宵の宮

奈月沙耶

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第一話 来訪

4.目を丸くした

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「お父さーん。ご飯にしますよ」
 久子に呼ばれて主の宏之がやって来て食事が始まった。
 宏之は晩酌しながらよくしゃべりよく笑った。
「田崎先生がお見えになったのは十年以上も前のことだったかなあ。ねえ、母さん」
「そうだったかね。あたしゃ覚えてないけど」

 子ども用のフォークを使って行儀よく食べ物を口に運ぶ亜衣に感心していたさやかは、横目で司を見た。司は落ち着いて箸を動かしている。

「この辺の言い伝えを聞いて回ってるとかで、大きな録音機械を背負ってねえ……。司くんもそういったものを研究してるの」
「いいえ。僕が興味あるのは伝統芸能です。こちらの神事舞のことは先生に教えて頂きました。中世の頃の型を残した古いものだそうですね」
「ああ。なんだかねえ。そういうことで他所からいろんな人が見物に来なさるが、私なんかは自分が躍ったときの苦労しか印象にないからねえ」

「そういえば……」
 ゆっくりと食卓に揃った人々を見渡して、司は宏之に尋ねた。
「こちらのお宅にはご子息がいらっしゃると伺ってましたが」
「弟は当屋に行ってるの」
 久子が答える。
「当屋の衆に任命されてしまったから」

「〈当屋の衆〉ですか」
「簡単に言うと祭礼の裏方ね。長床(ながとこ)で使うコモとか饗応や御供(ごく)の準備をするの」
「まあ司くん。詳しいことは後で私が説明してあげよう」
「ええ。お願いします」

 頷く司の横で先程から黙ったままでいるさやかへ、久子が気遣わし気な視線を向けた。
「口に合うかしら? 食べれないものはない?」
「大丈夫、好き嫌いないし。この煮豆とてもおいしいです」
「そう? たくさん食べてね」

 食卓に並んだ料理があらかた片づいた頃、玄関の方で大きな音がした。騒々しい足音が居間へと近づいてくる。
「昌宏ったら、お客さんがいるのに」
 頬を染め、久子が慌てて立ち上がったが遅かった。

「腹減った! ねーちゃん、メシ!」
 勢いよく暖簾を払って顔を出した少年は、そこに見知らぬ青年と自分と同じくらいの年齢の少女を見つけて、目を丸くした。
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