宵の宮

奈月沙耶

文字の大きさ
上 下
18 / 50
第五話 初恋と紅葉

2.自然の妙技

しおりを挟む
「杉山の親父さん張り切ってるなあ」
「あの人、本人は次男だから宮座には入れなかっただろ」
「ああ、そうか」
「杉山の兄ちゃん本人は?」
「副横座さんと魚捕りに行った」
「おまえら! まだそんなとこにいやがるのか!」
 親父さんの罵声が飛び、少年たちは恐れ入ってのぼりを抱えそれぞれの担当の場所に散っていった。

 昌宏は参道の石段を割り当てられたので、まずは竹ぼうきを持って上から石段を掃き清めていく。そこへ、見慣れない男が声をかけてきた。記者の高遠である。

「ねえ、君。ここに田辺昌宏くんていない?」
「おれですけど」
「ああ、君か」
 高遠はなれなれしく昌宏の肩に手をかけて笑った。
「僕は高遠って者だけどね、君にいろいろ話を聞きたいんだ」
 不信感まるだしの昌宏に、高遠はいっそう笑みを深くして顔を近づけてきた。

「なに、大したことじゃないんだけどね。君の、義理のお兄さんのことなんだ」
 すうっと昌宏の顔が強張った。
「去年失踪した中谷茂さんがどんな人だったか……」
 彼の手を振り払って昌宏は高遠を睨みつけた。

「なんなんですか、あんた」
「いえね、君だってどうして中谷茂が失踪したか、その理由を知りたいんじゃないの? うまくすれば今どこにいるのか突き止められる。お姉さんのためにもさ、協力してくれるだろ?」
「そんなのおれには関係ない」
「ああ、そう。それじゃあ、仕方ないね」

 意外にあっさり高遠は引き下がった。仰々しく肩を上げて見せ、上着のポケットに手を突っ込んで石段を下りていく。
 高遠と入れ違いに石段を上がってきた〈若い衆〉の仲間の一人が怪訝そうに昌宏を見た。

「どうした?」
「べつに」
「今の横川さんちに泊ってる人だろ。記者さんとかって」
「記者? 新聞のか」
「いいや。雑誌の特集がどうのって聞いたけど」
 昌宏は強張った表情のまま唇を引き締めた。




「すごい。山が黄色い」
「なかなか絶景だろ?」
 小さな展望台から見渡せる山々は秋の色に染まり切っていた。目の覚めるような金色の所々に、絶妙の配置で真っ赤な色がアクセントを添えている。まさに自然の妙技である。

 クルマが数台止められるだけの平地の脇には大きなイチョウの木があって、足元は一面黄金色の絨毯だった。
「慎也くん。イチョウの葉っぱで花や人形つくるの知ってる?」
 器用に落ち葉をまとめて形を作っていくさやかの手つきに感心して、和臣が尋ねた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...