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第四話 クサナギノツルギ
24.呼び声
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「だいたいみんなあんたが悪いのよ! この剣はイザナキが手ずからアマテラスに与えたもの。あんたにどんな言い分があるにしろ、これはもうあんたのものなんかじゃない。それをいつまでもがたがたがたがた、恥ずかしいと思わないわけ?」
「うるせえよ。てめえは引っ込んでろ」
「なんですってええ」
「まあまあ、踊子。落ち着いて」
智になだめられた踊子はぷいっと横を向いた。代わって今度は智がスサノヲと向かい合った。
「わたしたちが知らないこととはなんなのですか?」
「……」
「なんなのですか?」
「あのお姫さんだよ」
「亜衣さんですか?」
「なによ、あの子がなんだっていうのよ?」
「彼女がいたから、俺たちはこの地に呼び寄せられたのだろう」
答えたのはそれまでずっと押し黙ったままでいた司だった。
「猿田彦は彼女が何者かを知っていたんだ」
踊子はがばっと身をひるがえした。
「ヒコちゃんに訊いてくる」
誰かに呼ばれたような気がして亜衣はゆるゆると目蓋を開いた。呼んでいる。誰かが自分を。そんな気がして起き上がったのに、身動きした瞬間に亜衣を捕らえていた波動はふつりと途切れてしまった。
「あ……」
「亜衣さん? どうかしましたか?」
傍らに付き添っていた君彦が訊いてくる。亜衣は何も答えることができなかった。口ごもっていると部屋のドアが勢いよく開いて踊子が入ってきた。
「ヒコちゃん。ちょっと話が」
亜衣が起き上がっているのを見て踊子は言葉を止めた。
「ごめんなさい。あたしが起こしちゃったかしら?」
「い、いいえ」
「そう? ならいいけど。まだ夜明けには間があるからもう少し眠るといいわ。明るくなったら学校に送っていってあげるから」
目線で君彦に一緒に来るよう促し出ていきかけた踊子を亜衣は慌てて呼び止めた。
「さやかさんは大丈夫なんですか?」
「どうして?」
「ひどい怪我をしてるみたいだったし。首。そう、首を、血がたくさん流れて」
目の当たりにした凄惨な光景を次々に思い出す。亜衣はたまらず両手で自分の首を包んだ。君彦がやさしく背中を撫でてくれる。それに励まされるように亜衣は再び踊子を見上げた。
「さやかさんは?」
いつになく深刻な表情で亜衣を見下ろした踊子は、しばらく間を置いた後、不意に彼女の手を取った。
「いらっしゃい」
手を引かれるまま、亜衣はさやかのベッドを降りて廊下に出た。しきりのドアが開けっぱなしになっている向こうの居間に司と智、そして黄色い髪の青年スサノヲが集まっているのが見える。
「うるせえよ。てめえは引っ込んでろ」
「なんですってええ」
「まあまあ、踊子。落ち着いて」
智になだめられた踊子はぷいっと横を向いた。代わって今度は智がスサノヲと向かい合った。
「わたしたちが知らないこととはなんなのですか?」
「……」
「なんなのですか?」
「あのお姫さんだよ」
「亜衣さんですか?」
「なによ、あの子がなんだっていうのよ?」
「彼女がいたから、俺たちはこの地に呼び寄せられたのだろう」
答えたのはそれまでずっと押し黙ったままでいた司だった。
「猿田彦は彼女が何者かを知っていたんだ」
踊子はがばっと身をひるがえした。
「ヒコちゃんに訊いてくる」
誰かに呼ばれたような気がして亜衣はゆるゆると目蓋を開いた。呼んでいる。誰かが自分を。そんな気がして起き上がったのに、身動きした瞬間に亜衣を捕らえていた波動はふつりと途切れてしまった。
「あ……」
「亜衣さん? どうかしましたか?」
傍らに付き添っていた君彦が訊いてくる。亜衣は何も答えることができなかった。口ごもっていると部屋のドアが勢いよく開いて踊子が入ってきた。
「ヒコちゃん。ちょっと話が」
亜衣が起き上がっているのを見て踊子は言葉を止めた。
「ごめんなさい。あたしが起こしちゃったかしら?」
「い、いいえ」
「そう? ならいいけど。まだ夜明けには間があるからもう少し眠るといいわ。明るくなったら学校に送っていってあげるから」
目線で君彦に一緒に来るよう促し出ていきかけた踊子を亜衣は慌てて呼び止めた。
「さやかさんは大丈夫なんですか?」
「どうして?」
「ひどい怪我をしてるみたいだったし。首。そう、首を、血がたくさん流れて」
目の当たりにした凄惨な光景を次々に思い出す。亜衣はたまらず両手で自分の首を包んだ。君彦がやさしく背中を撫でてくれる。それに励まされるように亜衣は再び踊子を見上げた。
「さやかさんは?」
いつになく深刻な表情で亜衣を見下ろした踊子は、しばらく間を置いた後、不意に彼女の手を取った。
「いらっしゃい」
手を引かれるまま、亜衣はさやかのベッドを降りて廊下に出た。しきりのドアが開けっぱなしになっている向こうの居間に司と智、そして黄色い髪の青年スサノヲが集まっているのが見える。
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