73 / 77
エピローグ
1.重要なこと
しおりを挟む
早朝の河原沿いの道を犬を連れた青年が駆けて行く。その後には新聞配達のバイクが。更にその後を、朝練でもあるのか竹刀の袋を抱えた学生たちが早々に登校していく姿が続く。
目の前を通りすぎていく人々を、彼は橋桁の陰からぼんやりと眺めていた。足元に視線を落とすと雑草の間におもちゃの赤い車が転がっていた。子どもが落としていったのか、それとも故意に捨てられたのか。サビと砂埃で薄汚れたミニカー。
つま先でいじっていると不意に影が差した。足音もなく彼の前に人が立っていた。
「高遠啓一郎?」
頷くと、加倉さやかは瞳を眇めて彼を見つめ、それから制服のポケットを探って写真を取り出した。
「まずこれを返しておく」
啓一郎が中谷亜衣に委ねた写真だった。さやかの手からそれを受け取りながら啓一郎ははっきりした口調で彼女に尋ねた。
「教えてくれ。ここに写ってるのは、あんたなのか?」
「そうだって言ったら?」
啓一郎は目を瞠って自分よりも年下にしか見えない少女の顔を見下ろした。
「それなら、あんたは年をとってないってことになる」
「それがあなたにとって何か重要なことなの?」
虚を突かれて啓一郎は言葉を失った。
「あなたには関係のないことじゃない」
「……」
「取るに足らないことだわ。違う?」
何か言ってやろうと口を開きかけるのだが、言葉を見つけられない。もどかしくなって啓一郎は悲鳴のような声で叫んでしまった。
「親父が見た『神』っていうのはあんたたちなのかっ?」
まだ早い時間。空に昇り切っていない太陽の光が横合いからさやかの顔を照らしている。啓一郎は堰を切ったようにまくし立て始めた。
「オレの親父はそりゃあ、ろくでもないヤツだったさ。嘘つきでいい加減で金にだらしなくて。それでもっ、親父が必死の形相で言ったあの言葉。『神』を見たってあの言葉だけは本当だとオレは思いたいんだ。ただの幻、妄想のせいで狂い死にしただなんてそんなの信じたくない! 親父を信じて尽くして励まして泣いてたおふくろのためにも、虚言だとはオレは思いたくないんだ」
「死んだの? 高遠は」
「なあ、どうなんだよ? 親父が見た『神』ってなんなんだよ? あんたは知ってるんだろう。神って、なんだよ?」
「それがあなたの知りたいこと?」
「そうだ。オレは、本当のことが知りたいんだ」
目の前を通りすぎていく人々を、彼は橋桁の陰からぼんやりと眺めていた。足元に視線を落とすと雑草の間におもちゃの赤い車が転がっていた。子どもが落としていったのか、それとも故意に捨てられたのか。サビと砂埃で薄汚れたミニカー。
つま先でいじっていると不意に影が差した。足音もなく彼の前に人が立っていた。
「高遠啓一郎?」
頷くと、加倉さやかは瞳を眇めて彼を見つめ、それから制服のポケットを探って写真を取り出した。
「まずこれを返しておく」
啓一郎が中谷亜衣に委ねた写真だった。さやかの手からそれを受け取りながら啓一郎ははっきりした口調で彼女に尋ねた。
「教えてくれ。ここに写ってるのは、あんたなのか?」
「そうだって言ったら?」
啓一郎は目を瞠って自分よりも年下にしか見えない少女の顔を見下ろした。
「それなら、あんたは年をとってないってことになる」
「それがあなたにとって何か重要なことなの?」
虚を突かれて啓一郎は言葉を失った。
「あなたには関係のないことじゃない」
「……」
「取るに足らないことだわ。違う?」
何か言ってやろうと口を開きかけるのだが、言葉を見つけられない。もどかしくなって啓一郎は悲鳴のような声で叫んでしまった。
「親父が見た『神』っていうのはあんたたちなのかっ?」
まだ早い時間。空に昇り切っていない太陽の光が横合いからさやかの顔を照らしている。啓一郎は堰を切ったようにまくし立て始めた。
「オレの親父はそりゃあ、ろくでもないヤツだったさ。嘘つきでいい加減で金にだらしなくて。それでもっ、親父が必死の形相で言ったあの言葉。『神』を見たってあの言葉だけは本当だとオレは思いたいんだ。ただの幻、妄想のせいで狂い死にしただなんてそんなの信じたくない! 親父を信じて尽くして励まして泣いてたおふくろのためにも、虚言だとはオレは思いたくないんだ」
「死んだの? 高遠は」
「なあ、どうなんだよ? 親父が見た『神』ってなんなんだよ? あんたは知ってるんだろう。神って、なんだよ?」
「それがあなたの知りたいこと?」
「そうだ。オレは、本当のことが知りたいんだ」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて
ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
〜復讐〜 精霊に愛された王女は滅亡を望む
蘧饗礪
ファンタジー
人間が大陸を統一し1000年を迎える。この記念すべき日に起こる兇変。
生命の頂点に君臨する支配者は、何故自らが滅びていくのか理解をしない。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる