時の祭

奈月沙耶

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エピローグ

4.お祭

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「あなたはどうするんですか? これから」
「しばらくはここにいようかな。司のとこにいれば不自由はしないし。あんたは?」
「そうですね。わたしも少し落ち着くことにしましょう。この国の変化を見て回りたい」

「ちょっと。そういえば今日は例の文化祭とかいうやつじゃない」
 軽い足取りで改札口へと抜ける階段を降りて、踊子はぽんと手を叩いた。
「そう言って、今朝早くに出かけていきましたものねえ」
「そうよ、そうよ。これは行かなきゃならないわ。ねえ、智」
「そうですねえ」
「この際だから司も引っ張っていきましょう。お祭はみんなで楽しまなきゃ!」
 はなはだしく何かを誤解したままで踊子は張り切ってこぶしを握り締めた。




「そう。来れなくなったんだ、昌宏」
「うん。残念なような、ちょっとほっとしたような」
 焼き上げて冷ましていたクッキーを袋詰めする手を止めて、さやかは亜衣の顔を見た。瞳がもの言いたげに揺れている。
 気がついたが亜衣は黙って作業を進めた。他の生徒たちがいるここでは込み入った話はできそうにない。

「袋詰め終わったよ」
「売り場の方に運んじゃって。ここの片づけはあたしたちがやっとく」
 調理室を出ると、相変わらず廊下を慌ただしく生徒たちが行きかっている。自分たちの会話を聞きとがめる気配がないのを確認してから、亜衣は小さな声でさやかに話しかけた。

「あのね、さやかさん。わたし不思議に思ってることがあるの。昌宏おにいちゃんやお母さんたちの記憶のこと」
「……」
「高遠さんの話だと、お母さんたちはさやかさんや司さんのことを覚えてなかったって。わたしも尋ねたけど、おにいちゃんはさやかさんのことを忘れてしまってた。それって、さやかさんと司さんのことを忘れてしまうような記憶操作とか、そういうことをしたってことなの?」

 さやかは、瞬きして黙り込んでしまった。返事が返ってこないままクッキーを運び終えてしまう。

「えーと、これでそろったかな」
 展示場となる教室の方で売り場の準備を整えていた美乃里は、進行表をチェックしながら何度も頷いた。
「よし、オーケー。あとは一般入場の始まりを待つだけだ」
 どうやら作業にひと段落ついたらしいことを見届けて、さやかは亜衣を外へと誘った。

 上履きのまま昇降口から表に出る。正門前にはアーチが立ち上がっていた。居並ぶ出店の準備も整えられている。喧噪の中に佇んでいると、イチョウの黄色い葉っぱが亜衣の制服の肩へと舞い落ちてきた。
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