宵の宮

奈月沙耶

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第五話 初恋と紅葉

1.「さ、どうぞ」

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 いったん田辺家に戻って昼食をとった後、さやかと司は額を突き合わせて話し合った。
「第一に確認が必要なのは、この地のカミが何であるかだ」
「忍び込みますか」
「今は人の出入りが多い。暗くなってからにしよう」

 話が決まったので司は上着を持って立ち上がった。
「それから、おかしな記者がうろついてるから気をつけろ」
「記者?」
「祭の取材だと言ってたが怪しい。大方、中谷氏の失踪と絡めて低次元な雑誌の記事にするつもりなんだろう」

 さっとさやかの表情が険しくなった。
「なんですって」
「だから気をつけろよ。目立つことはするな」
 しつこいほど念を押して司は出かけていった。

 少しの間考えてから、さやかも立ち上がって部屋を出た。
「さやかちゃんも出かけるの?」
「はい、行ってきます」
 久子に挨拶し玄関で靴を履いているさやかに昌宏が声をかけた。
「午後は神社で作業するんだ。来るか?」
「うん。あとでね」
 適当な返事をしてさやかは行ってしまった。

「なんだよ。あいつらがうるさいからしょうがなく誘ってやったのに」
 唇を尖らせていると、まだそこにいた久子と目が合った。
「なんだよ」
「別にい」
 久子は意味ありげに笑って台所へ行ってしまう。
「なんだよ」
 苛々と昌宏はもう一度つぶやいた。


 一方、さやかが向かったのは藤井家であった。村人に道を訊いて訪ねていく。ちょうど家の庭先で慎也が遊んでいた。
「慎也くん」
 声をあげて名前を呼ぶと、慎也はさやかのそばに寄ってきた。
「お兄さんいる?」
「いない」

「なんだ、いないのか」
 膝を屈めたさやかの頭上で声がした。
「和臣さん」
「統吾がいないなら」
 和臣はさやかを見下ろした。
「ヒマなら遊びに行かない?」
「え?」
「向こうの山は紅葉がきれいだよ。クルマですぐだからさ」
「え、だって、お祭の準備で忙しいのに」

「俺は暇なの。慎也、おまえも一緒に来い」
「って、ちょっと」
 抵抗を試みたさやかだったが、慎也に大きな瞳で見上げられ何も言えなくなってしまう。
「さ、どうぞ」
 その心の動きを見透かしたように和臣が車の助手席のドアを開けた。




「あれえ、あの子来ないの?」
「おい、昌宏」
「うるさい」
 仲間の追及を一言で切り捨て昌宏は境内への石段を登った。
「おう、来たか」
 当屋の杉山家の親父さんがさっそく少年たちに作業の指示を与え始めた。
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