時の祭

奈月沙耶

文字の大きさ
上 下
64 / 77
第四話 クサナギノツルギ

17.お子様

しおりを挟む
 立ち上がれないのだ。亜衣がそう悟ると同時にスサノヲはすうっと腕を上げた。巻き起こった風がつむじ風となって司に向かう。
「司っ!」
 さやかの叫びに動かされるように司はかろうじて身を守るように腕をかざした。今度は目を見開いたまま、亜衣はその光景を見つめていた。

 司を直撃するかと思えた旋風はわずかに逸れて彼の上方の岩肌を打ち砕き、砕かれた岩石が司の頭上に降り注いだ。
 数秒の間だった。土砂の中に司の姿は見えなくなっていた。
「……っ」
 衝撃に立ち竦む亜衣の脇を抜け、さやかが転びそうになりながら司の消えた場所へと駆け寄った。

「司! バカ、返事しなさいよ! 生き埋めなんてシャレにならないじゃないっ」
 錯乱気味につぶやきながら積みあがった土砂を必死に掘り起こす。そんな彼女の後ろにスサノヲが歩み寄った。
「ツクヨミめ。まったくいじめがいのない」

 ムッと顔を上げてさやかはスサノヲに噛みついた。
「私怨で仕掛けてんのはあんたの方じゃない! あんた、司が嫌いだからこんなことしたんでしょうっ?」
「その通り。だからといって何が悪い?」
「開き直ってんじゃないわよ、ガキ!」
「んだと、ガキはそっちだろう!」
「言われて逆上するところがまったくガキだって言うのよっ」

 きりきりとくちびるを噛みしめ、さやかは激しいまなざしでスサノヲを睨み上げた。
「あんたはお子様なの。ああしたい、こうしたい、自分の欲求だけで事を起こす。あのときだってそうだったんでしょう?」
「なに?」
「どうせ、おもちゃを取り上げられたことに腹を立てて高天原に攻め上ったんでしょうっ」

 自身の胸に手を当てながら吐き捨てたさやかの顔をまじまじ見つめ、スサノヲは声を張り上げて笑い出した。
「そうさ! そうだ、そうだったんだ。だのにアマテラスが勘違いするから」
 笑いをおさめたスサノヲの瞳に一瞬昔日の影が走り抜けた。
「仕方なかったんだ」
 俯き加減にぽつりとつぶやきを落とし、再び顔を上げたときにはいつもの不遜な表情が戻っていた。スサノヲは乱暴にさやかの腕を引いた。

「今日のところはお前を取り戻すだけでよしとしてやる。さあ、さっさと原型に戻れ」
「えらそうにほざかないでよ! 大体、さっきも言ったでしょう。戻り方なんてわたしは知らないし、生まれてこの方わたしはずっとこの姿だったわよ。気がついたらこうだった。それ以前のわたしなんて知らない!」
「それなら力づくで戻してやる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

神のおもちゃのラグナロク 〜おっさんになった転生者は、のんびり暮らす夢を見る。~

やすぴこ
ファンタジー
古今東西のお話を元にして神様達が遊びで作った剣と魔法の世界に『活躍を期待しているよ』と言う言葉と『神のギフト』を貰って転生した北浜 正太。 しかし、蓋を開けると『活躍を期待している』にしてはそこそこ平和、『神のギフト』と言うにはそこそこ強い力しか持っていない。 神に騙されたと思いながらも、『活躍を期待しているよ』と言う言葉の通りに英雄を目指して頑張っていたが、そこそこ強い程度の力では活躍なんて出来る筈も無く、どんどん力を付けて行く仲間達に嫌味を言われる日々だった。 そんなある日、とある事件で国を追われて長い逃亡の果てに辺境の街に辿り着く。 今の日課は、小物退治に新人教育、それにのんびり暮らす事! そんな毎日を送っていると、気が付けば38歳のおっさんになっていた。 『今更英雄を目指すのなんて面倒臭い。このままのんびり暮らしたい』 そんな夢を想い描いている彼なのだけど、最近何やら世間が騒がしい。 運命はどうやら見逃してはくれないようです。 なろうカクヨムで公開している物を改稿して完全版として掲載しています。 改題しました。旧題『遅咲き転生者は、のんびり暮らす夢を見る。 ~運命はどうやら見逃してくれないようです~』

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

イケもふ達とぴよぴよご主人様の異世界ライフ!

三月べに
恋愛
ふと寂しくなる。イケもふと触れ合うゲームアプリを久しぶりに起動して、アップデダウンロードを待っていれば、道の隅っこに黄色っぽい鳥を見付けた。フェンスに翼が引っかかっているところを助けると、トラックが酷い音を響かせて突っ込んで来た。そして、異世界へ。見覚えのあるイケもふ。 ともに異世界を生きるが、イケもふ達は少々ヤンデレ気味で……? その上、自分は金色のもふもふの鳥(ぴよこ)に!? 【誕生日(2024/08/04)記念作品】

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

崩壊寸前のどん底冒険者ギルドに加入したオレ、解散の危機だろうと仲間と共に友情努力勝利で成り上がり

イミヅカ
ファンタジー
 ここは、剣と魔法の異世界グリム。  ……その大陸の真ん中らへんにある、荒野広がるだけの平和なスラガン地方。  近辺の大都市に新しい冒険者ギルド本部が出来たことで、辺境の町バッファロー冒険者ギルド支部は無名のままどんどん寂れていった。  そんな所に見習い冒険者のナガレという青年が足を踏み入れる。  無名なナガレと崖っぷちのギルド。おまけに巨悪の陰謀がスラガン地方を襲う。ナガレと仲間たちを待ち受けている物とは……?  チートスキルも最強ヒロインも女神の加護も何もナシ⁉︎ ハーレムなんて夢のまた夢、無双もできない弱小冒険者たちの成長ストーリー!  努力と友情で、逆境跳ね除け成り上がれ! (この小説では数字が漢字表記になっています。縦読みで読んでいただけると幸いです!)

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya
ファンタジー
戦争・紛争の収まらぬ戦乱の世で 平和への夜明けを導く者は誰だ? 其々の正義が織り成す長編ファンタジー。 〜本編あらすじ〜 広く豊かな海に囲まれ、大陸に属さず 島国として永きに渡り歴史を紡いできた 独立国家《プレジア》 此の国が、世界に其の名を馳せる事となった 背景には、世界で只一国のみ、そう此の プレジアのみが執り行った政策がある。 其れは《鎖国政策》 外界との繋がりを遮断し自国を守るべく 百年も昔に制定された国家政策である。 そんな国もかつて繋がりを育んで来た 近隣国《バルモア》との戦争は回避出来ず。 百年の間戦争によって生まれた傷跡は 近年の自国内紛争を呼ぶ事態へと発展。 その紛争の中心となったのは紛れも無く 新しく掲げられた双つの旗と王家守護の 象徴ともされる一つの旗であった。 鎖国政策を打ち破り外界との繋がりを 再度育み、此の国の衰退を止めるべく 立ち上がった《独立師団革命軍》 異国との戦争で生まれた傷跡を活力に 革命軍の考えを異と唱え、自国の文化や 歴史を護ると決めた《護国師団反乱軍》 三百年の歴史を誇るケーニッヒ王家に仕え 毅然と正義を掲げ、自国最高の防衛戦力と 評され此れを迎え討つ《国王直下帝国軍》 乱立した隊旗を起点に止まらぬ紛争。 今プレジアは変革の時を期せずして迎える。 此の歴史の中で起こる大きな戦いは後に 《日の出戦争》と呼ばれるが此の物語は 此のどれにも属さず、己の運命に翻弄され 巻き込まれて行く一人の流浪人の物語ーー。 

処理中です...