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第四話 クサナギノツルギ
11.反感
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柔和な面持ちの中で、智はかすかに眉を曇らせ言葉を続けた。
「一部の国つ神の間ではいまだに我々に対する反感が根強く残ってましてね。スサノヲはその急先鋒で、また、彼と高天原の間には神代の昔から様々な因縁があるものですから、何かと諍いが絶えないのです。さやかのこともそのひとつにすぎないのですよ」
そう言葉を結んで、智はそれ以上多くは語らなかった。
「君が行きたいと言うなら一緒に来てもらう。行きたくないと言うのなら、他の算段をつける。君の判断に任せる」
司に尋ねられて亜衣は一も二もなく行きますと答えていた。迷いはなかった。
即答した亜衣の顔を司は複雑な顔で見やったが口に出しては何も言わなかった。智と踊子には待機を指示し、君彦についてくるよう促してタクシーに乗り込んだ。
「このあたりで降ろしてくれますか」
灯火の乏しい道路沿いにゴルフ場の黒々とした芝が見晴るかせる地点で、司が運転手に言った。
「二時間程度ここで待っててください。それ以上待っても僕らが来なければ戻ってしまって結構です。帰りにまた同じ額を渡しますから」
一万円札を二枚押しつけると、出かかっていた文句を口の中に引っ込めて運転手はこくこく頷いた。
「気前がいいですね」
「こういうときのための金だ」
緊張をほぐそうとしたのか君彦が敢えて口にした軽口に司も律儀に応えていた。
それきり黙り込んで月明かりを頼りに夜道を歩いて行った。途中、心配した君彦が亜衣の手を引いてくれた。十数分の後に三人は水神社の鳥居の前に辿り着いていた。
「君彦」
「はい。お気をつけて」
君彦とはそこで別れ、司は亜衣に声をかけて鳥居の奥の小道を進みだした。後に残った君彦の方を亜衣が振り返ったとき、今潜ったばかりの朽ちかけた鳥居が突然光の柱を立ち昇らせた。思わず亜衣が声をあげると、前を歩いていた司が振り返った。
「今のに気がついたのか?」
「え、ええ」
「君彦が道を断ったんだ。これより神社の結界の内と外では一切のものが遮断される。ここで何が起こっても外部に影響することはない」
逆にいえば、そういう処置が必要なほどのことが起きると司は考えているのだろう。察して亜衣は背筋が強張るのを感じた。けれど今更怖いだなんて言ってはいられない。
やがて木立が開けて虫の声に混じって沢音が聞こえてきた。社のある広場に入ると社の正面に白く輝く光の円が出現した。
「一部の国つ神の間ではいまだに我々に対する反感が根強く残ってましてね。スサノヲはその急先鋒で、また、彼と高天原の間には神代の昔から様々な因縁があるものですから、何かと諍いが絶えないのです。さやかのこともそのひとつにすぎないのですよ」
そう言葉を結んで、智はそれ以上多くは語らなかった。
「君が行きたいと言うなら一緒に来てもらう。行きたくないと言うのなら、他の算段をつける。君の判断に任せる」
司に尋ねられて亜衣は一も二もなく行きますと答えていた。迷いはなかった。
即答した亜衣の顔を司は複雑な顔で見やったが口に出しては何も言わなかった。智と踊子には待機を指示し、君彦についてくるよう促してタクシーに乗り込んだ。
「このあたりで降ろしてくれますか」
灯火の乏しい道路沿いにゴルフ場の黒々とした芝が見晴るかせる地点で、司が運転手に言った。
「二時間程度ここで待っててください。それ以上待っても僕らが来なければ戻ってしまって結構です。帰りにまた同じ額を渡しますから」
一万円札を二枚押しつけると、出かかっていた文句を口の中に引っ込めて運転手はこくこく頷いた。
「気前がいいですね」
「こういうときのための金だ」
緊張をほぐそうとしたのか君彦が敢えて口にした軽口に司も律儀に応えていた。
それきり黙り込んで月明かりを頼りに夜道を歩いて行った。途中、心配した君彦が亜衣の手を引いてくれた。十数分の後に三人は水神社の鳥居の前に辿り着いていた。
「君彦」
「はい。お気をつけて」
君彦とはそこで別れ、司は亜衣に声をかけて鳥居の奥の小道を進みだした。後に残った君彦の方を亜衣が振り返ったとき、今潜ったばかりの朽ちかけた鳥居が突然光の柱を立ち昇らせた。思わず亜衣が声をあげると、前を歩いていた司が振り返った。
「今のに気がついたのか?」
「え、ええ」
「君彦が道を断ったんだ。これより神社の結界の内と外では一切のものが遮断される。ここで何が起こっても外部に影響することはない」
逆にいえば、そういう処置が必要なほどのことが起きると司は考えているのだろう。察して亜衣は背筋が強張るのを感じた。けれど今更怖いだなんて言ってはいられない。
やがて木立が開けて虫の声に混じって沢音が聞こえてきた。社のある広場に入ると社の正面に白く輝く光の円が出現した。
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