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第四話 クサナギノツルギ
2.説明
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微笑みながらソファの方へと促してくれた人のことなら知っていた。さやかの従兄の倉田智という人だ。もうひとりの人はわからない。けれど心当たりはあった。
以前に由利子が「さやかさんのお兄さんにごあいさつしちゃった」と騒いでいた。なるほど、やさしげな容貌の素敵な人だが今は顔中に厳しい色を浮かべていた。
促されるまま亜衣は腰を下ろす。向かいに落ち着いた智が口を開いた。
「さぞかし混乱なさってることでしょうね」
智はさやかの兄の方を振り返って尋ねた。
「お話してもいいですね。司」
彼が頷くと、智は再び亜衣を見て少しだけ口元をほころばせた。亜衣の緊張を解こうとするかのようだった。
「それではわたしからお話させて頂きますが、その前にあなたのお話を聞かせていただけないでしょうか?」
智はテーブルの上に写真を出した。すっかりもみくちゃにされてしまっている。
「あなた、気を失ってもずっとこれを握ってたんですよ」
亜衣はちょっと赤くなり、それから言葉を選びながらゆっくりと、昨晩から今日にかけての出来事を話した。
高遠啓一郎にこの写真を渡され、叔父の昌宏を訪ねたこと。啓一郎から聞かされた十二年前のこと。亜衣が話し終えると智は司を見返った。
「なるほど、高遠の息子か」
額を押えながら司は軽く嘆息した。
「それでは、我々のことをお話ししましょうか」
「はい」
尋ねたかったことをあっさり切り出され、亜衣はかしこまって聞く姿勢をつくった。
「さやかはあなたにどの程度のことを話したのでしょうか?」
「さやかさんは人間じゃないから年をとらないって。それから、わたしがお兄さんのことを訊いたら、お兄さんは元は人間だけど自分は違うって、そう聞きました」
ゆっくりゆっくり、亜衣がそれだけのことを言うと、智は何度か頷いて、それから亜衣に向けて語りだした。
「あなたが考えている通り、わたしたちは人とは少し違っているのですよ。少しだけ、ですけどね」
亜衣を驚かせないように言葉を選んでくれているらしかった。
「脈絡のない話だとお思いになるかもしれませんが、我慢して聞いてください。……古来日本人は、人間と自然の延長に存在するもの、万物に宿る霊魂、わかりやすく言えば精霊ですね。山や川や木や動物や、すべてのものに宿る精霊を信仰してきた。そういった精霊たちの、更に高位に存在する霊的なものがあると考えてください。
以前に由利子が「さやかさんのお兄さんにごあいさつしちゃった」と騒いでいた。なるほど、やさしげな容貌の素敵な人だが今は顔中に厳しい色を浮かべていた。
促されるまま亜衣は腰を下ろす。向かいに落ち着いた智が口を開いた。
「さぞかし混乱なさってることでしょうね」
智はさやかの兄の方を振り返って尋ねた。
「お話してもいいですね。司」
彼が頷くと、智は再び亜衣を見て少しだけ口元をほころばせた。亜衣の緊張を解こうとするかのようだった。
「それではわたしからお話させて頂きますが、その前にあなたのお話を聞かせていただけないでしょうか?」
智はテーブルの上に写真を出した。すっかりもみくちゃにされてしまっている。
「あなた、気を失ってもずっとこれを握ってたんですよ」
亜衣はちょっと赤くなり、それから言葉を選びながらゆっくりと、昨晩から今日にかけての出来事を話した。
高遠啓一郎にこの写真を渡され、叔父の昌宏を訪ねたこと。啓一郎から聞かされた十二年前のこと。亜衣が話し終えると智は司を見返った。
「なるほど、高遠の息子か」
額を押えながら司は軽く嘆息した。
「それでは、我々のことをお話ししましょうか」
「はい」
尋ねたかったことをあっさり切り出され、亜衣はかしこまって聞く姿勢をつくった。
「さやかはあなたにどの程度のことを話したのでしょうか?」
「さやかさんは人間じゃないから年をとらないって。それから、わたしがお兄さんのことを訊いたら、お兄さんは元は人間だけど自分は違うって、そう聞きました」
ゆっくりゆっくり、亜衣がそれだけのことを言うと、智は何度か頷いて、それから亜衣に向けて語りだした。
「あなたが考えている通り、わたしたちは人とは少し違っているのですよ。少しだけ、ですけどね」
亜衣を驚かせないように言葉を選んでくれているらしかった。
「脈絡のない話だとお思いになるかもしれませんが、我慢して聞いてください。……古来日本人は、人間と自然の延長に存在するもの、万物に宿る霊魂、わかりやすく言えば精霊ですね。山や川や木や動物や、すべてのものに宿る精霊を信仰してきた。そういった精霊たちの、更に高位に存在する霊的なものがあると考えてください。
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