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第二話 幼子と少年
3.口論
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「その土地の神に捧げものをして祟らないようにしてもらうのって神と人間との契約なわけだろ? それを他所から来た〈英雄〉にぶち壊しにされて退治されちまう神って、なんかすげえ惨めじゃない?」
さやかは少し眉をひそめてあっさり答えた。
「そんなの、人身御供なんか要求する方が悪いんじゃない」
昌宏はこの答えが気に入らなかったらしい。
「そりゃそうだけど、契約違反をするのはいつだって人の方だろう。それで〈英雄〉がうまく退治してくれればメデタシメデタシだけど、もし〈英雄〉が返り討ちにあったらどうなるんだよ? ヒドイ目に合うのはその土地の人たちだろう」
「じゃあ、〈英雄〉がみんな悪いっていうの?」
何が気に障ったのか、さやかはとんがった声で昌宏に言い返した。気がついて、昌宏は険を含んだまなざしでジロリとさやかを見た。
「犠牲を出すのは辛かったかもしれないけど、それで上手くいってた関係をぶち壊しにするのは〈英雄〉だろう。本当は人々は退治してもらうことなんて望んでなかったかもしれない」
「それで犠牲の上の見せかけの平和に安穏としてれば良かったっていうの? いちばんの責任は、力がないのを言い訳に泣き寝入りしていた人たちにある」
「〈英雄〉は所詮よそ者だってことだよ。古い神を追い出して、その土地の人間の価値観をひっくり返して、そして自分はふんぞり返ってる、図々しい人間だ」
「よそ者に頼るしかないご都合主義の連中が何言ってるの!」
「おせっかいやくのなら最後まで責任取れっていうんだよ」
「人の親切をそういうふうにしか受け止められない方に問題あるんじゃない?」
完全にズレてきている。ふたりが論旨の不明な口論を繰り広げていると、布団の中で亜衣がもぞもぞ寝返りを打った。
「静かになさいよ。起こしたら可哀想でしょ」
「そっちが大声出すからだろっ」
そこで再び亜衣が目を覚ましてしまいそうな気配を見せたので、ふたりはぴたりと口を閉ざした。息を殺して見守っていると、亜衣は指を口にくわえてむにゃむにゃ口元を動かし静かになった。
ほうっと肩の力を抜いたさやかと昌宏は、目が合った瞬間また険悪な空気になってふいっと顔を逸らした。
「馬鹿馬鹿しい」
吐き出すようにさやかが言った。
「あなたの言ってることは閉鎖的な排他主義でしかない」
「へえー。じゃあそうやって土着の神を駆逐することの正当性を説くのは横暴ではないって、はっきり言えるのか?」
さやかは少し眉をひそめてあっさり答えた。
「そんなの、人身御供なんか要求する方が悪いんじゃない」
昌宏はこの答えが気に入らなかったらしい。
「そりゃそうだけど、契約違反をするのはいつだって人の方だろう。それで〈英雄〉がうまく退治してくれればメデタシメデタシだけど、もし〈英雄〉が返り討ちにあったらどうなるんだよ? ヒドイ目に合うのはその土地の人たちだろう」
「じゃあ、〈英雄〉がみんな悪いっていうの?」
何が気に障ったのか、さやかはとんがった声で昌宏に言い返した。気がついて、昌宏は険を含んだまなざしでジロリとさやかを見た。
「犠牲を出すのは辛かったかもしれないけど、それで上手くいってた関係をぶち壊しにするのは〈英雄〉だろう。本当は人々は退治してもらうことなんて望んでなかったかもしれない」
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「〈英雄〉は所詮よそ者だってことだよ。古い神を追い出して、その土地の人間の価値観をひっくり返して、そして自分はふんぞり返ってる、図々しい人間だ」
「よそ者に頼るしかないご都合主義の連中が何言ってるの!」
「おせっかいやくのなら最後まで責任取れっていうんだよ」
「人の親切をそういうふうにしか受け止められない方に問題あるんじゃない?」
完全にズレてきている。ふたりが論旨の不明な口論を繰り広げていると、布団の中で亜衣がもぞもぞ寝返りを打った。
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「そっちが大声出すからだろっ」
そこで再び亜衣が目を覚ましてしまいそうな気配を見せたので、ふたりはぴたりと口を閉ざした。息を殺して見守っていると、亜衣は指を口にくわえてむにゃむにゃ口元を動かし静かになった。
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「馬鹿馬鹿しい」
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