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第五話 初恋と紅葉
2.自然の妙技
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「杉山の親父さん張り切ってるなあ」
「あの人、本人は次男だから宮座には入れなかっただろ」
「ああ、そうか」
「杉山の兄ちゃん本人は?」
「副横座さんと魚捕りに行った」
「おまえら! まだそんなとこにいやがるのか!」
親父さんの罵声が飛び、少年たちは恐れ入ってのぼりを抱えそれぞれの担当の場所に散っていった。
昌宏は参道の石段を割り当てられたので、まずは竹ぼうきを持って上から石段を掃き清めていく。そこへ、見慣れない男が声をかけてきた。記者の高遠である。
「ねえ、君。ここに田辺昌宏くんていない?」
「おれですけど」
「ああ、君か」
高遠はなれなれしく昌宏の肩に手をかけて笑った。
「僕は高遠って者だけどね、君にいろいろ話を聞きたいんだ」
不信感まるだしの昌宏に、高遠はいっそう笑みを深くして顔を近づけてきた。
「なに、大したことじゃないんだけどね。君の、義理のお兄さんのことなんだ」
すうっと昌宏の顔が強張った。
「去年失踪した中谷茂さんがどんな人だったか……」
彼の手を振り払って昌宏は高遠を睨みつけた。
「なんなんですか、あんた」
「いえね、君だってどうして中谷茂が失踪したか、その理由を知りたいんじゃないの? うまくすれば今どこにいるのか突き止められる。お姉さんのためにもさ、協力してくれるだろ?」
「そんなのおれには関係ない」
「ああ、そう。それじゃあ、仕方ないね」
意外にあっさり高遠は引き下がった。仰々しく肩を上げて見せ、上着のポケットに手を突っ込んで石段を下りていく。
高遠と入れ違いに石段を上がってきた〈若い衆〉の仲間の一人が怪訝そうに昌宏を見た。
「どうした?」
「べつに」
「今の横川さんちに泊ってる人だろ。記者さんとかって」
「記者? 新聞のか」
「いいや。雑誌の特集がどうのって聞いたけど」
昌宏は強張った表情のまま唇を引き締めた。
「すごい。山が黄色い」
「なかなか絶景だろ?」
小さな展望台から見渡せる山々は秋の色に染まり切っていた。目の覚めるような金色の所々に、絶妙の配置で真っ赤な色がアクセントを添えている。まさに自然の妙技である。
クルマが数台止められるだけの平地の脇には大きなイチョウの木があって、足元は一面黄金色の絨毯だった。
「慎也くん。イチョウの葉っぱで花や人形つくるの知ってる?」
器用に落ち葉をまとめて形を作っていくさやかの手つきに感心して、和臣が尋ねた。
「あの人、本人は次男だから宮座には入れなかっただろ」
「ああ、そうか」
「杉山の兄ちゃん本人は?」
「副横座さんと魚捕りに行った」
「おまえら! まだそんなとこにいやがるのか!」
親父さんの罵声が飛び、少年たちは恐れ入ってのぼりを抱えそれぞれの担当の場所に散っていった。
昌宏は参道の石段を割り当てられたので、まずは竹ぼうきを持って上から石段を掃き清めていく。そこへ、見慣れない男が声をかけてきた。記者の高遠である。
「ねえ、君。ここに田辺昌宏くんていない?」
「おれですけど」
「ああ、君か」
高遠はなれなれしく昌宏の肩に手をかけて笑った。
「僕は高遠って者だけどね、君にいろいろ話を聞きたいんだ」
不信感まるだしの昌宏に、高遠はいっそう笑みを深くして顔を近づけてきた。
「なに、大したことじゃないんだけどね。君の、義理のお兄さんのことなんだ」
すうっと昌宏の顔が強張った。
「去年失踪した中谷茂さんがどんな人だったか……」
彼の手を振り払って昌宏は高遠を睨みつけた。
「なんなんですか、あんた」
「いえね、君だってどうして中谷茂が失踪したか、その理由を知りたいんじゃないの? うまくすれば今どこにいるのか突き止められる。お姉さんのためにもさ、協力してくれるだろ?」
「そんなのおれには関係ない」
「ああ、そう。それじゃあ、仕方ないね」
意外にあっさり高遠は引き下がった。仰々しく肩を上げて見せ、上着のポケットに手を突っ込んで石段を下りていく。
高遠と入れ違いに石段を上がってきた〈若い衆〉の仲間の一人が怪訝そうに昌宏を見た。
「どうした?」
「べつに」
「今の横川さんちに泊ってる人だろ。記者さんとかって」
「記者? 新聞のか」
「いいや。雑誌の特集がどうのって聞いたけど」
昌宏は強張った表情のまま唇を引き締めた。
「すごい。山が黄色い」
「なかなか絶景だろ?」
小さな展望台から見渡せる山々は秋の色に染まり切っていた。目の覚めるような金色の所々に、絶妙の配置で真っ赤な色がアクセントを添えている。まさに自然の妙技である。
クルマが数台止められるだけの平地の脇には大きなイチョウの木があって、足元は一面黄金色の絨毯だった。
「慎也くん。イチョウの葉っぱで花や人形つくるの知ってる?」
器用に落ち葉をまとめて形を作っていくさやかの手つきに感心して、和臣が尋ねた。
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