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第四話 クサナギノツルギ
19.最強
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さやかの肩越しに、亜衣はがれきの山の方を見ていた。
ちょっとやそっとでスサノヲが脱出してくるはずはない、そう確信しているさやかは気にする風もない。けれど、予感がした。どきどきと動悸が速くなる。
「さやかさ……」
不審を口にしようとしたときには遅かった。亜衣の表情に気づいたさやかが振り返る。
亜衣はその一部始終を見ていたが、すべてを目でとらえることはできなかった。それくらい、一瞬の出来事だったのだ。
がれきの山が崩れ落ちた。そう思ったときにはもう、目の前にスサノヲがいた。風の刃が真一文字にさやかの首に走った。
鮮やかに赤い血が噴き出すのを目の当たりにして亜衣は手で口を覆ったまま悲鳴を上げることすらできなかった。
のど元にぱっくり開いた傷口を押さえ、膝の上の司の体に覆いかぶさるようにしてさやかはぐらりと上体を倒した。
「悪いな。ダテに最強ハッてるわけじゃねえんだ」
「そう、みたいだね」
自らの血で汚してしまった司の体を押し退けながら頭を起こし、さやかはゆっくりと立ち上がった。
「さ、さやかさん」
ようやくのことで亜衣はのどからつぶれた声を押し出した。
「大丈夫よ」
言いながら、さやかは傷口を押さえていた手を離す。傷口は赤く開いたままだったが出血は既に止まっていた。
「ふん。神人以上の回復力だな」
「そりゃあね」
「だが先程の大技のせいでたいして力は残っていまい。ここらが観念のしどころだぞ」
土気色の顔でスサノヲを見つめたまま、さやかは静かに口を開いた。
「降参とかって、性に合わないのよね」
「ならば、我が力の前に果てるがいい」
スサノヲが上げた右手に光の剣が現れ、さやかめがけて振り下ろされる。
その動きがさやかの頭上で止まった。彼女の両の手のひらから生じた盾のようなものに阻まれたのだ。じりっとスサノヲが力を込めると、相反するふたつの力の間で火花が飛び散った。
「無駄な抵抗はよせ。見ていて哀れなくらいだぞ」
「やかましいわね。はい、そうですかってわけにいくもんですか」
ひときわ激しく火花が音を立てて、盾を支えるさやかの手が小刻みに震えた。
「亜衣ちゃん」
スサノヲを凝視したまま、さやかが小さく呼びかけてきた。
「亜衣ちゃん。逃げてっ」
スサノヲの光の剣を食い止めていた盾が消えた。力尽きたさやかには自分の身を守ることさえできない。が、二人の間に割って入った腕が、スサノヲの手首を掴んでいた。
ちょっとやそっとでスサノヲが脱出してくるはずはない、そう確信しているさやかは気にする風もない。けれど、予感がした。どきどきと動悸が速くなる。
「さやかさ……」
不審を口にしようとしたときには遅かった。亜衣の表情に気づいたさやかが振り返る。
亜衣はその一部始終を見ていたが、すべてを目でとらえることはできなかった。それくらい、一瞬の出来事だったのだ。
がれきの山が崩れ落ちた。そう思ったときにはもう、目の前にスサノヲがいた。風の刃が真一文字にさやかの首に走った。
鮮やかに赤い血が噴き出すのを目の当たりにして亜衣は手で口を覆ったまま悲鳴を上げることすらできなかった。
のど元にぱっくり開いた傷口を押さえ、膝の上の司の体に覆いかぶさるようにしてさやかはぐらりと上体を倒した。
「悪いな。ダテに最強ハッてるわけじゃねえんだ」
「そう、みたいだね」
自らの血で汚してしまった司の体を押し退けながら頭を起こし、さやかはゆっくりと立ち上がった。
「さ、さやかさん」
ようやくのことで亜衣はのどからつぶれた声を押し出した。
「大丈夫よ」
言いながら、さやかは傷口を押さえていた手を離す。傷口は赤く開いたままだったが出血は既に止まっていた。
「ふん。神人以上の回復力だな」
「そりゃあね」
「だが先程の大技のせいでたいして力は残っていまい。ここらが観念のしどころだぞ」
土気色の顔でスサノヲを見つめたまま、さやかは静かに口を開いた。
「降参とかって、性に合わないのよね」
「ならば、我が力の前に果てるがいい」
スサノヲが上げた右手に光の剣が現れ、さやかめがけて振り下ろされる。
その動きがさやかの頭上で止まった。彼女の両の手のひらから生じた盾のようなものに阻まれたのだ。じりっとスサノヲが力を込めると、相反するふたつの力の間で火花が飛び散った。
「無駄な抵抗はよせ。見ていて哀れなくらいだぞ」
「やかましいわね。はい、そうですかってわけにいくもんですか」
ひときわ激しく火花が音を立てて、盾を支えるさやかの手が小刻みに震えた。
「亜衣ちゃん」
スサノヲを凝視したまま、さやかが小さく呼びかけてきた。
「亜衣ちゃん。逃げてっ」
スサノヲの光の剣を食い止めていた盾が消えた。力尽きたさやかには自分の身を守ることさえできない。が、二人の間に割って入った腕が、スサノヲの手首を掴んでいた。
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