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第二話 幼子と少年
1.巫覡の血
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「もうっ。あの子ったら恥ずかしいわ。これだから嫌でしょう。田舎の男の子って」
「そんなことないです。あのくらいの男の子ってみんなあんな感じだもの」
後片づけを手伝ってくれながら、さやかはくすくす笑った。
久子が司から聞いた話では、さやかは昌宏と同い年だということだったが、それにしては大人びた言い方をする。
(都会の女の子ってこうなのかしら)
首をひねった久子は、エプロンの裾を引っ張られるのを感じて下を見た。台所の床にへちゃりと座った亜衣が眠たげに目をこすっている。
「あんたはもう寝ないとね」
濡れた手を拭いて久子は亜衣を抱き上げた。
「お風呂はどうしようか? おじいちゃんはお話が終わりそうもないし、今日はいっか」
「あ、あたし。亜衣ちゃんとお風呂入りたいです。いけませんか?」
「でも悪いわ」
「大丈夫。泣かせたりしないから」
「……じゃあ、お願いしちゃおうかな」
押し切られる形でさやかに娘を任せ後から着替えを持っていくと、賑やかなはしゃぎ声が浴室から聞こえた。
(子どもが好きなのかしら?)
何はともあれ、亜衣もすっかりさやかになついてしまっているようだった。
風呂上がりのさやかが亜衣を連れて客間へ戻ると、司は何やら難しい顔で文机の上に置かれたレポート用紙の束を見つめていた。
「久子さんがお風呂使ってくださいって」
「……」
「久子さんが、お風呂だって!」
耳元で怒鳴ってやると、司は顔をしかめた。
「聞こえてる。大声出すな」
「だったら返事してよ」
「はいはい」
司はため息をついて気のない返事をした。
さやかは亜衣を膝の上に乗せて座り、濡れた髪を丁寧に拭き始めた。亜衣はころころ笑い転げてなかなかじっとしていてくれない。
着替えを持って立ち上がった司は、その光景を見て軽く目を細めた。
「子どもを見ると蹴飛ばしたくなるって言ってなかったか?」
「それは生意気で聞き分けのないお子様に対してだよ。素直でかわいい子は大好き」
ねーと顔を覗き込むと、亜衣も声をそろえてねーと笑顔を返してくる。
司は呆れた顔でしばし沈黙した後、静かに口を開いた。
「その子の波長が気に入ったんだろう」
「なんだ、気づいてたの」
「母親からはそうでもないけど、宮子からも同じ波長を感じた。この家の女性には巫覡の血が混じっているのかもしれない」
「あたしはただ、この子に触れているととても安心できるの。それだけだよ」
「そんなことないです。あのくらいの男の子ってみんなあんな感じだもの」
後片づけを手伝ってくれながら、さやかはくすくす笑った。
久子が司から聞いた話では、さやかは昌宏と同い年だということだったが、それにしては大人びた言い方をする。
(都会の女の子ってこうなのかしら)
首をひねった久子は、エプロンの裾を引っ張られるのを感じて下を見た。台所の床にへちゃりと座った亜衣が眠たげに目をこすっている。
「あんたはもう寝ないとね」
濡れた手を拭いて久子は亜衣を抱き上げた。
「お風呂はどうしようか? おじいちゃんはお話が終わりそうもないし、今日はいっか」
「あ、あたし。亜衣ちゃんとお風呂入りたいです。いけませんか?」
「でも悪いわ」
「大丈夫。泣かせたりしないから」
「……じゃあ、お願いしちゃおうかな」
押し切られる形でさやかに娘を任せ後から着替えを持っていくと、賑やかなはしゃぎ声が浴室から聞こえた。
(子どもが好きなのかしら?)
何はともあれ、亜衣もすっかりさやかになついてしまっているようだった。
風呂上がりのさやかが亜衣を連れて客間へ戻ると、司は何やら難しい顔で文机の上に置かれたレポート用紙の束を見つめていた。
「久子さんがお風呂使ってくださいって」
「……」
「久子さんが、お風呂だって!」
耳元で怒鳴ってやると、司は顔をしかめた。
「聞こえてる。大声出すな」
「だったら返事してよ」
「はいはい」
司はため息をついて気のない返事をした。
さやかは亜衣を膝の上に乗せて座り、濡れた髪を丁寧に拭き始めた。亜衣はころころ笑い転げてなかなかじっとしていてくれない。
着替えを持って立ち上がった司は、その光景を見て軽く目を細めた。
「子どもを見ると蹴飛ばしたくなるって言ってなかったか?」
「それは生意気で聞き分けのないお子様に対してだよ。素直でかわいい子は大好き」
ねーと顔を覗き込むと、亜衣も声をそろえてねーと笑顔を返してくる。
司は呆れた顔でしばし沈黙した後、静かに口を開いた。
「その子の波長が気に入ったんだろう」
「なんだ、気づいてたの」
「母親からはそうでもないけど、宮子からも同じ波長を感じた。この家の女性には巫覡の血が混じっているのかもしれない」
「あたしはただ、この子に触れているととても安心できるの。それだけだよ」
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