宵の宮

奈月沙耶

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第三話 蛇と神隠し

2.『聖の宮』

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「それが神社の祭神?」
「そうだろうなあ」
「なんだか中途半端な話」
 さやかは眉をひそめて頬杖をつく。

「だいたい、鎮守の神と池の主と〈人身御供〉の言い伝えが二つもあるなんて物騒だね」
「別の時代か、あるいは別の土地から持ち込まれた伝承が複合しきれず古い形のまま残っているのかもしれない」
 レポートを手に取って司はちょっと笑った。

「中谷氏がこれらの調査内容について考察も加えておいてくれればありがたかったんだがな」
「あたしたちが素人考えめぐらす必要もなかったものね」
「言葉に棘があるぞ」
「別に、含むところがあるわけじゃないけどさ」

 司はあやすような手つきで彼女の頭を撫でた。さやかは大きな瞳を瞬かせて司を見上げる。
「子ども扱い、よしてくださる?」




 翌朝早くに、司とさやかは神社へと出かけた。
「カメラまで持ってくの?」
「三脚しか持ってなかったらおかしいだろう」
「そうかなあ」
 さやかは腰に手を当てて顔をしかめる。
「雑誌の記者がうろついてるらしいし」
「じゃあ、置いてば。重いでしょ」
「簡単に言うな」

「そんな用心しなくても何もないよ」
「その言葉を信じて碌な目に合ったことないからな」
 司は妙にそっけない。
「やだやだ。昔の事根に持っちゃって」
「危うく右足失くしそうになれば誰だって根に持つさ」

 集落から一キロほど離れた森の中に神社はあった。

 本殿から向かって右手に四つの末社、その並びから少し離れた場所に『聖の宮』と呼ばれる祠があった。左手には同じくふたつの末社と、その更に左に長屋状の御供部屋(ごくべや)があった。出入り口にはしめ縄が張られている。

 末社を見てまわっている司を置いて、境内を一回りしたさやかは御供部屋に近づいた。
(誰かいるのかな)
 戸口の前で気配を窺ったとたんに内側から戸が開いた。
「わ!」
 土間に立った男性が、目の前のさやかに驚いてよろめいた。

「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫。ちょっとびっくりしちゃって」
 神主の着る白衣を着て烏帽子を被ったその青年は、しきりに手を振りながら御供部屋から出てきた。

「どこの人?」
「昨日、兄とふたりで来たばかりなんです」
「ああ。聞いてるよ。田辺さんのお客さんだね」
 メガネをかけた童顔の青年は、人のよさそうな笑みを浮かべて近づいてきた司の方を見た。

「はじめまして。加倉司といいます」
「さやかです」
「あ、これはご丁寧に。僕は藤井統吾です」
 統吾はにこにこと満面の笑顔。
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