時の祭

奈月沙耶

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第四話 クサナギノツルギ

18.空白

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 さやかの腕を掴んでいた腕を離すと、スサノヲはその手を彼女の首に回した。
「瀕死の状態になれば危機本能というやつが勝手に元の姿に戻してくれるだろう。今までそういうことはなかったのか? 俺が試してやる」
「……」
「こういうやりかたは好かないようだな」
「あたりまえじゃない」

「それでは、もっと穏やかな手段に変えてやる」
 スサノヲの目が自分の方に向けられたのを見て亜衣は息を止めた。
「あの娘が人質だ。あれはただの人間だから簡単に死ぬのだろうなあ?」
「あんたね、それのどこが穏やかなのよっ」
「お前が言うことを聞きさえすれば穏やかにすむことだ」
 したり顔でスサノヲが言う。さやかは憎々しげにその顔を見上げた。ぎりっと自分を捕らえているスサノヲの腕に爪を立てる。血が滴るほどに容赦なく。

 予想外に幼稚な反撃に油断したのか、わずかに力を緩めたスサノヲの隙をついてさやかはその手を逃れた。
「この……」
 スサノヲが次の動作に移る前に、
「伏せて、亜衣ちゃん!」
 さやかの声に従って、亜衣はその場に身を伏せた。

「ひとを馬鹿にするんじゃないわよ……っ!」
 カッと白色の光が洞窟内にみなぎった。同時に息が詰まるほどの重力感が襲い掛かってきて、うつ伏せに身を低くした姿勢のまま亜衣は気を失っていた。




「亜衣ちゃん、亜衣ちゃん」
 気がついて、亜衣がわずかに身じろぎすると、心配そうに彼女の名を呼んでいたさやかはほっとした様子で小さく笑った。
「良かった。手加減なしでやっちゃったものだから、亜衣ちゃんも怪我してやしないかと心配で。大丈夫? どこか痛いところや苦しいところはない?」
「う、うん。平気、みたい」
 そろそろと身を起こしながら亜衣はあたりを見渡した。

 繰り返された小競り合いのせいで、いい加減悲惨な状態の岩室の中は更にひどい様相を呈していた。四方八方に地盤沈下でもしたような亀裂が走り、そこかしこに切り崩された岩壁が散らばっている。

 視線をさやかに戻した亜衣は、彼女の膝の上に司が横たわっているのに気がついた。亜衣が意識を失っている間に助け出したのだろう。
「無事、なの?」
「ええ、大丈夫。じきに目を覚ますはず」

「あの人は?」
 亜衣が尋ねると、さやかは目線で背後にうずたかく積みあがったがれきの山を示した。
「お返しよ。これで少しは時間が稼げる。今、君彦に来てもらうから。とりあえずうちに戻って……」
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