時の祭

奈月沙耶

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第四話 クサナギノツルギ

7.大事なのは

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「倭姫が、あなたと一緒に行けって。だから」
 タケルは何度も頭を振りながらサヤに戻れと言った。頑としてサヤが聞き遂げずにいると、やがて諦めたように吐息をついてサヤに手を差し伸べた。
「わかったよ。おいで」

 こうして共をしてしばらくは大きな困難に瀕することもなくタケルは討伐を果たしていった。

 サヤが初めてタケルの前で力を現したのは、大王家を快く思わない地方役人たちが沼地にタケルを誘い出し火を放って焼き殺そうとしたときだった。
「火が」
 一瞬絶望的な目をした彼の前に進み出て、サヤは頭上に振り上げた手を下ろした。周囲に風が巻き起こり草を薙ぎ払い、恐ろしいほどの風圧で炎を四散させた。

 彼女の神威を目の当たりにしたタケルはまじまじとサヤを見下ろし、やがてぽつりと言った。
「あのおば上がただの少女を寄越すわけないものな」

 それからの道中サヤはあらゆる危険から彼を守り続けた。
「なぜわたしを守ってくれるんだい?」
「倭姫に頼まれたから」
 問われればそう答えるしかなかった。そのたびに彼は不思議なまなざしをして微笑んだものだった。

 ある日、馬を休ませている間自分の隣にサヤを座らせタケルが尋ねてきた。
「おまえは、人にとって最も大事なものはなんだと思う?」
「わからない。そんなの」
 私は人ではないから。即答するとタケルは苦笑気味に小さく笑った。
「そんな簡単に降参するものではないよ。考えてごらん」

 サヤはくちびるを引き結んでしばし熟考した後に答えた。
「誇り、かな」
「誇り」
「だって、誇りがあるから、倭姫やタケルは誰も恨まずにいられるのでしょう」
 巫女姫としての力を恐れられ伊勢へ遠ざけられても。その武威を疎んじられ死をも覚悟しなければならない旅へ追いやられても。誇り高くあれるかどうかが、その人の価値を決めるのではないか。

「おまえは賢いな」
 タケルは微笑してサヤの頭を撫でた。
「わたしは、人にとって大事なのは慈しみだと思う」
 瞳にどこか張り詰めた光を浮かべながら彼は囁いた。
「わずかでも父に愛された記憶があるから、わたしは生きていられる」

 サヤは眉をひそめるようにしてそんな彼の横顔を見つめた。愛された記憶? わからない。それは、こんなにも悲壮な顔で口にしなければならないことなのだろうか。わからない。
(わからないことだらけだ。ヒトなんて)
 彼女のその思いを強くしたのは、ミヤズヒメとの関わりにおいてだった。
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