宵の宮

奈月沙耶

文字の大きさ
上 下
10 / 50
第三話 蛇と神隠し

1.『池の主』

しおりを挟む
「行方不明?」
「去年の宵宮の晩に。それきり姿が見えなくなってしまったと聞いた」
「それは穏やかじゃないねえ」
「〈人身御供〉の伝説くらいにはな」
 そう言って司がやや表情を和らげたので、さやかも小さく息をついた。

「大変だったでしょうね。久子さん」
「〈神隠し〉だって当時は大変な騒ぎだったらしい」
「神隠しって、小さな子どもが消えたわけじゃないんだから」
「だから、村の暮らしが嫌になって出奔したんじゃないかって噂話が飛び交ったそうだ」
「失礼な話」
「仕方ない。ここの人たちにとって彼はよそ者だったんだから」

(ああ。それで)
 ――所詮よそ者だってことだよ。
 ――おせっかいやくのなら最後まで責任取れっていうんだよ。
「やっぱり、あたしの方が大人げなかったみたい」
「?」
 不審そうな顔をした司に首を振って見せ、さやかはレポートに目を通した。

 それには、村の祭礼に関する事項も丁寧にまとめられていた。その御供の品物の中に妙なものをさやかは見つける。
「ヒョウタンの人形?」
「村の伝承に『池の主』というのがあるんだ」
「なまず? 蛇?」
「蛇だ。昔、神社の池に大蛇が住んでいて、毎年人身御供として若い娘を池に沈めなければ大洪水が起きたんだそうだ」

 村人は泣く泣く娘を池に沈めていたが、ある年、人々が娘を囲んで泣き悲しんでいると、どこからともなく薄汚い年老いた僧が現れて「ヒョウタンを集めてしっかり栓をして、そのまわりに布団を巻き娘の着物を着せなさい。それを池に浮かべるのだ」そう教えると、姿を消してしまった。
 教えられた通り人形を池に浮かべると、池の真ん中から恐ろしい大蛇が現れて人形めがけて飛びかかった。ところが大蛇は人形を捕らえることはできなかった。躍起になって追いかけるが、ヒョウタンでできた人形はするりと大蛇の牙から逃れ続ける。追い回すうちに、大蛇は精魂尽きて死んでしまった。

「村人は大喜びして?」
「件の僧に感謝して祠を建て『聖(ひじり)の宮』と名付けたそうだ」
 司は小さく苦笑して言葉をつなげた。
「ところが現在『聖の宮』と呼ばれる祠は残っているが、大蛇が住んでいたという池は存在しない」
「昔も?」
「近くの寺の史料にも神社に池があったという記述は見られないから確認ができないようだ」

 そこでさやかは首を傾けた。
「でも、さっきの気の荒い神様への人身御供の話はどうなったの? 土地の神って言うからには村の鎮守だよね」
「旅の修験僧に諫められて改心したそうだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

モデルファミリー <完結済み>

MARU助
ライト文芸
【完結済み】日本政府が制定したモデルファミリー制度によって、日本中から選ばれた理想の家族に7億円という賞金が付与されることとなった。 家庭内不和で離散寸前だった世良田一家は賞金のためになんとか偽装家族を演じ続けることに合意。 しかし、長女・美園(16才)の同級生、進藤つかさが一家に疑惑を持ち始め、揺さぶりをかけ始める。 世良田一家は世間を騙し続けられるのか?! 家族愛・恋・友情、ドタバタファミリー物語。 【家族メモ】 元樹(父)、栄子(母)、勇治(長男)、美園(長女)、誠(末っ子)、ケンジ・タキ(祖父母)、あんこ(犬)

思い出せてよかった

みつ光男
ライト文芸
この物語は実在する"ある曲"の世界観を 自分なりに解釈して綴ったものです。 ~思い出せてよかった… もし君と出会わなければ 自分の気持ちに気づかないまま 時の波に流されていただろう~ ごくごく平凡なネガティブ男子、小林巽は 自身がフラれた女子、山本亜弓の親友 野中純玲と少しずつ距離が縮まるも もう高校卒業の日はすぐそこまで来ていた。 例えば時間と距離が二人を隔てようとも 気づくこと、待つことさえ出来れば その壁は容易く超えられるのだろうか? 幾つかの偶然が運命の糸のように絡まった時 次第に二人の想いはひとつになってゆく。 "気になる" から"好きかも?" へ "好きかも?"から "好き"へと。 もどかしくもどこかほんわりした 二人の物語の行方は?

PrettyGirls(可愛い少女達)ーレディースバンドの物語ー【学生時代とセミプロ時代】

本庄 太鳳
ライト文芸
田中麗奈は、大人しく控えめであり。いつも教室では、一人ぼっちの存在であった。家でも、無口でいたが。尊敬するのは、姉の茉莉子であり。茉莉子は、小学生からトランペットを吹いていた。茉莉子の通う教室でも、先生や父兄から賛美を浴びていたのが麗奈の目に焼き付いていた。そんな麗奈も、姉と同じ教室に通うのだが、憧れのトランペットはもう人数がおり。ユーフォとなっていた。そんな麗奈が、中1の時あるものと出会い。そこから、麗奈の人生は変わっていった。そんな彼女と、巡り合った3人。そんな4人の物語です。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

アマテラスの力を継ぐ者【第一記】

モンキー書房
ファンタジー
 小学六年生の五瀬稲穂《いつせいなほ》は運動会の日、不審者がグラウンドへ侵入したことをきっかけに、自分に秘められた力を覚醒してしまった。そして、自分が天照大神《あまてらすおおみかみ》の子孫であることを宣告される。  保食神《うけもちのかみ》の化身(?)である、親友の受持彩《うけもちあや》や、素戔嗚尊《すさのおのみこと》の子孫(?)である御饌津神龍《みけつかみりゅう》とともに、妖怪・怪物たちが巻き起こす事件に関わっていく。  修学旅行当日、突如として現れる座敷童子たちに神隠しされ、宮城県ではとんでもない事件に巻き込まれる……  今後、全国各地を巡っていく予定です。  ☆感想、指摘、批評、批判、大歓迎です。(※誹謗、中傷の類いはご勘弁ください)。  ☆作中に登場した文章は、間違っていることも多々あるかと思います。古文に限らず現代文も。

№21と岩下の日常

nano ひにゃ
ライト文芸
子供型アンドロイドの№21・エンと暮らす青年・岩下との日常の様子。

処理中です...