時の祭

奈月沙耶

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第四話 クサナギノツルギ

3.神様

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 それには思考力があり人格といえるものがあります。個として存在しているけれど、それには形がなく人の目には見えません。実体のない精神体でしかないのです。彼らが実体を持つために用いるいちばん簡単な方法は、人の体を器とすることです」
 そこで一度言葉を切って、智はじっと聞き入る亜衣の表情を確認した。

「こう聞いて思い浮かぶのは憑坐(よりまし)でしょう。ですがそれだけでは彼らは存在を明確にさせることができない。より強固に生きた肉体と結びつく必要があるのです。わたしたちはこれを〈魂継〉(たまつぎ)と呼んでいるのですが、こうなると器となった肉体の時間は止まり、その人は年をとらなくなります。治癒力が高まり怪我をしてもすぐに癒えます。つまり病気や怪我で死ぬこともなくなるのです。体の中に人格を持った精神体を受け入れるのですから、一つの体に二つの意識が同居していることになりますね。しかしそれは始めのうちだけで、やがて時間と共にふたつの意識は無理のない形で融合し、あたらしい人格が形成されます。入り込んだものの意識が強く出ることもあるし、器となった人間の性格が色濃く残ることもあります。こればかりは場合によって様々です。……つまり、こうして生き続けているのが、ここにいるわたしたちなのです。ご理解いただけましたか?」

 亜衣はばかみたいに口を開けていた。そりゃあ良くわかった。理解できた。彼の話したことならば。
 自然界の高位に存在する思考力を持つ精神体。不老不死となって長い年月を生き続けるという。
 なによりも、さっき目の当たりにした青年やさやかの不思議な力。亜衣の脳裏に先ほど飛び交っていた単語がよみがえってきた。

 スサノヲ……ツクヨミ……サルタヒコ……。それらの名前が示すものは。亜衣は口に手を当て、つぶやいてしまっていた。
「神様、なんですか?」

 智はわずかに目を細め、ほんの微かに苦笑した。
「あなたのおっしゃる神というのが、人知を超える全知全能の存在のことを指すなら、違います。が」
 彼が口元に浮かべた笑みが深いものに変わる。
「喜怒哀楽のある、人間としてさして代わり映えのしない、別に偉くもなんともない者たちのことを言うのなら、そうなのですと申し上げましょう」
 亜衣は身動きするのも忘れてぽかんと智の顔を見つめていた。すると智はくすりと笑った。
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