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第四話 クサナギノツルギ
13.最古で最高の
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「本当にそれだけか?」
司が重ねて問いかけるとスサノヲは口元から笑いを消した。
「あれを手におまえは何をしようというのか、スサノヲ!」
詰問に、スサノヲは初めて真剣な表情になって口を開いた。
「知れたこと。この秋津島を祓い清めるのだ」
「何を馬鹿なことを」
「馬鹿なのはおまえたちだ、ツクヨミ。もともとはこの秋津島は俺たち国つ神が鎮めた土地。それをみすみす人間なんぞの手に委ねやがって。見ろ、図に乗った奴らの所業を。森を焼き山を崩し、闇を払い、土地神を追い落として敬うこともしない」
「……」
「お前らは誤ったんだよ。これから俺が証明してやる。てめえらとは違うやり方ですべてを造りなおしてやる」
「今更そんなことできるわけないだろう」
「できるさ。ムラクモの力があれば」
にっと笑みを浮かべてスサノヲは拳を握る。
「天を貫き地を砕く、天叢雲剣が俺の手に戻りさえすれば!」
司の後ろでそれを聞いていた亜衣は、幼いころ父親から語って聞かされた神話のひとつを思い出していた。
アメノムラクモノツルギとは、有名な三種の神器のひとつ、クサナギノツルギの別名だ。
スサノヲノミコトの手によりヤマタノオロチの尾の中から取り出された剣は、スサノヲからアマテラスオオミカミに献上され、後に伊勢神宮のヤマトヒメノミコトからヤマトタケルに託された。
ムラクモとは、クサナギノツルギのことなのだ。日本最古で最高の神剣。
スサノヲはさやかのことをムラクモと呼んでいた。
――物だったんですよ、あの子は。ある物が、ある女性の思いを受けて、少女の形に化身した。
思い至ったとき、自分の体がふわりと宙に浮くのを感じて亜衣は短く悲鳴を上げた。とっさに伸ばされた司の手が見えない何かにはじかれる。
「スサノヲ!」
詰る司の視線の先でスサノヲはにやりと笑って腕を伸ばした。体が宙を滑ってその腕へと引き寄せられていく。抵抗したくても思うように体が動かない。
思わず亜衣が目を閉じたとき、大きな振動が岩場中に響き渡った。
スサノヲの横合いの岩壁が砕け、岩の破片が横殴りのつぶてとなってスサノヲに襲い掛かった。差し伸べていた腕をかざしてスサノヲは身を守る。
体にまとわりついていた浮遊力が消えて亜衣は岩場にへたりこんだ。司に助け起こされながら亜衣は砕けた岩壁の方を見た。
「さやかさん」
亜衣の顔に視線を走らせたさやかは、すぐに目を逸らしてスサノヲを激しく睨んだ。
司が重ねて問いかけるとスサノヲは口元から笑いを消した。
「あれを手におまえは何をしようというのか、スサノヲ!」
詰問に、スサノヲは初めて真剣な表情になって口を開いた。
「知れたこと。この秋津島を祓い清めるのだ」
「何を馬鹿なことを」
「馬鹿なのはおまえたちだ、ツクヨミ。もともとはこの秋津島は俺たち国つ神が鎮めた土地。それをみすみす人間なんぞの手に委ねやがって。見ろ、図に乗った奴らの所業を。森を焼き山を崩し、闇を払い、土地神を追い落として敬うこともしない」
「……」
「お前らは誤ったんだよ。これから俺が証明してやる。てめえらとは違うやり方ですべてを造りなおしてやる」
「今更そんなことできるわけないだろう」
「できるさ。ムラクモの力があれば」
にっと笑みを浮かべてスサノヲは拳を握る。
「天を貫き地を砕く、天叢雲剣が俺の手に戻りさえすれば!」
司の後ろでそれを聞いていた亜衣は、幼いころ父親から語って聞かされた神話のひとつを思い出していた。
アメノムラクモノツルギとは、有名な三種の神器のひとつ、クサナギノツルギの別名だ。
スサノヲノミコトの手によりヤマタノオロチの尾の中から取り出された剣は、スサノヲからアマテラスオオミカミに献上され、後に伊勢神宮のヤマトヒメノミコトからヤマトタケルに託された。
ムラクモとは、クサナギノツルギのことなのだ。日本最古で最高の神剣。
スサノヲはさやかのことをムラクモと呼んでいた。
――物だったんですよ、あの子は。ある物が、ある女性の思いを受けて、少女の形に化身した。
思い至ったとき、自分の体がふわりと宙に浮くのを感じて亜衣は短く悲鳴を上げた。とっさに伸ばされた司の手が見えない何かにはじかれる。
「スサノヲ!」
詰る司の視線の先でスサノヲはにやりと笑って腕を伸ばした。体が宙を滑ってその腕へと引き寄せられていく。抵抗したくても思うように体が動かない。
思わず亜衣が目を閉じたとき、大きな振動が岩場中に響き渡った。
スサノヲの横合いの岩壁が砕け、岩の破片が横殴りのつぶてとなってスサノヲに襲い掛かった。差し伸べていた腕をかざしてスサノヲは身を守る。
体にまとわりついていた浮遊力が消えて亜衣は岩場にへたりこんだ。司に助け起こされながら亜衣は砕けた岩壁の方を見た。
「さやかさん」
亜衣の顔に視線を走らせたさやかは、すぐに目を逸らしてスサノヲを激しく睨んだ。
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