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第三話 天つ神 国つ神
12.「わたし人間じゃないから」
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「司たちは寄ってたかって説得にかかるだろうし。でも相手があれじゃね。向こうの出方によってはこっちにも考えがあるってこと」
「武闘派なんですね」
「そうよ。わたしが唯一のね」
君彦は少し笑った。その後ふたりで黙りこくっていると、来客を告げるチャイムが鳴った。
「誰だろう」
首を傾げて立ち上がり、さやかは玄関へ向かった。扉の向こうに立っていたのは中谷亜衣だった。不意をつかれてさやかは驚いた。
「ごめんなさい。どうしても、さやかさんに訊きたいことがあって」
まだ学校の授業は終わっていないはずだ。それを、こんな時間に、こんな思いつめた顔で亜衣はここに来た。なんとなく察しがついて、さやかは彼女を招き入れた。
「お客様ですか?」
廊下と居間とのしきりのドアから君彦が顔だけ出す。
「うん。部屋にいるから」
「じゃあ、お茶を……」
「いらない」
かまわないでくれという意味合いを込めてさやかが返すと、君彦は意を汲んだらしくすぐに顔を引っ込めた。
亜衣を自室のベッドの端に座らせ、自分は床の上に正座して、さやかは「それで?」と亜衣を促した。
「何? 訊きたいことって」
亜衣は一枚のポラロイド写真を取り出した。無言のままさやかに差し出す。受け取ってそれに目を落とし、そういうことかとさやかは笑いたくなってしまった。
なんてことだろう。こんなものがあったなんて。それにしても亜衣はどこからこんなものを。
「そこに写ってるの、さやかさんなの?」
さやかは黙って亜衣の顔を見上げた。亜衣は真剣な表情でさやかの返事を待っている。
「そうね、これはわたしだわ」
「でもこれは十二年前の写真なの。さやかさんのわけないよ」
顔を青くして亜衣は弱々しく言う。そんな亜衣を見つめながらさやかは淡々と言った。
「わたしよ。十二年前、秋祭のときの写真だわ。そうなんでしょう?」
「でも、十二年前って言ったら、私たちは二歳のはずだよ」
すがりつくようなまなざしでさやかを見つめ、亜衣はほとんど叫ぶように言った。
「そしたらさやかさんは年をとってないってことになっちゃうじゃない」
「うん。だって、わたし人間じゃないから」
さらりと言うと、亜衣は大きな目をいっぱいに見開いた。
「え……」
さやかはもう一度繰り返した。
「わたしは人間じゃないから、年をとらないのよ」
「武闘派なんですね」
「そうよ。わたしが唯一のね」
君彦は少し笑った。その後ふたりで黙りこくっていると、来客を告げるチャイムが鳴った。
「誰だろう」
首を傾げて立ち上がり、さやかは玄関へ向かった。扉の向こうに立っていたのは中谷亜衣だった。不意をつかれてさやかは驚いた。
「ごめんなさい。どうしても、さやかさんに訊きたいことがあって」
まだ学校の授業は終わっていないはずだ。それを、こんな時間に、こんな思いつめた顔で亜衣はここに来た。なんとなく察しがついて、さやかは彼女を招き入れた。
「お客様ですか?」
廊下と居間とのしきりのドアから君彦が顔だけ出す。
「うん。部屋にいるから」
「じゃあ、お茶を……」
「いらない」
かまわないでくれという意味合いを込めてさやかが返すと、君彦は意を汲んだらしくすぐに顔を引っ込めた。
亜衣を自室のベッドの端に座らせ、自分は床の上に正座して、さやかは「それで?」と亜衣を促した。
「何? 訊きたいことって」
亜衣は一枚のポラロイド写真を取り出した。無言のままさやかに差し出す。受け取ってそれに目を落とし、そういうことかとさやかは笑いたくなってしまった。
なんてことだろう。こんなものがあったなんて。それにしても亜衣はどこからこんなものを。
「そこに写ってるの、さやかさんなの?」
さやかは黙って亜衣の顔を見上げた。亜衣は真剣な表情でさやかの返事を待っている。
「そうね、これはわたしだわ」
「でもこれは十二年前の写真なの。さやかさんのわけないよ」
顔を青くして亜衣は弱々しく言う。そんな亜衣を見つめながらさやかは淡々と言った。
「わたしよ。十二年前、秋祭のときの写真だわ。そうなんでしょう?」
「でも、十二年前って言ったら、私たちは二歳のはずだよ」
すがりつくようなまなざしでさやかを見つめ、亜衣はほとんど叫ぶように言った。
「そしたらさやかさんは年をとってないってことになっちゃうじゃない」
「うん。だって、わたし人間じゃないから」
さらりと言うと、亜衣は大きな目をいっぱいに見開いた。
「え……」
さやかはもう一度繰り返した。
「わたしは人間じゃないから、年をとらないのよ」
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