時の祭

奈月沙耶

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第三話 天つ神 国つ神

13.混乱

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 とっさには、何を言われたのか理解できなかった。落ち着き払ったさやかの顔を長いこと見つめ、それからようやく、亜衣は口を開いた。
「人間じゃないって、それじゃあ、さやかさんはなんなの?」
 さやかはちょっと首を傾けて笑った。
「それは説明しにくいわ」

「……」
「難しく考えることないのよ。言葉どおりの意味なんだから」
 混乱していた。これ以上混乱してこないうちに、と亜衣は疑問に思ったことをそのまま口に出した。
「お兄さんも? さやかさんのお兄さんも年をとってないの? 人間じゃないの?」
 さやかは少し間をおいてから、ゆっくりと言った。

「そうね。その通りだけれど、司は、もとは人間だったわ。わたしとは違う。わたしはもとから人間ではないものだったから」
 それはどういうことかと口走りそうになって亜衣はそうじゃないとくちびるを噛んだ。違う。尋ねたいのはこんなことではないはずだ。

 どうしてもさやかに会いたくてここまで必死に走ってきた。別れ際、啓一郎とどんな言葉を交わしたかすら覚えていない。他のことは考えられなかった。訊きたかった、ことは。

「さやかさんだったんだね」
 訝しそうにしているさやかの顔に見入りながら亜衣はつぶやいた。
「あれはさやかさんだったんだ」
 すると、不意にさやかは顔を歪めた。

「亜衣ちゃん。わたしはね、あなたに約束してたのよ。『あなたと私がまた出会うことがあったらそのときは、あなたの願いをなんでもかなえてあげる』って」
 亜衣は驚いた。言葉の内容よりも、さやかがそんな顔をしたことに。

「好きな相手にならなんだってしてあげたくなるから。わたしはそういうの見境ないから。自分でもわかってるから、亜衣ちゃんのことずっと避けてた」
 避けられていると感じたのは思い違いではなかったのだ。そうとわかると、さやかに責められているような気がしてきた。自分はここに来てはいけなかったのだろうか。聞いてはいけないことを、聞いてしまったのだろうか。

「知っちゃいけないことだったの?」
「誰がこんな写真を?」
「秘密だったの? だから……」
「そんなことは問題じゃない」
 はねのける強さで言われ亜衣は怯んだ。

「誰があなたにこれを見せたの?」
「高遠啓一郎さんて人。その人のお父さんが、秋祭の取材に行って、それでって」
 おずおずと話すと、さやかは口の中でつぶやいた。
「高遠……」
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