時の祭

奈月沙耶

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第三話 天つ神 国つ神

14.恥ずかしい

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「祭の取材っていうのは建前で本当はうちのお父さんが行方不明な事件を調べるために村に行ったんだって。わたし、お父さんが行方不明だったことも知らなくて。昨日初めて知って、おにいちゃんに訊いたらその通りだって言うから。だから、高遠さんのこと信じられるかもって。そしたら、写真の女の子はさやかさんで、さやかさんは年をとってないって、そう言うから。だから」

 自分でも何を言っているのかわからなくなっていた。何をしゃべっているのだろう。ぐちゃぐちゃだ。聞いてる方にはいい迷惑だ。

「高遠さんのお父さんは『神を見た』って言ってたって。宵宮の晩にうちのお父さんが見つかったんだって聞いた。高遠さんは、さやかさんが関係してるんじゃないかって……そうなの?」
 亜衣が話すのを黙って聞いていたさやかは亜衣の手に写真を戻しながら言った。

「もう関わらない方がいい。高遠ってやつのことも放っておいて。あなたには関係のないことなんだから。みんな忘れて、いつもどおりに戻るといい」
 さやかは多分心配してくれているのだろう。それはわかった。わかったけれど。

「もう会うこともないでしょうから、わたしのことも忘れて……」
「どういうこと?」
 思わず、さやかの言葉を遮ってしまっていた。
「どうして? どうしてそうなるの? 嫌だよ。どうしてそんなこと」
「亜衣ちゃん」
 さっきと同じように彼女は顔を歪めた。怒っているような、悲しんでいるような、困っているような、泣いているような。

 迷惑なんだ。そう思った。自分が困らせてしまっているのだ。
「ごめんなさい」
 ぽつりと落として、亜衣は立ち上がった。

 ――オレはね、本当のことを知りたいんだ。
 亜衣も本当のことが知りたかった。聞かせてほしかった。さやかのことを、彼女自身の口から。きっと、話してもらえると思った。なぜだかそう思っていた。でも、それはとんでもない思い違いだったのだ。恥ずかしい。無性に自分が恥ずかしくて、もうここにはいられなかった。

「ごめんなさい!」
 叫んで背を向けた。
「亜衣ちゃんっ」
 靴をつっかけて飛び出す。エレベータを待ってられなくて階段に足を向けた。

「亜衣ちゃん! 待って」
 背後からさやかの声。振り向かないで駆け下りた。五階分の階段を下りて一階のロビーを突っ切り正面の自動扉から表の通りへ。
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