宵の宮

奈月沙耶

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第四話 オハケと舞

1.舞の練習

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「あのなあ、なんでついてくんだよっ」
「そんなのあたしの勝手でしょ」
「ついて来るなよ」
「あのね、そういう人の自由意思を尊重しない態度でいいと思ってるの?」
「なんでもかんでも難しい言葉でごまかそうとするんじゃねえよ」
 田辺昌宏と低次元な舌戦を繰り広げながら歩く見慣れない美少女の姿は、村中の人々の視線を集めた。

「かわいいなあ。昌宏うらやましいな」
 同い年の友だちの一人は〈高足〉という舞に用いる竹馬に乗って昌宏の脇にぴったりくっつき先程からそれしか言わない。
「性格キツイぞ」
 気は強いし口は達者。ケンカしようものならけちょんけちょんである。
「なんぼ性格悪くても、かわいいから許せるなあ」
 わかってない。あの顔であの性格だから凶悪なのである。

 話題になっている当の本人は、昌宏たちの舞の練習を見たいと言ってついてきたくせに、いつの間にか縁側で年少の子どもたちに囲まれて話し込んでいるようだった。

「ふうん。じゃあ、毎年宵宮の日に新しい子たちが〈若い衆〉に入るんだ」
「今年はてっちゃんとゴローちゃんがそうなんよ。なあ」
「君たちもお祭で何かやるの?」
「王の舞の鉾を持つん」
「〈王の舞〉」
「踊りの中でいちばんかっこいいんだ」
「若い衆の二番目にえらい人がやるんだよ」
「今年はあたしのお兄ちゃんがやるの!」
「じゃあ、ゆきちゃんのお兄さんは副横座なんだ」
「うん!」

「そんなのおれの兄ちゃんだってやったぞ!」
 突然、それまで子どもたちの輪のいちばん外側でおとなしく話を聞いていた少年が叫んだ。
「そんで太刀だって持ったことあるんだからな!」
「でも慎也の兄ちゃんは今は神主さんだろ。若い衆と違う」
(この子、統吾さんの)
 さやかは改めて少年の顔を見た。

「神主さんで悪いか」
「神主さんなったっていいことないじゃんか」
「ちょっと、君たち」
 見かねて間に入ろうとしたものの、子どもたちは口を閉じたりしない。
「みんな兄ちゃんのこと褒めてるぞ」
「大人だけだろ。おれは神主さんやりたくないもん」

 そう言った男の子の頭の上に、不意に大きな手が乗せられた。
「こらこら。なりたくてもなれない奴だっているんだぞ。勝手なこと言うんじゃない」
 鼓を手に下げた若い男性がそこに立っていた。
「おまえらうるさくてかなわないから、あっちで遊んでろ」
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