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第三話 蛇と神隠し
1.『池の主』
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「行方不明?」
「去年の宵宮の晩に。それきり姿が見えなくなってしまったと聞いた」
「それは穏やかじゃないねえ」
「〈人身御供〉の伝説くらいにはな」
そう言って司がやや表情を和らげたので、さやかも小さく息をついた。
「大変だったでしょうね。久子さん」
「〈神隠し〉だって当時は大変な騒ぎだったらしい」
「神隠しって、小さな子どもが消えたわけじゃないんだから」
「だから、村の暮らしが嫌になって出奔したんじゃないかって噂話が飛び交ったそうだ」
「失礼な話」
「仕方ない。ここの人たちにとって彼はよそ者だったんだから」
(ああ。それで)
――所詮よそ者だってことだよ。
――おせっかいやくのなら最後まで責任取れっていうんだよ。
「やっぱり、あたしの方が大人げなかったみたい」
「?」
不審そうな顔をした司に首を振って見せ、さやかはレポートに目を通した。
それには、村の祭礼に関する事項も丁寧にまとめられていた。その御供の品物の中に妙なものをさやかは見つける。
「ヒョウタンの人形?」
「村の伝承に『池の主』というのがあるんだ」
「なまず? 蛇?」
「蛇だ。昔、神社の池に大蛇が住んでいて、毎年人身御供として若い娘を池に沈めなければ大洪水が起きたんだそうだ」
村人は泣く泣く娘を池に沈めていたが、ある年、人々が娘を囲んで泣き悲しんでいると、どこからともなく薄汚い年老いた僧が現れて「ヒョウタンを集めてしっかり栓をして、そのまわりに布団を巻き娘の着物を着せなさい。それを池に浮かべるのだ」そう教えると、姿を消してしまった。
教えられた通り人形を池に浮かべると、池の真ん中から恐ろしい大蛇が現れて人形めがけて飛びかかった。ところが大蛇は人形を捕らえることはできなかった。躍起になって追いかけるが、ヒョウタンでできた人形はするりと大蛇の牙から逃れ続ける。追い回すうちに、大蛇は精魂尽きて死んでしまった。
「村人は大喜びして?」
「件の僧に感謝して祠を建て『聖(ひじり)の宮』と名付けたそうだ」
司は小さく苦笑して言葉をつなげた。
「ところが現在『聖の宮』と呼ばれる祠は残っているが、大蛇が住んでいたという池は存在しない」
「昔も?」
「近くの寺の史料にも神社に池があったという記述は見られないから確認ができないようだ」
そこでさやかは首を傾けた。
「でも、さっきの気の荒い神様への人身御供の話はどうなったの? 土地の神って言うからには村の鎮守だよね」
「旅の修験僧に諫められて改心したそうだ」
「去年の宵宮の晩に。それきり姿が見えなくなってしまったと聞いた」
「それは穏やかじゃないねえ」
「〈人身御供〉の伝説くらいにはな」
そう言って司がやや表情を和らげたので、さやかも小さく息をついた。
「大変だったでしょうね。久子さん」
「〈神隠し〉だって当時は大変な騒ぎだったらしい」
「神隠しって、小さな子どもが消えたわけじゃないんだから」
「だから、村の暮らしが嫌になって出奔したんじゃないかって噂話が飛び交ったそうだ」
「失礼な話」
「仕方ない。ここの人たちにとって彼はよそ者だったんだから」
(ああ。それで)
――所詮よそ者だってことだよ。
――おせっかいやくのなら最後まで責任取れっていうんだよ。
「やっぱり、あたしの方が大人げなかったみたい」
「?」
不審そうな顔をした司に首を振って見せ、さやかはレポートに目を通した。
それには、村の祭礼に関する事項も丁寧にまとめられていた。その御供の品物の中に妙なものをさやかは見つける。
「ヒョウタンの人形?」
「村の伝承に『池の主』というのがあるんだ」
「なまず? 蛇?」
「蛇だ。昔、神社の池に大蛇が住んでいて、毎年人身御供として若い娘を池に沈めなければ大洪水が起きたんだそうだ」
村人は泣く泣く娘を池に沈めていたが、ある年、人々が娘を囲んで泣き悲しんでいると、どこからともなく薄汚い年老いた僧が現れて「ヒョウタンを集めてしっかり栓をして、そのまわりに布団を巻き娘の着物を着せなさい。それを池に浮かべるのだ」そう教えると、姿を消してしまった。
教えられた通り人形を池に浮かべると、池の真ん中から恐ろしい大蛇が現れて人形めがけて飛びかかった。ところが大蛇は人形を捕らえることはできなかった。躍起になって追いかけるが、ヒョウタンでできた人形はするりと大蛇の牙から逃れ続ける。追い回すうちに、大蛇は精魂尽きて死んでしまった。
「村人は大喜びして?」
「件の僧に感謝して祠を建て『聖(ひじり)の宮』と名付けたそうだ」
司は小さく苦笑して言葉をつなげた。
「ところが現在『聖の宮』と呼ばれる祠は残っているが、大蛇が住んでいたという池は存在しない」
「昔も?」
「近くの寺の史料にも神社に池があったという記述は見られないから確認ができないようだ」
そこでさやかは首を傾けた。
「でも、さっきの気の荒い神様への人身御供の話はどうなったの? 土地の神って言うからには村の鎮守だよね」
「旅の修験僧に諫められて改心したそうだ」
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