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第四話 クサナギノツルギ
17.お子様
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立ち上がれないのだ。亜衣がそう悟ると同時にスサノヲはすうっと腕を上げた。巻き起こった風がつむじ風となって司に向かう。
「司っ!」
さやかの叫びに動かされるように司はかろうじて身を守るように腕をかざした。今度は目を見開いたまま、亜衣はその光景を見つめていた。
司を直撃するかと思えた旋風はわずかに逸れて彼の上方の岩肌を打ち砕き、砕かれた岩石が司の頭上に降り注いだ。
数秒の間だった。土砂の中に司の姿は見えなくなっていた。
「……っ」
衝撃に立ち竦む亜衣の脇を抜け、さやかが転びそうになりながら司の消えた場所へと駆け寄った。
「司! バカ、返事しなさいよ! 生き埋めなんてシャレにならないじゃないっ」
錯乱気味につぶやきながら積みあがった土砂を必死に掘り起こす。そんな彼女の後ろにスサノヲが歩み寄った。
「ツクヨミめ。まったくいじめがいのない」
ムッと顔を上げてさやかはスサノヲに噛みついた。
「私怨で仕掛けてんのはあんたの方じゃない! あんた、司が嫌いだからこんなことしたんでしょうっ?」
「その通り。だからといって何が悪い?」
「開き直ってんじゃないわよ、ガキ!」
「んだと、ガキはそっちだろう!」
「言われて逆上するところがまったくガキだって言うのよっ」
きりきりとくちびるを噛みしめ、さやかは激しいまなざしでスサノヲを睨み上げた。
「あんたはお子様なの。ああしたい、こうしたい、自分の欲求だけで事を起こす。あのときだってそうだったんでしょう?」
「なに?」
「どうせ、おもちゃを取り上げられたことに腹を立てて高天原に攻め上ったんでしょうっ」
自身の胸に手を当てながら吐き捨てたさやかの顔をまじまじ見つめ、スサノヲは声を張り上げて笑い出した。
「そうさ! そうだ、そうだったんだ。だのにアマテラスが勘違いするから」
笑いをおさめたスサノヲの瞳に一瞬昔日の影が走り抜けた。
「仕方なかったんだ」
俯き加減にぽつりとつぶやきを落とし、再び顔を上げたときにはいつもの不遜な表情が戻っていた。スサノヲは乱暴にさやかの腕を引いた。
「今日のところはお前を取り戻すだけでよしとしてやる。さあ、さっさと原型に戻れ」
「えらそうにほざかないでよ! 大体、さっきも言ったでしょう。戻り方なんてわたしは知らないし、生まれてこの方わたしはずっとこの姿だったわよ。気がついたらこうだった。それ以前のわたしなんて知らない!」
「それなら力づくで戻してやる」
「司っ!」
さやかの叫びに動かされるように司はかろうじて身を守るように腕をかざした。今度は目を見開いたまま、亜衣はその光景を見つめていた。
司を直撃するかと思えた旋風はわずかに逸れて彼の上方の岩肌を打ち砕き、砕かれた岩石が司の頭上に降り注いだ。
数秒の間だった。土砂の中に司の姿は見えなくなっていた。
「……っ」
衝撃に立ち竦む亜衣の脇を抜け、さやかが転びそうになりながら司の消えた場所へと駆け寄った。
「司! バカ、返事しなさいよ! 生き埋めなんてシャレにならないじゃないっ」
錯乱気味につぶやきながら積みあがった土砂を必死に掘り起こす。そんな彼女の後ろにスサノヲが歩み寄った。
「ツクヨミめ。まったくいじめがいのない」
ムッと顔を上げてさやかはスサノヲに噛みついた。
「私怨で仕掛けてんのはあんたの方じゃない! あんた、司が嫌いだからこんなことしたんでしょうっ?」
「その通り。だからといって何が悪い?」
「開き直ってんじゃないわよ、ガキ!」
「んだと、ガキはそっちだろう!」
「言われて逆上するところがまったくガキだって言うのよっ」
きりきりとくちびるを噛みしめ、さやかは激しいまなざしでスサノヲを睨み上げた。
「あんたはお子様なの。ああしたい、こうしたい、自分の欲求だけで事を起こす。あのときだってそうだったんでしょう?」
「なに?」
「どうせ、おもちゃを取り上げられたことに腹を立てて高天原に攻め上ったんでしょうっ」
自身の胸に手を当てながら吐き捨てたさやかの顔をまじまじ見つめ、スサノヲは声を張り上げて笑い出した。
「そうさ! そうだ、そうだったんだ。だのにアマテラスが勘違いするから」
笑いをおさめたスサノヲの瞳に一瞬昔日の影が走り抜けた。
「仕方なかったんだ」
俯き加減にぽつりとつぶやきを落とし、再び顔を上げたときにはいつもの不遜な表情が戻っていた。スサノヲは乱暴にさやかの腕を引いた。
「今日のところはお前を取り戻すだけでよしとしてやる。さあ、さっさと原型に戻れ」
「えらそうにほざかないでよ! 大体、さっきも言ったでしょう。戻り方なんてわたしは知らないし、生まれてこの方わたしはずっとこの姿だったわよ。気がついたらこうだった。それ以前のわたしなんて知らない!」
「それなら力づくで戻してやる」
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