時の祭

奈月沙耶

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エピローグ

1.重要なこと

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 早朝の河原沿いの道を犬を連れた青年が駆けて行く。その後には新聞配達のバイクが。更にその後を、朝練でもあるのか竹刀の袋を抱えた学生たちが早々に登校していく姿が続く。

 目の前を通りすぎていく人々を、彼は橋桁の陰からぼんやりと眺めていた。足元に視線を落とすと雑草の間におもちゃの赤い車が転がっていた。子どもが落としていったのか、それとも故意に捨てられたのか。サビと砂埃で薄汚れたミニカー。

 つま先でいじっていると不意に影が差した。足音もなく彼の前に人が立っていた。
「高遠啓一郎?」
 頷くと、加倉さやかは瞳を眇めて彼を見つめ、それから制服のポケットを探って写真を取り出した。
「まずこれを返しておく」

 啓一郎が中谷亜衣に委ねた写真だった。さやかの手からそれを受け取りながら啓一郎ははっきりした口調で彼女に尋ねた。
「教えてくれ。ここに写ってるのは、あんたなのか?」
「そうだって言ったら?」
 啓一郎は目を瞠って自分よりも年下にしか見えない少女の顔を見下ろした。

「それなら、あんたは年をとってないってことになる」
「それがあなたにとって何か重要なことなの?」
 虚を突かれて啓一郎は言葉を失った。
「あなたには関係のないことじゃない」
「……」
「取るに足らないことだわ。違う?」

 何か言ってやろうと口を開きかけるのだが、言葉を見つけられない。もどかしくなって啓一郎は悲鳴のような声で叫んでしまった。
「親父が見た『神』っていうのはあんたたちなのかっ?」

 まだ早い時間。空に昇り切っていない太陽の光が横合いからさやかの顔を照らしている。啓一郎は堰を切ったようにまくし立て始めた。

「オレの親父はそりゃあ、ろくでもないヤツだったさ。嘘つきでいい加減で金にだらしなくて。それでもっ、親父が必死の形相で言ったあの言葉。『神』を見たってあの言葉だけは本当だとオレは思いたいんだ。ただの幻、妄想のせいで狂い死にしただなんてそんなの信じたくない! 親父を信じて尽くして励まして泣いてたおふくろのためにも、虚言だとはオレは思いたくないんだ」

「死んだの? 高遠は」
「なあ、どうなんだよ? 親父が見た『神』ってなんなんだよ? あんたは知ってるんだろう。神って、なんだよ?」
「それがあなたの知りたいこと?」
「そうだ。オレは、本当のことが知りたいんだ」
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