宵の宮

奈月沙耶

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第四話 オハケと舞

3.子どもたち

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「別の意味」
「あいつはな、そりゃもう、おっそろしいほど」
 深刻極まりない表情で、和臣は言った。
「マジメな奴なんだ。適当とか手を抜くって言葉とは縁もゆかりもないんだなあ、あれは」
 渋い顔をして彼は言葉を濁らせた。
「どうも妙なんだよな」
「何がですか?」

「必要以上に御供部屋に入り浸って宮籠りしてるみたいなんだ。決まりの日以外にわざわざ自分から宮籠りする奴なんてちょっといないよ。一晩中御供部屋に閉じこもって誰とも話ができない。もうこの時期には禊で水浴びするのだってつらいんだ。それをあいつは週末ごとに修行してるんだよ。妙だよ、これは」

 難し気な表情で顎に手を当てる彼を見つめて、さやかは微かに眉をひそめた。
「和臣兄! 早く、早く!」
「いま行く」
 和臣はゆっくり立ち上がって、舞の練習をする少年たちの方へ向かった。

 目を垣根の方へ向けたさやかは、他へ遊びに行ったはずの子どもたちが年長の少年たちの練習風景を植木の間から覗いているのを見つけた。うちのひとりと目が合って、さやかは笑って手招きした。子どもたちはぞろぞろと元の場所に集まってきた。
「今度は静かにしてようね」
 子どもたちは皆こっくり頷いて大人しく縁側に並んで腰かけた。

「慎也くん」
 足をぶらぶらさせて座っている少年の名前を小声で呼んでみる。慎也はゆっくりと顔を上げてさやかと顔を合わせた。色白で、まるで女の子のように愛らしい顔立ちをしている。

「慎也くんも、大きくなったらあんなふうにお祭で踊りたい?」
 大きな丸い瞳をますます大きく見開いて、慎也は小さな声で答えた。
「うちは兄ちゃんがいるから」
 そうだった。宮座には長男しか入れないのだ。先程和臣が言った「なりたくてもなれない奴だっている」とはそういう意味なのだ。

「万歳楽万歳楽と仰せ候御声に……」
 和臣の謡に合わせ昌宏が踊り始めた。

 ここに並んでいる子どもたちは、男の子も女の子も憧れの目でもって〈若い衆〉の少年たちの舞を見つめている。けれど全員が仲間に入れるわけじゃない。
 さやかは微笑ましい気持ちが半分と、残りの半分は無性に悲しいのと腹立だしいのが混じった思いで、そんな子どもたちを眺めていた。
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