宵の宮

奈月沙耶

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第三話 蛇と神隠し

3.蛇の鱗

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「あなたが神主の役の方ですか?」
「そうだよ。先月引き継いだばかりだから、まだ新米だけどね」

 この神社には神職の者はいない。村の宮座によって祭事が営まれるのである。宮座には村に生まれた長男しか参加できない。上から〈年寄〉〈清座(きよざ)〉〈若い衆〉と三つの階級で構成されていた。
 新入りは七、八歳で〈若い衆〉に入り、その後は序列によって役割が決められる。神主は〈若い衆〉の横座(よこざ・長のこと)を終えた者が務める決まりになっていた。

 神主は祭の際の芸能には参加せず、禰宜を助手として神事を務める。その他にも年間を通して二十数回宮籠りをしなければならなかった。

 それを聞いてさやかは叫んだ。
「うわあ、たいへん」
「一番の大役だからね。でもこれを終えればあとはこれといった役目はないし。今、祭の準備で大わらわになってるのは若い連中だし」
「今日のオハケ立ては神主が中心になって行うのですよね」
「うん。僕が祝詞をあげるんだ。でもそれほど堅苦しいものじゃないし」
 そう言って統吾は頭の後ろを押さえて笑った。

「感じのいい人だね」
 じゃあねと正面の石段を下りていく後ろ姿を見送って、さやかが言った。
「そうだな」
 実に気のない返事をして、司は本殿の内部へ目を向けた。
「別に妙な気配はないでしょう」
「そうだな」

 やっぱり気のない司の様子に、さやかは肩を竦めて本殿の裏に回った。建物の裏は、もうゆるやかな勾配の小山である。ちょうど御供部屋の裏から階段が続いていた。

 さやかは身軽く階段を上った。上り切った正面に、古い祠があった。かなり古びているが真新しい御幣が供えられてあるのが目を引いた。
 何気なく覗き込んださやかの目に、何か光るものが映った。
「なんだろ」
 鏡かと思ったが小さすぎる。ひとりで首を傾げていると、司が後を追ってやってきた。

「随分古い祠だな」
「ねえ、この御神体なんだと思う?」
 祠を覗き込んだ司はわずかに頬を引きつらせた。ものも言わずに祠の扉に手をかける。
「ちょっと、それはさすがに」
「バレなきゃいいんだ」
 司は無造作にそれを手に取った。

「見ろ」
 司の手のひらの上のものを見てさやかは眉を寄せた。
「これって」
「蛇の鱗だな」
 さやかは眉をひそめたまま器用に頬を吊り上げる。
「へえ? ウロコ一枚がこんなに大きいんじゃ、ほんとに大蛇はいるんだね」

 司が黙ってウロコを朝日に翳すと、それは光を反射してきらきらと七色の輝きを放った。
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