまり、似てないね」
　さやかは顔を上げて和臣を見た。
「そうですか？　よく、似てるって言われますけど」
「雰囲気はね、こう、共通するものがあるけど顔立ちはそれほど」
「目ざといんですね」
「まあね」

　和臣は慎也の後頭部を突っついて、
「ここの兄弟もあまり似てないだろ。統吾は親父さん似だし、こいつはおふくろさん似だ。田辺の久子さんと昌宏はよく似てるよね」
「確かに」
「二人とも亡くなったおふくろさんに似たんだなあ」

「慎也くんと統吾さん、随分年が離れてますね」
「十四、ちがう」
　慎也がさやかに教えてくれた。
「お兄さん優しい？」
「うん」
　慎也はこっくり頷いて再び落ち葉で犬を作るのに没頭しだした。

「和臣さんは統吾さんと仲がいいんですか？」
「宮座でいちばん年が近いから」
　そこで和臣は思い出したように小さく笑い声をもらした。
「ふふ。あいつの初恋の相手ってね、久子さんなんだ」
「げ、そうなんですか」
「内緒だよ。俺しか知らないんだ」
「はい」
「慎也もだぞ。俺が言ってたって兄ちゃんに言うんじゃないぞ」
　念を押したものの慎也はまるで聞いていなかった。和臣は苦笑してさやかを見た。

「初恋は見事に破れたけどね。統吾にとっては年上の人だし、久子さん、高校卒業してすぐ結婚しちゃったし。うん、あれはちょっと可哀想だったな」
　当時のことを思い出してか、和臣は微かに眉を寄せた。
「相手が他所の人で、それでちょっとした騒ぎになったよ。久子さんが嫁に行ってしまったら女手がなくなるし、親父さんが他所へ出したがらなくて。あんまり頑固に反対するんで、久子さんは飛び出していってしまうんじゃないかってみんな噂し合ってたよ」