17 / 50
第五話 初恋と紅葉
1.「さ、どうぞ」
しおりを挟む
いったん田辺家に戻って昼食をとった後、さやかと司は額を突き合わせて話し合った。
「第一に確認が必要なのは、この地のカミが何であるかだ」
「忍び込みますか」
「今は人の出入りが多い。暗くなってからにしよう」
話が決まったので司は上着を持って立ち上がった。
「それから、おかしな記者がうろついてるから気をつけろ」
「記者?」
「祭の取材だと言ってたが怪しい。大方、中谷氏の失踪と絡めて低次元な雑誌の記事にするつもりなんだろう」
さっとさやかの表情が険しくなった。
「なんですって」
「だから気をつけろよ。目立つことはするな」
しつこいほど念を押して司は出かけていった。
少しの間考えてから、さやかも立ち上がって部屋を出た。
「さやかちゃんも出かけるの?」
「はい、行ってきます」
久子に挨拶し玄関で靴を履いているさやかに昌宏が声をかけた。
「午後は神社で作業するんだ。来るか?」
「うん。あとでね」
適当な返事をしてさやかは行ってしまった。
「なんだよ。あいつらがうるさいからしょうがなく誘ってやったのに」
唇を尖らせていると、まだそこにいた久子と目が合った。
「なんだよ」
「別にい」
久子は意味ありげに笑って台所へ行ってしまう。
「なんだよ」
苛々と昌宏はもう一度つぶやいた。
一方、さやかが向かったのは藤井家であった。村人に道を訊いて訪ねていく。ちょうど家の庭先で慎也が遊んでいた。
「慎也くん」
声をあげて名前を呼ぶと、慎也はさやかのそばに寄ってきた。
「お兄さんいる?」
「いない」
「なんだ、いないのか」
膝を屈めたさやかの頭上で声がした。
「和臣さん」
「統吾がいないなら」
和臣はさやかを見下ろした。
「ヒマなら遊びに行かない?」
「え?」
「向こうの山は紅葉がきれいだよ。クルマですぐだからさ」
「え、だって、お祭の準備で忙しいのに」
「俺は暇なの。慎也、おまえも一緒に来い」
「って、ちょっと」
抵抗を試みたさやかだったが、慎也に大きな瞳で見上げられ何も言えなくなってしまう。
「さ、どうぞ」
その心の動きを見透かしたように和臣が車の助手席のドアを開けた。
「あれえ、あの子来ないの?」
「おい、昌宏」
「うるさい」
仲間の追及を一言で切り捨て昌宏は境内への石段を登った。
「おう、来たか」
当屋の杉山家の親父さんがさっそく少年たちに作業の指示を与え始めた。
「第一に確認が必要なのは、この地のカミが何であるかだ」
「忍び込みますか」
「今は人の出入りが多い。暗くなってからにしよう」
話が決まったので司は上着を持って立ち上がった。
「それから、おかしな記者がうろついてるから気をつけろ」
「記者?」
「祭の取材だと言ってたが怪しい。大方、中谷氏の失踪と絡めて低次元な雑誌の記事にするつもりなんだろう」
さっとさやかの表情が険しくなった。
「なんですって」
「だから気をつけろよ。目立つことはするな」
しつこいほど念を押して司は出かけていった。
少しの間考えてから、さやかも立ち上がって部屋を出た。
「さやかちゃんも出かけるの?」
「はい、行ってきます」
久子に挨拶し玄関で靴を履いているさやかに昌宏が声をかけた。
「午後は神社で作業するんだ。来るか?」
「うん。あとでね」
適当な返事をしてさやかは行ってしまった。
「なんだよ。あいつらがうるさいからしょうがなく誘ってやったのに」
唇を尖らせていると、まだそこにいた久子と目が合った。
「なんだよ」
「別にい」
久子は意味ありげに笑って台所へ行ってしまう。
「なんだよ」
苛々と昌宏はもう一度つぶやいた。
一方、さやかが向かったのは藤井家であった。村人に道を訊いて訪ねていく。ちょうど家の庭先で慎也が遊んでいた。
「慎也くん」
声をあげて名前を呼ぶと、慎也はさやかのそばに寄ってきた。
「お兄さんいる?」
「いない」
「なんだ、いないのか」
膝を屈めたさやかの頭上で声がした。
「和臣さん」
「統吾がいないなら」
和臣はさやかを見下ろした。
「ヒマなら遊びに行かない?」
「え?」
「向こうの山は紅葉がきれいだよ。クルマですぐだからさ」
「え、だって、お祭の準備で忙しいのに」
「俺は暇なの。慎也、おまえも一緒に来い」
「って、ちょっと」
抵抗を試みたさやかだったが、慎也に大きな瞳で見上げられ何も言えなくなってしまう。
「さ、どうぞ」
その心の動きを見透かしたように和臣が車の助手席のドアを開けた。
「あれえ、あの子来ないの?」
「おい、昌宏」
「うるさい」
仲間の追及を一言で切り捨て昌宏は境内への石段を登った。
「おう、来たか」
当屋の杉山家の親父さんがさっそく少年たちに作業の指示を与え始めた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる