時の祭

奈月沙耶

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第四話 クサナギノツルギ

23.剣

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 言われてみれば、踏みしめている地面が小刻みに鳴動しているのを感じる。考えている間もなく今度は岩壁が音を立てて崩れ始めた。

「さあ、早く」
 促されて、亜衣は先に立った司の後について走り出した。広場を突っ切り足場の悪い隧道にさしかかったころ、亜衣は自分が両腕にしっかりと抜き身の剣を抱きしめていることに気がついた。

 いつの間にと思い、その存在を意識するのと同時に目の前がくらりとした。大きく鼓動が鳴る。
(なに、これ?)

「司さん! 亜衣さん!」
 前方から君彦が走って来た。
「大丈夫ですか、亜衣さん。顔色が」
「あ……」
「もう少しの辛抱です。今外に出してあげますから」

 来たときのように光の円から神社の社の前に。半分君彦に引きずられるようにしながらタクシーの待つ場所まで歩き……そこから先は覚えていない。
 気がついたら、マンションのさやかの部屋にいた。




「どうですか? 亜衣さんの様子は」
「ただただ、呆然自失って感じ。とにかく無理やり眠らせたわ」
 居間に入ってきた踊子は智の問いに答えながらそちらに歩み寄った。テーブルの上、布に包まれた一振りの剣がある。

 細身の刀身は曇りひとつなく、見る角度によってうっすらと深紅色に輝いて見えることもある。柄の部分はまったく飾り気がなく、装飾の類はまったく施されていなかった。

「これがサヤの原形」
 つぶやいてしまってから、踊子ははっと司の顔を見た。ソファに腰かけた司は膝の上で両手を組んだままじっと剣に視線を注いでいた。
「司」
 呼びかけたが返事がない。居たたまれなくなって踊子は智を振り返った。

「この子、まさかずっとこのままなんてことないわよね?」
「……」
「どうなのよ?」
 詰め寄られて智はゆっくりと頭を振った。
「わかりません。一度は人形を取った彼女のことです。原形であっても自分の声を伝えることはできるでしょうになんの意思表示もないということは、そうする力さえ残っていないということでしょう。そうなれば、再び人形になるための力を取り戻すのに、どれほどの年月を必要とするか」
「なによそれ、どうしてこんなことになっちゃったのよ」

 叫んだとき隣の和室の襖が開いてスサノヲが顔を出した。
「さっきから聞いてればおまえらほんとに何もわかっちゃいないんだな」
「何よ? どういう意味よ、それ」
 きっとスサノヲを睨みつけ踊子はそのまままくしたてた。
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